*オチはありません。超短い。
*題名そのまんま。
*主人公は夢小説をたしなみます





     







「……えっ」

え、え、え、と私はただただ同じ言葉を繰り返した。わんわんわん、とリードをつないだ飼い犬が吠えている。「こ、こらこら」 ぴん、と私はわんこのリードをひいた。げふっ、とうちの犬はひっぱられて、うんうん顔をうならせたあと、くんくんと“それ”の匂いをにおっている。「や、や、やめなさいったら」

とにかく落ち着かせようと背中を撫でながら、自分自身の動揺を隠した。少年が、ゴミ捨て場に転がってる。ゴミ袋の真ん中で、ぽいと濃い布靴を履いた足をほっぽり出して、首元には真っ青な布がぐるぐるだ。茶色い髪はくしゃくしゃで、ほっぺは泥だらけ。(テッド) 私はこの人を知っている。
ぼふん、と妙な爆発があった。そうして慌てて見に行けば、彼がごろんと寝っ転がって、目をつむっていた。


夢小説の逆トリップ。
一瞬この言葉が浮かんでしまったわけだけれども、いやいやいや、と首を振った。そんなわけない。「こ、コスプレ、コスプレ、こすぷ……れ?」 のわりには再現率が高い。誰を驚かしたいのか知らないが、爆発まで再現するとは、なんとも命知らずで最高だ。ははは、と私は苦笑した。首を振った。そんで額に手のひらをおいた。「これは……」 どないすればええですの?

色々と考えた。
考えて考えて考えた結果。



私は彼を無視することにした。いくよーいくよー、とずるずるわんこを引きずって、現実から目をそむけた。けれどもやっぱり気になって、わんこのトイレの掃除をしつつ、ちらちら後ろを振り返る。あ、立った。

きょときょと、とテッド(仮)さんは辺りを見回して首を傾げた。気づいたらそのままどこかに行ってしまった。「おおう……」 行っちゃいましたわ、と頷いた。はやく家に帰ろうと犬が主張している。「行っちゃいましたわ……」


心持ち、ちょっぴり選択をミスったような、夢小説の主人公さん方のごとく勇気を持って彼に話しかけて交友を結ぶべきだったんじゃないかな、と後悔したのは、パソコンのブックマークをかちかちいじっていた瞬間である。

まあでも仕方がない。毎日通り過ぎるゴミ捨て場を見つめて、私は一般人にはこんなもんだと頷いた。散歩に行こうぜとうちの犬が主張する。



   ***



「どうぞ」

そうして暫くたったある日、差し出されたポケットティッシュを見つめながら、私は暫く固まった。
ぼんやりとした顔つきで、彼はこっちに手のひらを差し出した。私は頭を下げて受け取った。裏を見れば、コンタクトの割引券つきである。「ありがとうございまーす」 お礼の言葉を聞きながら、そそくさ、と私は去った。そして振り返った。どうぞー、とティッシュを配っている。


(普通にバイトしとる……!!!)

超なじんどる。なじんどるぞ、と私は心の中のツッコミを繰り返して、ごそごそ上着に手をつっこみながら早歩きで逃げ去った。そうして家に帰って頭を抱えて転げまわった。逆トリップフラグ、むずかしい。






2012.12.17
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