プレゼントをどうぞ




がおかしい」

俺は新聞紙を片手に、食卓で優雅にコーヒーを飲んでいる父親に向かってじっと睨んだ。父は「ん、ん、ん」と言いながら喉にコーヒーを流し込むそしてトーストをかじり始めたところで、「なんだって?」と首を傾げる。少々動作がまったりしすぎているが、これでも自分の父親であり、笠井の男だ。彼も歴とした忍者であり、の母を守っていた。そう、守っていたのだ。

俺はもう一度、「がおかしい」と言いなおし、父親の正面の席につく。背負ったままのランドセルが座るには少々邪魔だ。

「昨日から家に帰るまでに7回だよ。大なり小なり、それだけ事故に遭遇した。正直、命の危機もいくつかあった。おかしい。確かに家は代々危機に陥りやすいけれども、ちょっとこれは頻繁すぎると思う。こんなの初めてだよ」

父はトーストをかじりながら、ふむ。と頷く。「それで、ちゃんに怪我は?」 そうだ、それが一番重要なところだ。俺は「なし。昨日までは」

「昨日?」
「さっき見に行ったら階段から落ちて足をひねったって」
「はー、ぶっそうだねぇ」
「……最後は自分のドジだと思うけど」
「なるほど」

そういう時期なのかもね、と父は言った。何のことだろう。俺はじっと父を見た。相変わらずさくさくと咀嚼している。そろそろ行かないと遅刻じゃないのか。「おとーさーん、ほら早くいかないとー」庭から母さんの声が聞こえる。ほら、やっぱりだ。それでもマイペースな父は気にすることなく新聞を読み進めた。

「僕は、今、ちゃんのお母さんの護衛をしていないね」
「うん」
「つまりそういうことだよ」

どういうこと?
ランドセルをぐりぐりと椅子に押しつける。
居心地が悪い。

「まだだと思うけれど……気をつけなさい」
「よくわからないけれど、いつも気をつけてるよ。それが笠井家の役割だろ」
「うん、そうだね。でも気をつけて」

ちゃんを守るのは、竹巳の役割だから。
そう父親は締めくくった。そして「おとうさん、さっさと行きなさい!!」という母さんからの雷に、やっとこさあわあわと新聞紙を直し、へろへろのネクタイを結びなおし鞄を持ち玄関へとどたどたと移動し始める。「竹巳、学校は。ちゃんと行くんだろう」 慌ただしく革靴を履き始める父親をしり目に、いいやと俺は首を振った。「、結構盛大に足をひねったらしくって、今日は休むって」

そうか、と父はドアノブに手をかけた。そして僅かにそれを開きながら、息子を振り返る。

「だったら今日は、なるべく早めに学校から帰って来た方がいいね」

言われなくても。がちゃん、と扉が閉まる音を聞きながら、父親にならい、こちらも母親からの雷が落ちないようにとスニーカーに足を通した。






思いがけないお休みが降って来た。

私は足首にしっぷを巻きながら、ぼけーっと天井を見る。階段で足を滑らせただけだし、別にこれくらい。と思うのに、真っ赤にはれていく足首を見て、お母さんは今日は休みなさい、と私にデコピンをはじいた。このおっちょこちょい。とぷんぷんしていた。

ぼけーっとしている。することがない。

そういえば、昔はよく、こうして怪我をしていた気がする。私っておっちょこちょいなのかなぁ、と思ったけれども、いつのころからか怪我をすることはなくなった。いや、ぎりぎりセーフ、という状況が増えたような気がする。(……あ、もしかして) 忍者さんが守ってくれてたんだろうか。いいやぁ、そんなこと。と思うのに、むくむくとその可能性ばかり膨らんでくる。

(プレゼントか……)

俄然やる気が湧いてきた。結局、お店に行っても何も買うことができなかったけれど、そうだよくよく考えれば、何も買ったものじゃなくてもいいのだ。手作りのお菓子でも、マフラーでもいい。

「おかしはまずいかなぁ……」

いつ渡せるかわからないし、と私は足をずるずる引きずりながら、「おかーさーん」と声をかける。マフラー。いいかもしんない。寒くなる時期ではないけれど、別に急ぐ必要もない。「編み棒、どこ置いたっけー」 母親からの返事はない。

おかしいな? と首を傾げていると、テーブルの上にメモを見つけた。お買いものに行ってきます。と書かれた文字は母のものだ。そうかー、と私は頷き、また自室へと戻ろうとする。そうしたとき、玄関から扉が閉まる音が聞こえた。お母さん、忘れ物かなぁ、とひょこひょこ歩く。編み棒、編み棒、と頭の中はマフラーでいっぱいだ。


この頃、なんだか変だな、と思う。道を歩いていたら、頭からガラスが降って来たこともそうだ。さすがにあんなの初めてでビックリしたし、昨日の帰りなんてひどかった。人よりもちょっと事故やらの遭遇率が高いのは知ってるけれど、あればビックリだ。
(そういう日だったのかなー)

なんだっけ、厄日だったっけ。

「おかーさーん」

ひょこひょこ。ドアを開けて、廊下に顔を覗かせる。がた、がたがた。妙に慌てたような音が聞こえた。どうしたんだろう、と思って、玄関ドアを見た。

そこにはどう見てもお母さんじゃない、複数人の男の人が、固まった表情でこちらを見ていた。





  


1000のお題 【744 お宅訪問】

2010.12.17