テッドがいる。この事実だけでお腹いっぱいである。彼は無言で立っていた。寒そうに真っ赤なパーカーを羽織って、でっかい看板を持っている。一時間ドリンク飲み放題。どうぞおいでなせ。
ネカフェの宣伝とかどんだけ馴染んだんだというか派遣は辞めたのだろうかというか青い服じゃなくていいのか。そこにポリシーとかなかったのか。
店の制服なら仕方ないのか。



     




わふわふ、と行う犬の散歩は最強である。犬さえいれば、毎回通る不審人物も、ただの散歩者である。私のことである。
(話したい……)

本音を言えば話したい。しかしそれをする勇気があるなら、初めから落っこちてきたときに拾って部屋で囲って育ててボーイミーツガールをしとるわ。でもできんわ。私の部屋は弟と同居だったわ。そもそもそんな経済力なかったわ。


テッドはあくびをしながら、大きな看板を揺らして、道行く通行人をぼんやり見つめている。
ゴミ捨て場に落ちていた姿をそのままほっておいた罪悪感も吹っ飛んでいく生命力である。

(ところで、テッドって外国人なんだろうか)

名前は外国人だ。でも見かけはどうみてもちょっと色素の薄い日本人だ。(テッドって名前は、不審すぎる……) 冷静に考えると彼の名前は日本では若干厳しい。気になる。彼と目が合わないようにと足元からじりじり胸元まで視線を移動する。やっぱり名札はない。ですよね。

そもそも、彼は本当にテッドなのだろうか。気の所為なんじゃないだろうか。
さすがにそろそろ足元のトイプーがはよ散歩進めやとマジギレでうなり始めている。テッド(仮)の視線がこちらに来る前に逃げた。「おーい」 逆方向に、同じような赤いパーカー男子が近づい通り過ぎる。すでに友だちもできているのか……と視線を細めながら、いや見るまい、と首を振った。そろそろ不審者。「おーい、テツー、そろそろ交代だぞー」「ういーっす」

「ブッフ」
思わず鼻を摘んで目をつむった。鼻から出てはいけない音がでた。
聞き間違いなのだろうか。「なあテツ、今日寒くね?」「いやー、こんなの序の口っすわー」「マジで? お前どこ出身よ。北なの?」「ココらへんじゃないっすね」 聞き間違いではなかった。

「わふう! わふわふー!!!」
「アッ、ごめん……行く行く……すまんすまん……」

日本風にアレンジは終了済みでした。


2016/10/03
back