| もう自分がどうすればいいのか、分からなくなってきた。 日番谷視点で、第7話 誰がいった? そうだって 俺はただの客だったと、今更ながらき気づいたバカな俺は、上着のコートのポケットに手をつっこんで、のそのそと歩く。地面に落としたマフラーは、汚れてしまったので巻いていない。首もとがすーすーした。 (どうすりゃいい) 頭の中の答えは、もう半分出ている。どちらかというとネガティブな方面に。(もう、会わなけりゃいい) どうせあっちは、彼女は俺の事なんて知りもしないんだ。一方的に、願って、名前を知って、勝手に、知り合いのような気になっていた。今までの自分を客観的に見てみれば、俺がもし他人だったなら、ふっと笑ってしまうような行動ばかりだった気がする。彼女に申し訳ないという気持ちと、それでもまだ、コンビニへと、のろのろ足を向かわす、諦めの悪い自分が、情けない。 (俺が好きだって思ったら、好きなんだよ) 松本の、イトコだか、幼馴染みだか、妹だったか忘れたが、そいつがすこし前、自分の恋は、ただ芸能人だか何かに憧れているだけだといっていた、らしい。それを聞いて、俺は思った。そう思ったはずだ。けれども、本当に、(俺こそ、そうだったんじゃないだろうか) だって俺は、彼女のこと、なにも知らない。 俺よりよくも悪くも、一つ年上の幼馴染みは、そうだと知っていたんだろうか。にやりと笑って、がんばれ! と背中を叩いたときも、俺がおそらく好きだといったこの妙に歪んだ感情を、分かっていたんだろうか(多分、分かってたんだろうな) そう考えると、本当に恥ずかしくてたまらない。くっ、と不覚にも、顔が赤くなってしまいそうだ。 もしかしたら、彼女も、そんな俺に分かっていたのかもしれない。毎回、ぶきっちょずらで、コンビニへと来る俺の事を、「妙なヤツだ」と思っていたのかもしれない。………いいや、きっと、分かっていた。 きっと分かっていなかったのは、俺だけなのだ。 冷たい風が、首もとを、ひゅっとかすめる。目の前の信号が青い。わたってしまえば、目的地はすぐそこだ。 ぐ、と何度も足を、地面に突き出して、そのままからぶる。ポケットの中に突っ込んだままの手を、ぎゅ、と握りしめた。 信号が点滅する。ぴっぴっぴっ それが戻れという意味なのか渉れという意味なのか分からなくてたまらなかった。 ぱっ、ともう一度風が吹いたとき、ふっ、と隣に影がはしった。自分に覆い被さった影は、そのまま真っ直ぐ信号の先へと突っ走ろうとする。思わず。思わず、反射的に、手を伸ばした。 ぎゅっ ぴんっと一本の針金のように真っ直ぐ張った腕と腕に、今更ながらにはっとした。 「あー、」 彼女が、声を落とす。信号が。そう、彼女が呟いたようにも、聞こえた。 「、さん」 勝手に、口が動く。もう一度、はっとして、彼女に聞かれてないか誤魔化そうと、でかい声をあげた。「あぶないだろ!」 聞いているのだろうか。聞かれてしまったのだろうか。 ふい、と彼女はゆっくりと俺を振り返った。 外で見る、彼女は俺は初めてで、なんだかほんの少し、いつもと違うような気がしたのは、きっとエプロンをしていない所為だと思った。思わずマジマジと見てしまった自分が、また恥ずかしくなって、ぐ、と唇を噛んでうつむいてしまう。繋いだままの手が、熱かった。 不思議なことに、コンビニの中で、あれだけ五月蠅かった心臓も、ひどく落ち着いて、とくん、とくん、と音がなるだけだ。ゆったりと落ち着いたような音に、思わず、ぎゅ、と彼女の腕を握りしめていたらしい。ゆっくりと俺は顔をあげて、彼女をみた、眉をひそめたような彼女に、また、はっとした。(そうだ、知らない男に、いきなり、引っ張られるだなんて、驚くに決まってる) 本当に。本当に、俺はどうしてしまったんだろうか。 ほんの少し考えればすぐに分かってしまう事なのに、まったくもって気づかなかった。けれども、握りしめた彼女の腕を放したくなくて、また、強く、握ってしまった。 (俺は、一体なんなんだ) ただの、客だ。それぐらい分かってる。 けれども俺は、どうすりゃいいんだろうか。 ぐるぐるぐるぐる、こんな気持ちを抱えてなきゃいけないんだろうか。いっその事、全部ほっぽり出せたら、どんなにいいんだろうか。そもそも俺は、(彼女の事を、本当に好きなんだろうか) 「なぁ、」 あなたの事が、好きですと、いえたら、どんなにいいだろう。 いい加減ばかばかしい気持ちが、どうしようもなくて、本当に、俺はダメで。 泣いてしまいたいだなんて女々しいことも思わないけれど、この独りよがりな、独り相撲を、どう終わらせるべきなんだろうと、 ふいに、彼女が呟いた。ぱくぱくっ、と唇の先が、震えたように見えただけかもしれない。見間違いかもしれない。けれどもまた、唇が動いた。「本当に、ごめんなさい」 それは随分かすれていて、聞き取り辛くて、本当に、そんな言葉を言ったのかどうかも怪しい。けれども俺の耳には、何故だかはっきりと聞こえたような気がしたのだ。 ぱっ、と彼女は握っていた俺の手をふりほどいて、そのまま信号の向こうへと走り抜ける。そのときまた、小さな、小さな声で、「いやな女で、ごめんなさい」 俺が彼女に謝られる理由なんてまったくないし、いやな女だと思う理由も分からない。謝る相手を間違えただけかもしれない。 向こう側へと走り去っていく彼女の背中だけを見詰めて、今更ながらに震えがはしる自分の体を、べしっと叩いた。帰ろうと、方向転換したのが、いけなかったのかもしれない。 それから俺は、コンビニで彼女を見かける事はなかった。 1000のお題 【131 駄目人間】 TOP 2008.05.10 |