幻水学パロです。
半分坊ちゃんとテッド、半分2主。
坊ちゃんのことお兄ちゃん呼びとかしてます注意。




【幻パラ!】



私にはご近所さんがいる。

「おーい、おにーちゃーん、テッドくーん、おーはーよー」
お前朝っぱらから大声出すなっていってんだろー!?」
「テッドくんこそ大声ですよほほーい」
「うるせほほほーい!」
「テッドとは朝っぱらから仲がいいよねぇ」

はっはっは、と言いながら玄関から登場したのはお兄ちゃんだ。お兄ちゃんと言っても別に本物の血のつながったお兄ちゃんと言う訳でもなく、イトコだとか親戚という訳でもなく、ただたんに昔からご近所にいる一つ年上のお兄さんだ。お兄ちゃんは黒い詰襟をいつもきちんと着ていた。その隣でだらだら歩くテッドくんはお兄ちゃんと比べればだらしない格好だけれど、比較的真面目な方だろう。


「あーあ、とうとうもなー、俺らとおんなじ高校生だもんなぁ。月日は早いことですな」
「テッド、おやじくさいよ」
「うるさいわい」


テッドくんではないが、月日は早いものである。数年前、中学生一年生だった私と、同じく中学二年生だったお兄ちゃんの元に、テッドくんがやってきた。お兄ちゃんのお父さん、テオさんが連れて来たらしい。それからというもとテッドくんはマクドール家で暮らすことになった。

なんでテッドくんがマクドール家に来たのかとか、そういう理由は知らないし、いくらご近所さんだからと言って訊いていいことでもないだろう、と思ってなんとなくそのままスルーしている。そんなこんなで色々ありつつ、三年間。晴れてお兄ちゃん達と同じ高校に受かった私は花の女子高生となり、一緒にご登校となったのだった。

「まっさかがうちの高校受かるとはなぁ。また一緒に登校再開ってなると思わなかったぜ」
「言っときますけどテッドくんが通ってる高校だからね。余裕ですよ。っていうかテッドくんが受かったことの方が私はびっくりだけどね!」
「血反吐を吐いて頑張ったんだよ俺は! 努力を認めろ!!」

勉強で血反吐を吐くレベルとは相当である。冗談だろうと言いたいところだけれども、テッドくんの受験時期はお部屋の明かりが消えることなく灯り、ときどきテッドくんの叫び声が聞こえたのはご近所では周知の事実である。多分叫ばせていたのはお兄ちゃんで文字通りのスパルタ特訓に励んでいたのだろう。

(まあ、一番近い公立高校だもんね。テッドくん、なんだかんだいって気にしいだからなぁ)
マクドール家がお金持ちであることは使用人さんを何人も雇っていることから丸わかりだけど、それでもテオさんの負担になりたくなかったんだろうなー、とうんうん頷いた。


「ぼっちゃーん! テッドくーん! 待ってくださーい」

そんなときふと背後で聞こえた声に振り返ると、グレミオさんが金髪の髪をはたはた揺らしながら、つっかけを履いてエプロンを胸につけたままこっちへ駆けてくる。エプロンが可愛いにゃんこのプリントがはられているところを凝視して、私は思わず思った。お、おかあさん……。

「テッドくんったらお弁当忘れてますよ、もう」
「うあっ、グレミオさんすんませーん!」
「っていうかグレミオ、外で坊ちゃんっていうのはそろそろやめてくれないかな……」

珍しくお兄ちゃんが恥ずかしげに頬を染めた。そんな彼を見て、グレミオさんはほんの少し不満げに頬を膨らませ、「何を言うんですが! グレミオにとって坊ちゃんは一生坊ちゃんです! お嫁さんを迎えてもおじいちゃんになっても坊ちゃんなんですからね!!」 坊ちゃん根性である。

グレミオさんとはずっと前からマクドール家の使用人の男の人で、さしずめお兄ちゃんのお母さんがわりの人なのである。
男の人だけど。

グレミオさんの返答に、あ、そう……とお兄ちゃんは力なく肩を落として、グレミオさんにへこへこ頭を下げ続けるテッドくんの肩をわしずかみ、ずるずるとテッドくんをひっぱった。

「行ってらっしゃいませー、ぼっちゃーん」とグレミオさんが元気よくお見送りしている声が聞こえる。お兄ちゃんがやっぱりちょっと頬を赤らめながら、「だから坊ちゃんはやめてくれよ……」と小さく呟いた。

「そういえばお兄ちゃん」
「ん?」
「今日は私の入学式な訳ですが」
「うん」
「登校時間、おんなじでいいの?」

もっと遅くでいいんじゃないの? というようにテッドくんとお兄ちゃんを見てみると、お兄ちゃんはにこっと笑って、「そうだねー」と笑っていた。よくわからない。






新しいクラスとは、なんともわくわくどきどきするものである。お兄ちゃん達と別れて自分のクラスを確認したあと、これから一年間お世話になる教室にひょこっと顔を出させてもらった。「おー」 すでに随分な生徒が登校して席についている。私も座った方がいいかなー、と思いつつ、これは一体どういう順番で座ればいいんだろう、適当でいいのかなー、と腕をくんでうんうん唸った。

そうしているとき、誰かが私の肩をつんつん、とつついた。「はひんなひの?」一緒に聞こえた声に、何をいってらっしゃるのだろう、と思い振り向いてみれば片手にパンを持ってふがふがしていた、濃い茶の髪の男の子が首を傾げていた。「はひんなひの?」「……あっ、入ります入ります」

「そふぉー」と男の子は相変わらずもごもごしたまま私の目の前を通り、呆然と立ち尽くしている私を見て、ごっくん、とパンを全部飲み込み、「自由席だって。黒板に書いてるよ」と人懐っこいような笑みでにかっと笑う。「あ、ありがとー」

それじゃあまあ適当に、と近場の席に腰を下ろさせてもらうと、男の子も私に倣って隣の席に腰を下ろした。なんとなく話しかけるべきだろうか、とドキドキする私の葛藤も知らず、茶髪の男の子は、「僕、よろしくー」とやっぱり人懐っこい笑みを浮かべたのだった。「ですよろしくー」


「ところでくんは何で今ご飯食べてるの」
「そこは色々と深い事情があるんだよちゃん」





「担任のフリックだ。担当は体育。よろしくなー」

青いネクタイを閉めたイケメンの先生に、クラスの女子がわーっと湧いたことに、おおお、と体を小さくした。先生若いなー、と思いつつ隣で無心にパンを食べていた(ちなみにメロンパンである)くんは早速先生に注意されていた。「おーいー、腹が減ってるのは分かるがとりあえず我慢しろー」「ふぁーい」「口からパンを出せー」「ふおーい」

これから一年このメンツかー、と思いながら、何気なく窓の外を見た。一階の教室だからグラウンドまですっきり見渡せる。幾人かの生徒が体育館に向かっている姿が見えた。多分先輩たちだろう。その中に見覚えのある茶髪が混じっていて、パチリと瞬きを繰り返してしまった。

するとあっちもこっちに気付いたのか、ばたばたと手を振ったあと、体育館を指差す。そして両手をハッ! と左右に開き、無駄に外国人ジェスチャーをする。……何を、やっているんだろう、テッドくん……。「ちゃんどこ見てるの」「ちょっと知り合いが不審な動きをしてて」



取りあえず入学式である。卒業式とはちがい、周りがおしゃべりの声でいっぱいだ。うーむ、フリーダムだ、と女の子の列の中でぼんやり腕を組んでいると、唐突に周りがピタリと静かになった。何があったんだろう、と檀上を見上げてみれば、見覚えのある黒髪男子がマイクを持って微笑んでいる。「かっこいいよねー」という声に、お兄ちゃん……! とあいた口がふさがらない。なんでそんなところにいらっしゃるか!


「生徒会長、・マクドールです。あまり難しい挨拶をしても眠くなるだけかと思いますので、一言で締めくくらせてもらおうかと思います。みなさん健康に、元気に学園生活を楽しんでください。入学おめでとう」

お兄ちゃんはもう一度にっこりほほ笑んだ後、頭を下げて袖へとひっこむ。「イケメン……」「イケメン生徒会長……」なんて声が周りでぼそぼそ聞こえる。お、お、お、お兄ちゃんすげぇ……!



「なんで言ってくれないのおにーちゃーん!」
「あはは、ビックリすると思って」

「したよ!」思いっきりしたよ! とお兄ちゃんにチョップを向けると、お兄ちゃんはハハハ、と爽やかに笑いながら片手でそれを受け止めた。その隣ではテッドくんがゲラゲラ笑っていて、「だから俺言ったじゃん。体育館でに会えるぜって」「言ってないよ」「ほらジェスチャーで」「わかんないよ!」 無茶言うなや!

テッドくんは鞄を後ろに持ちながらてこてこ帰宅へと道を歩く。そうか、お兄ちゃんは生徒会長だったのかー……だから早く家を出てたのかー……と納得する半面、ハッともう一つ気づいてしまった。

「テッドくんもお家をはやく出てたよね、ということはまさかテッドくんも、せ、せいとか」
「いや俺はただの野次馬」
「うん、テッドはただの暇人」
「この、おばかー!」

ややこしいわ! 思わず鞄を地面に叩きつけたくなる衝動を我慢した。むっつり頬を膨らませていると、お兄ちゃんはケラケラ笑って私の頬を人差し指で突き出した。ぷすーっと言う音とともに私のほっぺたが膨らんでいく。「クラス、お友達ができそうだった?」

私はむっつりした表情のまま、ぼんやりパンをもそもそ食べ続けていた男の子のことを思い出した。「まーね! もう高校生ですからね! 彼氏の一人や二人作ってやる勢いで行っちゃうしね!」「はっはっは、面白い冗談だなぁ」「なんでそれが冗談になるのか教えてくださいテッドくん」

ジョーダン、ジョーダン、とテッドくんは両手を横に広げた外国人ジェスチャーをしてケラケラ笑った。何故だかとても腹が立ちました。






くんはいっつもご飯食べてるよねー。そんなにお腹減ってるの?」
「そふぉはふふぁい事情がありふぁして」
「それは前に聞いたよ」

本日のコロッケパンを召し上がりながら、くんはぽろぽろ机の上にパンのカスをこぼしていた。取りあえず私は無言で机をティッシュで拭いてゴミ箱にシュートする。ナイス!
とりあえず私は次のゲド先生の化学のノートを自分の机に出しておく。

「僕ってさー、大食いなんだよねー」
「うん知ってる」
「いや人並みな大食いなんだけどさー、家じゃ小食ってことになっててほとんど食べれないっていうか」

ンン? よくわからんぞ? と眉をひそめた瞬間、くんは普段のとろけた顔を引き締め、ハッと顔をあげた。口元についたパンカスを親指でふきとることなく立ち上がり、「僕はいないってことにしといて!」と叫びながら窓を開け、窓枠に足をかける。

そして飛び降りた瞬間、「ナーツー!!!」 がらがらがらーん! と勢いよく教室の扉がスライドして壁にぶつかった。


なんのこっちゃ! と目をぱちくりすると、くんと同じような髪色で、短い髪にピンクのカチューシャをつけた女の子がおろおろと教室見渡す。そしてこそこそ教室の中に入り、くんの席の前へと足を進めた。「あ、あのー、はどこにいったか知りませんか?」「え、あ、はい。えーとわかんないですごめんなさい……」

窓から逃げ出しましたとはとても言えない。
あからさまにしゅんとした女の子に、私は思わず訊いてしまった。「あの、どちら様でしょうか?」

「あっ、はい! の姉のナナミっていいます! のお友達?」
「はい……」
「だったらこのお弁当、あとでに渡しておいてくれるかな? あの子ったらお弁当忘れちゃって……」
「わかりました」


よろしくねー! とナナミさんが消えたあと、いつの間にやらひょっこりとくんが私の背後に立っていて、「おそろしい……」と一言呟いた。

「あ、くんお弁当、お姉さんから」
「僕の命日は今日かもしれない」
「いきなりどうしたのくん」
「がんばりますいきのこります」
「だからくんどうしたの」

くんはしゅるしゅるとピンクの可愛らしいお弁当の包みをほどき、うさちゃんお箸をちゃきっと装備する。といいますかくん。「くん、そろそろゲド先生の授業が始まっちゃうよー」「いただきます」「きいてないね、もういいけどね、うん」

くんはナナミさんのお弁当を一口、口にするとぷるぷるぷる、と全身を小刻みに震わせた。お箸を口につけたまま震える少年を見て、「そんなにおいしいの? くん」「天国が見えるほど」

外ではフリック先生の体育の授業が始まったらしい。「はーい、準備体操をしてー」と笛を鳴らす先生の声が聞こえる。そんな中、「きゃー!」という女の子の歓声が聞こえて、一体なんだろうと隣で震えるくんに訊いてみた。

くんくん、女の子が悲鳴上げてるよ」
「ん? んー、えー、3組の体育かー。僕幼馴染に聞いたんだけど」
「うん」
「3組には王子様がいるらしいよ」
「うん?」
「なんだか銀髪さらさらの美少年なんだって」
「へー、名前は?」
「…………王子…………?」
「それは多分名前じゃないね」

へー、王子様かー。すごいあだ名だなぁ、と窓を見ている私の隣では、あいかわらずくんがお箸を咥えたままぶるぶる小刻みに震えていた。
チャイムが鳴り響いたと同時に白衣を着たゲド先生が、くんを見て、「…………、授業中にものを食べるな……」と静かに注意すると、他のクラスメートがびしりと手を上げ、「先生くんがうごきませーん」

「……ん、そうか。、保健室に行くか?」
「せんせー、くんが白目むいてまーす」
「とりあえず保健室に連れていけ」




2011.03.02
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幻水学パロ美味しすぎでしょう。しかし連載を書ける根性がないなー、と思っていたのですが、短編一発ネタでいいじゃんおいしい! ということでハイテンション失礼します。坊ちゃんがお兄ちゃんとは激しく漲ってまいりなした(カッ)
4様がギリギリで入らなかった。しまった。