re/ject

「あいつは、さいぼーぐだ………」

ガイは、自身の使用人を見下ろしながら、一呼吸置いた。そして、
「……は?」


 実は目が光ってる 





「サイボーグだ……」

ガイラルディア・ガラン・ガルディオス宅の執事は、長い髪の毛を束ねながら、ブルブルと部屋の端っこで震えていた。名前は。ガルディオスの親友でもある。「おい、……」 ガイは困り果てながら見下ろした。「あいつは人の皮をかぶったサイボーグだぁ……」 何回聞いても、気のせいじゃないらしい。うーん、とガイは首を捻った。目の前の青年、は、普段は物怖じしないと言えばポジティブだが、常に失礼千万、態度もでかく、ガイが相手の使用人でなければ、とっくの昔にクビになっている男である。もちろん、相手がガイだからこその横柄さだが、それはさておき。

「おい、? 客が来ているから給仕を……? …………おい、?」
「その名前で呼ぶなー!」

うあーん! と両手を振り上げながら、は立ち上がった。なんてことだ。ガイはぽかんと瞬きを繰り返した。が、この“女名”を嫌がるなんて、初めてだ。


は整った顔をぐにょんと歪ませ、唐突に立ち上がった。「あいつが来るだろぉー!」 何やら意味の分からないこ言葉を叫び、「コノヤロー!!」「な、なんでそこで俺の尻を叩く……」「こ、これっ、ガイラルディア様に何をするっ!」 ひょい、と厨房に顔をのぞかせたペールギュント、老齢の使用人に、怒られ、しょんぼりしつつ、彼は顔をきょろりと見回し、ハッとさせた。そして火のついていないかまどの中に勢い良く飛び込むものだから、ガイもペールもぎょっと瞬く。

そこへコツコツコツ、と足音を立たせながら、一人のツンデレおじさんがやって来た。「おや」「ああ、旦那」

「いつまで経ってもやってこないものですから、少々無作法をしました」
「いや、こっちこそお待たせして、すまなかったよ」
「何を言ってるんです、私とガイの仲じゃないですかぁ〜」
「仲はとにかく、旦那は部屋に戻っといてくれ」

ガイったら、いけずですねぇ、と言いながら消えていく青い背中をちらりと見つめ、ガイは長い溜息を吐き出した。同じくペールも首を振る。「行ったぞ」「ほ、ほんとかっ」 かまどの中から、顔をススだらけにする使用人を見て、なんだか苦笑してしまいそうになった。

、お前、ほんとにジェイドの旦那が苦手なんだな」
「そりゃそうだよ! だって、俺のこと、一発で男だってわかったんだぜ!? 信じられねぇー、あの目は絶対ロボットだね。夜になったらピカピカ光るぜ」
「俺は結構長く旦那と旅をしてきたが、そういうシーンには出会ったことはないなぁ……」
「うまく隠してんだよ! そうじゃなきゃ……」

は口元を押さえ、ハッとした。「まさか、よ、妖怪……」「誰がですって?」「うぎゃわー!!!」
激しく飛び跳ねるの背後に、いつのまにやらひょっこりジェイドが立っていた。その上、ひょい、と顔をのぞかせ、にんまりさせながらを見つめている。
はパクパク、魚のように口を動かし、次第に顔は真っ青に、青を通り越して真っ白になり、涙目になった。最後に、ははは、と付け足しのように笑った。同じく、ジェイドもにっこり微笑んだ。お互い微笑み合い、首を傾げあった瞬間、は即座に大股で逃げた。その後ろをジェイドが追う。走って逃げる。早歩きで追いかける。

腰の後ろに両手を回し、にこにこ微笑みながら追いかけてくるサイボーグに、は泣いた。マジ泣きした。「あああああ、あっちに行ってくださいよー!!!」「逃げられると、追いかけたくなると言うじゃありませんか」「追いかけられると、逃げたくなるんですよぉー!!!」


うあーん、勘弁してよぉ! と遠くで聞こえる友人の泣き声を聞き、にも相性の悪いものがあったんだなぁ、とガイラルディアはなんとも奇妙な気分で、ううん、と首をかしげて唸った。そして取り敢えず、がんばれー、と拳を握って、友人に心の中でエールを送っておいた。






2012.01.10
1000のお題【7 人間は本当に怖い時、笑うしかないんだ】