*ただ坊ちゃんに届け物を続ける青年の話
*短い。雰囲気SS






うまい酒にちょっとの肉。ついでに人気の書物に野菜やもろもろ。
「…………あー、くっそ」

めんどくせえな、と溜息をつく。グレッグミンスターから距離をおいて、中途半端に遠い場所に構えた彼の家の扉を、俺は蹴り飛ばすようにノックした。「はーい」 明るい声がする。がつがつがつ、と蹴りあげた。「こらこら、扉が壊れるったら」 呆れ声と一緒に開けられた扉の向こう側で、彼は苦笑しながら笑っていた。

「家に来るときは蹴らない。、いっつもそう言ってるだろ?」
「うるせえっす、マクドールさん」

こちとらクソ重てぇ荷物を抱えてるんス、と溜息をついた。少年はどさりと俺が置いた荷袋を嬉しげに見つめて、座り込んだ。「お、毎度毎度、ありがたいね、太っ腹」「金払え」「意外とケチだね」「慈善事業は嫌いッス」


はいはい、ちょっと待っといて。そう言いながらそそくさと消えて行く英雄の背中を俺は見つめた。
     人嫌いの英雄、・マクドール

月に一度、へえこらため息をつきながら、そいつの家をノックしに行く。金と一緒に、頼まれた荷を交換する。そんな仕事を、彼から頼まれてる。



   ***


こう言うと、まるで暇やヤツか何かだと思われてしまいそうだが、別に荷運びを生業としている訳ではないし、ただの知り合いからの頼まれごとを律儀にこなし続けているというだけだ。たまの休みをわざわざ男のために使う自分は、やっぱり暇なやつなのかもしれない。子どものような見かけのくせに、「相変わらず、の目はいいなあ!」とワインのボトルを抱えるマクドールを白い目で見つめた。

「飲んでく? 二十歳はこえてるでしょ」
「あたりまえっしょ」

まったく、やってらんねえ。そう嘆息してどっかとテーブルに座り込むと「きみ、ちょっと態度がでかすぎない?」「言っとくけど、見かけは俺の方が上っすから」 マクドールさん、なんて敬語を使うのも、少々妙な気持ちになる。別にいいけど、と彼は口元を尖らせて、「はいはいどうぞ」と蓋を開けてコップに注がれた赤いワインに口をつけた。

「忘れてました」
こっちもお届けものッス、とポケットの中から手紙を取り出して彼に渡した。数枚の封筒を手にして、嬉しげなくせに、少しだけ困った顔をして彼は笑った。「たまにはグレッグミンスターに来たらいいんじゃないスかね」 そうしてくれると、俺も楽できて嬉しいんすが、と城であせくせ資料を片手に追いかけている自分の身を嘆くような素振りで、俺ははたはたと片手を振る。

「うーん」
「まあいいっすけど。男2人の酌は、ぶっちゃけ悲しいっすわ」

甲斐性なしのマクドールさん、と適当に呟くと、「あのねえ」 怒ったような声だ。「俺だって、待ってくれる女の子の一人くらいね。俺って悪い男だし」「いってろ」
ガキみたいな顔して、よくいいますわ、とへらへら笑うと、彼はかりかりと首元をひっかいた。「っていうか、きみ飲み過ぎだろ。俺の金だぞ」「手間賃っすわ」「ほんとにちょっと、態度がでかいな」



   ***


ごんごんごん、と相変わらず俺はドアをおもいっきりに蹴りあげた。「おいこらやめろって言ってるだろ」 開けられた扉向こうの少年に、アホのように重たい荷物を押し付けた。「おわっ」とマクドールさんは目を開いて、「ちょっと奮発しすぎじゃない?」 どれだけ詰め込んじゃってるの、とびっくり半分、ついでに呆れで荷物をテーブルの上に置く。

俺はぜえぜえ座り込んで、「祭りっすよ、祭り。街中ぎゃーぎゃー騒いでんの。だからその祝い酒」「あ、ほんと? 何の日だったかな」「大統領引退、ついでに交代」 新大統領に祝福を、と棒読み半分、拳を振ると、ああ、とマクドールさんは頷いた。

「レパントも結構な年になったしな。そうか、そういや手紙で何度も催促があったな」

おめでとう、新しい大統領にがんばれよって伝えといてくれよ、と律儀に言葉を返す少年に、俺はへいへい、と頷いた。「まあどうでもいい話っすけどね」「冷たいな」「別に俺がなるわけでもねーし」

そんなもんかね、と苦笑して金を渡す彼を見て、ふと俺は瞬いた。「そういやマクドールさんて、いくつになりましたっけ?」 ん? と彼は首を傾げた。

「40は超えたかなあ」
「ですよねえ」

こっちの背はどんどん伸びて、ついでにいつの間にか彼を見下ろしているのに、彼はいつまで経っても変わらない。「なんつーか、クソみたいに笑えますねえ」と、俺が正直な感想を言うと、マクドールさんはげらげら笑った。
まあ、いつもの話である。


2012.11.17
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裏設定。どんな設定でも怒らない、ついでに蛇足でも構わないという方のみ→(主人公は、ただのナンパ男連載、シーナと主の子ども。あとナンパ連載は不幸せ連載と同一世界