*オロロさんから挿絵(夢絵) +元ネタいただきました!
*マスター原作開始少し前、 歌詞引用などはありませんが、イメージソングつきですのでご注意をば!
*イメージソングは「BUMP OF CHICKENのプラネタリウム」(反転)です。







「あー、やってらんねー。なんかおもしろいことでもねーのかよ」
「おもしろいことってなあ」

ぽりぽり、と窓枠に座って顎をかくと、のそりとルークは布団から起き上がった。「ガイ、剣しようぜ、剣。お前結構、いい感じだもんな。ヴァン師匠ほどじゃねーけどっ」 そりゃお前、一応手加減させてもらってるしな、とは言えない。そんなことを言ってしまえば、このお坊ちゃんは「もうお前とは一生はなさねぇ」とへそを曲げてしまうだろう。
子どもの頃のように、何も考えずに、ただ怒りに剣を任せて振るうことなんてできない。怪我をさせる訳にはいかず、かと言って手を抜きすぎる訳にもいかず、案外難しいラインでの相手をさせられる。まあそれでも、カンカン木刀を振り回して楽しげに笑う友人を見ることは嫌いじゃない。できることなら、と頷いてやりたかったが、「残念。さすがになー、俺も使用人って立場があるからねぇ」

この間手合わせはしたばっかだろ? と膝に肘をかけて首をかしげた。もうちょっと我慢しろよ、と声をかけると、しばらくの間こっちを見ていたルークは、「ケッ」と舌打ちしてベッドにまたもぐりこんだ。「おいおい。若い年してこもりっきりはよくないぜ」「うるへー」 バタバタ、と足を泳がせて背を向ける彼は、おそらくぶうたれた表情で枕に顔をつけていた。

変わったもんだなあ、と昔と比べて吹き出してしまいそうになった。けれども、変わったと言えば自身も同じだ。

「暇だってんなら、本でも読めっての。家庭教師、またサボったんだろ。いい加減にしとけよマジで」
「だって勉強しろってうっぜーんだよ」
「そういうもんだろうが」

そういうのはな、ちょっと真面目なフリしてる方が楽なんだぜ? と声をかけても、バタバタ、と足を振っての返事しかない。しょうがねぇなあ、と俺はため息をついて、ふと小さな少女を思い出した。「そしたら、と話せばいいんじゃないか? 丁度彼女も習いの時間は終わってるだろ」「なんでガイがんなこと知ってんだよ」「ゲホッ」 ついた咳を誤魔化して、ん、んぐ、と何度も唾を飲み込む。「まあ、何事にも興味ってものは必要だからな」「お前マジで女好きだよな」「……まあね」

どうでもよさげな声に、寧ろ少し救われたな、ともう一度咳をつく。おそらく赤くなった頬を手のひらでこすって、「お前が会いに行ったら喜ぶぞ」「ぜってーイヤだ」 素直じゃない。

暇だ、暇だ、と嘆く友人の背中を見つめて、どうしたもんかね、とため息をついた。(まあ、気落ちもするわな) 外に出ることができず、何がおもしろい訳でもない。(箱庭だ) 小さな小さな箱庭の中で彼は生きている。まあまあとりあえず、庭に出てお日さんにでも当たってこいよ。そう明るく言ってみても、虚しくなるだけだ。

「そうだ。ルーク。音機関なんてどうだ?」
おもしろいぞお、はまるぞお、とくるくる人差し指を回してみる。ルークだって、小さな頃はうさぎの人形の次に、音機関でできた、小さな車が好きだった。ぶうぶう、とかなんとか言って、ぺちぺち手のひらで叩いて遊んだものである。ちらり、とルークはこっちを振り向いた。「いやだよ、親父クセェ」「…………」 多少、悔しく思わないでもない。





(…………親父くさいのか…………?)

いやでも、と枕の中に顔をうずくめて考えてみる。ネジと歯車。錆びた匂いにカチカチ響く起動音。「どう考えたって、男ならときめくと思うんだがな……」「ほ。どうかしたかね、ガイ」「いんや」 ペールの声に首を振った。昔はガイラルディア様、と呼ばれたものだが、念には念をと気をつけ続け、あっちにしてもペールギュントの名前を封印中だ。
(うーん……)

微妙にショックを受けているのかもしれない。ごそごそ、と俺は枕から顔を上げて、ベッドの上に座り込んだ。腕を組みながら首を傾げて、「うーん……」 男なら、黙って音機関。「だと、思うんだけどなあ」「さっきから、妙にひとりごとが多いのう」「色々と考え中でね」 ごろ、とまたベッドに転がった。机の上に立てかけられた本が見える。よし、と立ち上がった。

ぺらぺら本をめくりながら、これならどうだ。あれならどうだと考える。(見返してやろーじゃねえか) こりゃすげえ、ときょとんと目を見開くお坊ちゃんを思い描いて、よし、と頷いた。


   ***


小さなころの話である。
5歳の誕生日のある日、俺の人生はがらりと変わった。俺はペールに抱きかかえられ、ぼろぼろと涙を流しながら逃げ惑った。これからどうなさりますか。そう問いかけるペールに叫んだ。「あいつらを殺してやりたい」 あのファブレ公爵を、両親を、姉を襲ってきた連中すべてを殺してやりたい。復讐してやりたい。
ペールはじっと黙って俺の手のひらを握りしめた。それから数年、昔の面影も少なくなるまで身をひそめ、静かにファブレの家を訪れた。あの頃の自分はどろどろとして、何も見ることができなかった。今でさえ、何を見えているかも分からない。ただそうなる前に、確かに俺は小さな小さなプレゼントをもらったのだ。誕生日の席で、姉上からきらきらとした音がなる、不思議な箱をもらった。

その箱は、結局すぐになくなってしまって、「ありがとう」と彼女に伝えた言葉だけが残っていた。今では少しだけくすんでしまった彼女の顔は嬉しげに笑っていて、「これはオンキカン、というのですよ」と教えてくれた。音機関。きらきらとした何か。

あのときの気持ちは、今でも消えることなく覚えている。嬉しくて、胸がいっぱいになって、部屋に帰ったら“彼女”と一緒に聞いて、そしたら“彼女”も笑ってくれる。そう思った。とっくの昔に死んでしまったあの人は、とよく似た、それでも、よりもずっと大人びた女性だった。


本を頼りにして、首をひねりながら線を合わせて考える。(確か、前に一度、ペールと一緒に店に入ったとき、みたことがあるんだよな……) 暗い店内の中で、きらきらとそれは光っていた。「うーん。いや、仕組みはわかるんだよな、なんとなく。でもこう、ここにこうすると、光がだな」 ぶつぶつ、とひとりごとを呟く。ベッドに眠りこんだペールの寝息が聞こえる。口を閉じて、手元の明かりを頼りにしながらカチャカチャとまたネジをあわせる。
に見せたら、どう思うかな)

きっと彼女はパッと目を輝かせて、「ガイさん、すごい!」と笑ってくれると思った。そう思うと、少しだけ嬉しくなって鼻をこすった。硬くなった体を伸ばしながら椅子にもたれる。「あー」と声を出して、首をゴキリと曲げたとき、「いやいや」と気づいた。ルークを見返すために作ってるんだろ。

いつの間にか、目的がずれている。音機関は親父くさくなんてないんだぞ。かっこよくって、すごくって、わくわくするんだぞ。そう伝えるためのはずなのに、いつの間にかに見せることを前提として作っている自分がいた。そう気づくと妙に恥ずかしくなって、「くそ」とひとりごとを呟きながらゴツンとテーブルに頭をぶつける。救われない。
救われないと知っている。
(バカだな俺)
とっくの昔に気づいている。


   ***


相変わらず、剣の稽古をしろとルークは怒って、後で後でと返事をしながらホウキを片手に持って庭をはいた。ときどき姿が見せるに笑って、も嬉しげに笑うとかさかさ聞こえる風の音が大きくなる。ぱたぱた、と揺れる彼女の赤い髪の毛が遠かった。
音機関は、少しずつ完成した。一つ一つ形になっていくそれを見て、つるりとした頭を撫でた。
(さて、どうしたもんか)
出来上がった、くるりと丸いそれを腕にかかえて、床の上に座り込んだ。ペールはいない。一人きりの方がありがたいと明かりを消して、パチリとボタンを押した。パッと、小さな部屋の空に、静かな星が出来上がった。鼻から息を吸い込んだ。「何やってんだろうなあ、俺」 

     だめですよ、ルークさん
     うるせえなあ、こっち来んなよ

騒がしい音が聞こえる。「おいおい、なにしてるんだよ」 ドアのすぐそばで聞こえた音に、こらこら、と肩をすくめて扉を開けた。ルークの服にひっくつようにがいて、ぶっ、と頬をふくらませたルークがこっちを見上げている。「ガイ、勝負しろ!」「はあ?」「剣だよ剣、この頃ぜんっぜんしてねーし。あとでってそればっかじゃねーか」「あー……」

ぶるぶる、とがこっちを見て首を振っている。なんとなく、状況が見えてきた。とうとう癇癪を起こしたルークがこっちの部屋に乗り込んで、それをたまたま見かけたが止めようとして、ここまでやってきてしまったということだろう。

「ガイ、おら、勝負! なまってなまってしょうがねーんだけどっ」
「わかったわかった。とにかくわかったから部屋に入れ。ついでに言うと声がでかいっての」

広くドアを開けて、ぺっぺと手のひらを振ると、ふんっ、とルークは鼻から息を吹き出した。ごめんなさい、と謝るに、「気にしなくていいから。でも他に見られたらちょいと困る」 はい、ごめんなさい。とぺこぺこが頭を下げた。まるでおもちゃの人形のようで、ぷっ、と笑って吹き出した。

「なんだこれ。なんでこんな暗いんだ?」 一歩足を踏み入れたルークが、きょとんとして空を見た。続いたが、「わ」と小さな声を出す。「プラネタリウムだ」

     プラネタリウム
暗い部屋の中で、はぱっと頬を赤くしてぺちりと両手をくっつけた。
「……なんだい? それ」
「え、違うんですか? これ、プラネタリウムですよね。びっくりしました。初めて見ました!」
「いや、そんな名前ではないんだけど……はじめて見たんだよな?」
「はい、こっちでは! ……あ、あの、本以外で!」

なるほど。その本の中にそう書かれていたのかもしれない。はもじもじと両手を合わせて、そのあとにまた顔を上げた。ぱちぱち、と一人で拍手をして、パタパタと両手を揺らしている。「つーかガイ、何やってんだ? 一人でわびしくこんなもん見てたってわけ?」「……わびしくって、お前な……」 否定はできないが。

「お前がおやじくさいって言うから、おやじくさくない音機関を作ってみた。それだけだ」

もっと言えば、いつの間にか目的がずれてしまっていて、馬鹿らしくなって、ルーク風に言うと、一人わびしく星を見つめていた訳なのだが。ルークに答えた言葉のはずなのに、「えっ」とが瞬いた。「え、ガイさんが作ったんですか!」「ん? まあ」 全部が一人きり、と言うわけではなくて、ある程度の形は本に載っていたのだが。

「ガイさん、すごいです!」

ぱっ、と小さな花が咲いた。
自分が馬鹿らしく考えた想像と同じで、真っ赤な頬を、もっと赤くさせていて、にこにこと笑っている。「…………うん」 かすかな声で返事をした。笑う彼女を見つめていたら、ゴスッと脇腹を殴られた。「いてっ」「ガイ、お前変な目してるぞ」 鈍いくせに鋭い。鋭いくせに鈍い。「してねーって」と反対にルークの背中を叩きながら、「ルーク、どうだ。音機関も、結構いいもんだろ?」「あー……まあまあ」「おおっ」「クサイ」「アアッ!?」

くすくす、とが口元を押さえて笑っている。
「ガイってばときどきクサイんだよねー、なんてメイドに言われてるの知ってるか?」
「え、あ、あ? いやいや。なんでそこで我慢してるように笑ってるんだ。おいおい」
「男に星見せるって、その思考がありえねー」

まあ、まあまあだけどな。と頭の後ろで腕を組む嫡男の脇腹に、ごすりと拳を入れてやった。何すんだよ、と唇をひねる少年に、「お返しだ」 剣の手合わせは、明日ってことでな。

ぱしん、と背中を叩いてやると、パッとルークは笑った。へへ、と鼻の下をこすって、けれどもが見ていると気づくとぎゅっと口元をひきしめて、わざと不機嫌な顔をつくる。そんなルークを見て、は顔をほころばせた。そうすると、また自分もひっぱられる。

口元を隠した。
ころん、と流れるはずもない星が、一つだけころがったような、そんな気がした。





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2012/09/14


頂いた元ネタを抜粋すると、
>部屋で暇をしているルークのためにガイ様が音機関を作ろうとしたけど、気づいたら思考がシフトしていて、「ガイさんすごーい」と主が言うんじゃないかなあと妄想する自分の妄想突っ込んじゃって、俺は馬鹿なの? となって一人でプラネタしてるときにルークと主がやってきて、マスター喜ぶ

って感じでした!