| ここまで来たのなら………! と自分は腹をくくったのでした。 第35話 そろそろ最終手段 ふふふ、と長い髪を揺らしながら、楓さんは微笑む。「何を笑っているんですかね」とぴらぴらスカートを両手でばさばさと上下しながら、半分やさぐれながら声をかけると、「だってさん面白くて」と彼はうふふ、と口元へと手のひらを当てた。 何がですか? と自分が首を傾げるのと同時。楓さんは口元をくいっと吊り上げて、幸せそうに 「まるで女装みたいで」 「女装じゃないですよ!?」 学校へ侵入してもダメだった。家の中で、逐一見張っていてもダメだった。 それならば、とぐっと拳を握り締めて、自分はうんうんと頷く。しょうがないんです。ご主人さましょうがないんです。ぶっちゃけ楓さんに唆されちゃったんです! と心の中で、その言葉を何度も繰り返し、只今自分は、 「うわ! つったってたら危ないよ」 「ご、ごめんなさい!」 見失わないように、とパタパタと走る。銀の髪の毛を探そうと、ぎょろりと瞳を動かした。(いました!) 彼はぼうっとしたように、ズボンのポケットへと手をつっこんで空を見上げた。相変わらず、目立つ髪色に、すっとした背格好は、とっても分かりやすい。 分かりやすくてよかったなぁ、とため息をつきながら、うんと足を進める。 橘剣之助、尾行中。 なんてことなんでしょうか。重い頭にもそろそろなれて、いつもとは違う黒髪が、自分の目の前にばさばさばさ。スカートも一緒にばさばさばさ(ご主人さまごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい………!) 断じて、断じて自分には、人様の後をつけて喜ぶ趣味などありませんが、いつまでたっても収穫のない状況に、「こうなったら自棄ですよ!」とぐいっと拳を握り締める。 橘剣之助が、なぜ一人暮らしを始めると言い出したのか突き止める、それが私の任務なのですから! そんな風にお空へとキラリと瞳を光らせている間に、ご主人様はどんどんと離れていたらしく、おっとっと! とタカタカ足を動かした。 迷いのないご主人様の動きに、一体どこへと向かわれるんだろう? と首を傾げながらほぼ数分。見覚えのあるお店の前へと、彼はピタリと足をとめ、あたりをきょろりと見まわした後、たかたかと中へと入る。 「…………問屋さん?」 たしかマグロを持った店員さん。 一度見まわしたお店の風景を思い出しながら、怪しさ満開に、ちょいと電柱に顔を寄せつつ様子を見てみても、待てども待てども反応のない。自分はハー、と短い溜息をつき、「無駄足無駄損ですねぇ」となんともさみしい言葉を呟いた。ついでにいうなら、無駄に根性も使いました。 もうさっさと家に帰ってしまおう、またいつかチャンスもありますよ、と自分に言い聞かせ、肩を下ろし、とぼとぼと歩いた瞬間です。 「お」 聞きなれた声に、ふと振り返ると、ちょうどお店から出てきたらしいご主人さまが、きょとんとした瞳でこちらを見つめていた。「…………!」 声にもならない声が自分の口から溢れそうになり、見てません見てません気づいていません、と激しく早足で去ろうとしたとき、ご主人様が、「確か」 びくり。 「アイツの妹の、だったか?」「そうですそれですそうなんです!!」 自分は一体何をしているんでしょうか。 ぼんやりとベンチに腰掛けながら、ずるずると缶コーヒーを啜るご主人様をちらりと横目で見つめ、うう、と情けない溜息をひとつ。 静かな公園は、中々にさみしいものなんだな、とふと頷く。 「………嫌われてるんだっけ、お前」 「え、あ、はい!?」 何のことですかね!? と頭の中をぐるぐる回る思考に、ご主人様はほんの少し言いづらそうにぼりぼりと頭をひっかく。「その、お前の兄貴に」 気を使ったのか、一瞬合わさった目は、ぐるりと逸らされてしまい、あ、そういえばそんな事も言ったような気がしないでもないような! という情けない記憶に、自分はコクコクコク! と勢いよく頷いた。 『、私のこと嫌いなんで、私がここに居たっていわないでくださいね!』 そんなセリフと共に逃げた自分の約束を、彼はきっちりと守ってくれていたのだ。(う) キリキリキリキリ。あまりの申し訳なさに、胃が、キリキリキリキリ。 そんな自分が、罪悪感にさいなまされているときに、ご主人様は気まずさを誤魔化すようにか、缶コーヒーへ口をつけながら、「別に、嫌いとか、んなのないんじゃないか。アイツ、なんかぼーっとしてるし」 ふぉ、フォローまでしてくださっている………! 「う!」「………なにしてんだ」「その、胃が、」 まぁなんていうか、がんばれよ、と頂いたお優しいセリフに、本気で泣きそうになりました。 うあああああ、ごめんなさい………! ← ■ → 2009/03/05 |