「今日は、晩ご飯何作ろうかな」


その少年は、青い瞳でした




鞄を肩からかけて、こつこつと音を立てながら、町の中を歩く。半分徹夜になりながらのレポートを提出したおかげで、頭の中はどんよりを通り越して、すっきりしているのだからとっても不思議(ホント、物理学科なんて進むんじゃなかった)数日続きの徹夜の実験なんてもううんざり(数学科の方がよかったかな)(ううん、寧ろあのとき文転していれば!)機械工の方に進んだ友人のきらきらした目を思い出して、「はああ」と一つ、ため息をついてしまった。

そんな風に、ふらふらと歩いていたのが間違いだったのか、限界を通り越して、それが頭の中をすっきりとさせたなんて思いこんでしまったのがいけなかったのか。それとも、あのときその道を通らなければ、よかったのか。


注意力散漫だった私は、気づかなかったらしい。いつもよりも少ない人の数に、ざわめく声が聞こえた。肩から掛けた鞄が、ずれてしまったので、引っ張った。ぐいっ! 「え」
私じゃない。引っ張られた鞄は、後ろへ私の体ごと引きずられて、何分運動は得意ではない私の、最低なバランス感覚の所為なのか、ぽてん、と見事に後ろへ倒れてしまう。

ざわめく人の声が聞こえた。いいやちょっと違う。ざわめくじゃなくて、「あ」といった感じで、思考の追いつかない顔をして、みんな私とその人を見る。

倒れた私の上に馬乗りになって、ギラリと、光る、それを私のお腹にぶすっと突き刺して、「…っあぁ!」 しらない。こんな人しらない。突き刺した、刃物から、ぷくぷくと小さな泡のような、真っ赤な液体が溢れて、私のお気に入りの服を真っ赤に染めて、「あ、ひっ、だれぇ」 痛みはなかった。けれどもそれが、恐かった。ほんの少しずつ、ほんの少しずつ、麻痺していたような感覚が、リアルに再現されて、「あ、あなた、だれ」


音が、とても、遠く、聞こえる。サイレンの音が遠い。ドップラー効果が、耳にもかからない。振動数が、変化することもなく。
「だれでもよかったんだ」

そんな声が聞こえた気がして、その人は、突き刺さった刃物を、もっともっと、力一杯押した。「ぅあっ!」 上げた声に比例して、響くような感覚が、お腹に、ぶすり。その男の、手元を見た。「包丁、ですか」 せめてもっとまともな刃物にしてくれたって、









光が、瞼を突き刺した。
さわさわと揺れて、ほんの少し、私に人差し指にからまるこれは、草。頬に、かさかさとその感覚がして。
「いたい」

ずらした視線の元は、未だに、見たこともないような、はっきりとした赤の色に染まっていて、(ヒトは、体の奥に流れる、きれいないろの、血を、見ることがなく死ぬって、)じゃあ見れた私はラッキーかしらと考えた。アンラッキーに決まってる。

「いたい」

呟いた声に返事をするように、何かが、私の顔に影を作った。「おねえさん、どうしたの」 金色の髪の毛は、光に透けた。青の瞳は、きょろりと動かして。

「うん、いったい、どうしたのかなぁー…」


聞こえた私の声は、かすれていて、私の声じゃないみたいだった。



1000のお題 【798 右も左もわからない】


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2008.02.06