とうとう、本当の完結後短編……!! 原作完結後すぐの頃です。
とあるメイド視点より2 に出ていたオリキャラ執事くんの参入について。











あの浮島の中で、俺たちの屋敷を見たよ、とガイさんは言った。
ガイラルディアの家を模したレプリカだ。けれども、全然違った。不思議だよな。何年も昔のことのはずなのに、覚えていたんだ。




そう言って、ガイさんは私に語った。
ルークさんは、帰ってこなかった。屋敷中がしんと静まり返る中、不思議と涙は出なかった。「あいつは、帰ってくると、そう言っていたよ」 ガイさんが、教えてくれたかもしれない。それとも、私の中にほんの少し残るマリィベル様の欠片が、何かを伝えてくれたような気もした。



あれから私とガイさんの婚約が、正式に発表された。驚きの声ばかりが響いて、まさかの複数のメイドさん達に詰め寄られた。本当なんですか、と瞳を釣り上げる人も多かったけれども、それと同じくらいに、よかった、と胸をなでおろす人も多かった。ガイがこれでやっと報われる、なんて言葉をきいて、驚いて、目を丸めて、「一体どういうことですか!?」と声をひっくり返してしまった。




私は17になった。あのときのルークさんと同じだ。ルークさんのことを待ち続ける、と誓ったミュウを話し相手に、ファブレの屋敷で生活して、時折、ガイさんに手紙を書いた。マルクトとは、あまりに距離が離れているから、長旅になってしまう。だからあまり彼と会うことはできない。

音素灯の明かりが揺れていた。ペンのインクを浸らせて、彼を想った。(会いたい、なあ)

ついこの間まで、あんなにたくさん会えていたというのに。仕方のないことだし、これは私が成人するまでの話で、あと3年の辛抱だ。それまでに、このキムラスカでやるべきことをしなければいけない。そうは分かっていても、椅子にもたれかかって、天井を見上げた。真っ暗だ。

「次は、いつ、会えるのかな……」

この間からは、もう一月。あともう少しの辛抱だ、とわかっていても、彼の声や、姿を思い出した。「情けないな」 ガイさんは、私なんかよりずっと忙しい。ピオニー陛下のもとで、多忙な日々を送っていることを知っている。さみしいと、書いてもいいのだろうか。(いや、でもでも) そんなことを書いても、きっと困らせてしまうに違いない。

あいたいなあ、と今度は大きな声でぼやいてみた。こんな夜中だ。きっと誰にも聞こえない。でも、言ったところで、もっと虚しくなるだけだった。




***



に、会いたい……」

書類の中に埋もれていった。なんなんだよ、どういうことなんだよ。まったくもってわけがわからない。「ペール、たすけて、くれ……」 死ぬ気の力を持って、片手を伸ばした。ペールが、すいっと片手でメガネを外す。「ガイラルディア様、大変申し訳ございませんが、わしも最近めっきり老眼が進みましてなあ」「唐突に老けるなァ……!!!」

最近めっきり腰を伸ばしてしゃきしゃきと歩いている上に、時折庭で剣を振り回してることぐらい知ってるんだからな、ほんとにな!? と叫んだ。
ファブレ家に潜入する際に、あえて年をとった老人であるようにと印象づけていたのだ。実際の彼は、剛力の老人である。


「と、いうのは冗談ではありますが、手伝いできる分にも限度がありましょう。私の得意とも異なりますし」
「まあ、その通りだな」

彼の言葉はわかる。けれども、苦しみから逃れたい。日に日に積み重なる山のような仕事の上、屋敷の管理に目を回らせた。に会いたい。けれども、こんな姿で彼女に会うわけにもいかず、とにかく目の前のそれを片付けようと考えるのに、すべきことは次々に飛び込んでくる。
こうなりゃ本当にルークの屋敷で使用人をしている方がマシだったのかもしれない。

せめてもと心の安静のために、の手紙を幾度もみつめた。彼女の筆跡を指でなぞって、言葉を読み込む。このときが一番胸がホッとする。「……ガイラルディア様、手紙を顔にかぶせたところで、様の香りはとうになくなっているかと思いますがなあ」「し、知ってるよ!!!」

ちょっと試しただけじゃないか。

マルクトからキムラスカのこの距離が、あまりにも苦しかった。なんでこんなに離れてるんだ。国が違うからか。当たり前なのか。こちらから手紙を出して、戻って来るまで早くても10日はかかる。それすらも待ちきれなくて、彼女からの返事が来たとき、それはもう喜んで封をあけて、何度も何度も読み込んだ。


「……なあペール。返事が来てないってのに次の手紙を送るってのは、よくないよな?」
様のお気持ちは、わしよりもガイラルディア様の方がおわかりになるかと思いますが……まあ、一般的に見てありえないでしょうな」
「ありえないよな」

だよな、と客観的に考えて頷いた。それからまた頭を抱えた。「俺は、に、会いたいんだが!?」「見ればわかりますな」 本当に辛い。


あと3年、これが続くのかと考えると、おかしくなりそうだ。この間に会ったのは一月前。もう一月もたっている。「に会おう」 そう考えて、手紙を書こうと準備を初めたとき、自身のインクだらけの両手に気づいて、そのままため息をつきながら崩れ落ちた。「……諦められたので?」「……ちがう」

心配をかけると思ったのだ。
今はただでさえ距離があるのだから、もし彼女が悲しんでいても、苦しんでいても、俺はどうすることもできない。だからこんな姿を見せるわけにはいかないと、わかってはいるんだ。「でも、な、あ、あ、あ、あ、あ〜〜〜〜!!!」 限界が近づいていた。

「そもそも人手が少ないのです。いい機会ではありませんか。新しく人を雇ってみては?」
「とは言っても、求人をするにもそれまた時間もな……」



とかなんとか言っていたのだけれど、やむべくもない事情のため雇ってみた。もともとピオニー陛下の城から定期的にメイドを派遣してもらっていたが、いつまでも陛下からのご厚意に甘えるわけにもいかない。寝ぼけ眼で適当にだした求人で、あまりも適当な面接を行ってしまったため、大層愛想の悪い男が来た。

男と言うよりも少年で、もう誰でもなんでもいいから俺と助けてくれと頼んだところ、これがまた仕事ができた。あっという間に荒れていた屋敷が元の輝きを取り戻し、こちらのスケジュールの管理まで行い、みるみるうちに山のように机の上に溜まっていた書類が消えていく。

本当に、人は見かけではない。どうか末永くガルディオス家にいてくれ。



そんなこんなでやっとの思いで、けれどもそしらぬ顔をしてを呼んだ。久しぶりの彼女は、前に会ったときよりまた少しだけ髪が長くなって、可愛くなっているような気がする。もともとだけど。馬車から降りる彼女の手をエスコートした。それから、彼女があんまり可愛らしく、「ガイさん」と笑うものだから抱きしめた。の匂いだ。「インクの香りじゃない……」「はい?」

ほっとして呟くと、何を言っているんですかの彼女がいぶかしげにこちらを見ていた。「、今日俺は一日休暇を取っているんだ」 そうなんですか、とぱちりと瞬いた。嬉しげな顔を必死で隠している姿がたまらなかった。「だからこうする」 へっとの声が跳ね上がった。文字通り抱き上げて、彼女を持ち上げた。


「な、なにするんですか、ガイさん! ペールさーん!」
「ペール、悪いがちょっと部屋にこもらせてもらうぞ。昼には出るから」
「承知いたしました」

承知しないで!? と暴れる彼女を押さえつけて、自身の部屋に向かっていく。途中で新しく雇った男に説明した。彼女は婚約者である旨と、キムラスカから通っているため、あまり会うことができない、ということを伝えると、彼は相変わらず愛想のない顔つきでなるほどと頷き、空気を呼んだのか、さっさと次の仕事に消えていく。

「が、ガイさん? さっきの方は? どなたとお話されていたんですか?」
「ああ、新しく雇ったんだ。屋敷の管理をお願いしたくてね」
「私、抱っこされたままなんですが! 自己紹介くらい自分でできます!」
「まあまあ」

大丈夫大丈夫、と適当すぎる言葉でなだめて、寝室に連れ込んだ。山程のキスをして、次に出てきたときには、彼女は真っ赤な顔を片手で隠していた。

可愛らしい婚約者だ。













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オリキャラ執事さんはじぇくと主ではありませんが、じぇくと主であるif世界もあるかもしれない。



2020-01-13

1000のお題 【332 愛想のあるなし】