BASARA男主トリップ。出てくるのがザビーだけという恐ろしいマニアック。主人公が現代の外国人アルバイト牧師さんなので、そっち関連の人に怒られるんじゃないかと消去したんですが色々あり再アップ。お、怒らないでね……!
主人公はオーストラリア人です。デフォルト名がバリバリ横文字なのですが、変換すると変わりがないな、と今気付いたすみません。
「アナタはー愛をー信じマースか?」
俺はこれは何事だと頭をくしゃくしゃとかきむしった。死にたい。
【ボク、シ!】
「汝健やかなるトキモー病めるトキモー?」
俺は黙々と言葉をつづった。手の中には取りあえずの似非教本。目の前には幸せそうな新郎新婦。何度も繰り返した言葉を最後まで言いきったとき彼らご夫婦新婚さんは、「はい」と恥ずかしげにお返事をなさった。あらまぁいいお返事。お幸せにー、と目の前のカップルへと心の中でエールを送りつつ、今日も今日とてこの日を終える。そして、
「あざーっす!!」
「はいお疲れさまー」
俺の手の中には茶封筒が一枚。ぺらぺらではあるが、本日のバイト料だ。年中金欠大学生にはありがたすぎる収入だ。いやあいやあ、と頭をぽりぽりひっかいていると、目の前に金色の糸がちらほら見える。金髪である。「はいくんありがとー、あとはもう上がっていいよー」ということで「あざーす! トイレ行ってくるっすー!」 駆け抜ける。
トイレの鏡がちらりと視ると、相変わらずの青い瞳だ。・。それが俺の名前であるけれども、ぶっちゃけ日本語はペラペラだ。小さい頃にこっちの国に渡ったもんだから個人的には日本人みたいなもんだ。それなのに一体どうして、こんな式場にて片言外国人をやっているかというと学校の先生からの紹介だった。
『結婚式場のアルバイトしてみない?』
ええー、いやですよー。俺外見はこんなんだけど、ヒッコミジアンなガイコクジンなんですからぁーとか言っていたはずなのになんのかんのとこんなことに。面接で絶対落とされるって、無理無理、俺ヒトミシリだからぁーとか言ってたのに、面接官はじっと俺の顔を見た。「え? くんだっけ」「ういっす。・、オーストラリア出身っす」「うーん、うーん」ああほらだめですよー。無理ですよー。とか思った瞬間、面接官のおっちゃんは俺をちょいっと指差した。
「きみ、ちょっと日本語がうますぎるよね」
「ハ?」
「ほらそれっぽくしたいから。片言でしゃべってみてよ。どうぞ、汝健やかなるときもー」
「ええ? な、汝健やかなるトキモー」
「そんな感じそんな感じ」
上手上手、と面接官のおっちゃんは手のひらを叩いた。そしてとんとん拍子にこんなことに。
俺は牧師服をおっこらしょ、とたくしあげ、おトイレおトイレ、と頭の中がおトイレでいっぱいになった。なんとなく、ふっと瞳をつむってみた。あー、そろそろテスト期間だよな
「アレー? ドナタですカー?」
「ア?」
なんだかおっさんの声が聞こえる。そして磯くさい。くんくんと鼻をひくつかせつつ、たくしあげようとしていた牧師服をなおす。瞳を開けてみると何故だか俺と同じような服を着た牧師の、そして頭をつるっと丸刈りに本格的に、そして激しくでかいおっさんが目の前に立っていた。見事なひげだ。
俺暫く考えた。
「あ、同業者……!」
ぽこんっと手を打った。そして「やあお初! 初めてのバイトさん!?」とか言ってにこっと笑ってみた。なんだか発音がカタコトのこの人はきっと日本に来て日が浅いのであろう。それならばと誠心誠意の笑みでやあお友達になろうぜ! と言う意味である。そして彼はうっすらとほほ笑んだ。友情が芽生えた瞬間だった。「新しい信者の人ネー?」「イッヤアアアアちょ、腕つかまないで持ち上げないでええええ!!!」無理だった。
なんだこの怪力は! 俺は片腕を掴まれ、宙ぶらりんの体勢となりおっさんを見る。おっさんは満足そうに「信者が増えるのハーとってもいいコトネー」とか言っている。ちょ、ちょ、ちょ、信者ってなんだよチョットォ!?
そして気付けばこの場所は明らかにおかしい。ざざーん、と波が押し寄せぶつかる音が耳に響いた。そして持ち上げられた足元を見れば見事な芝生が生えていて、遠くには妙な館が見える。おれのおトイレは!? トイレしたいよ!
そんな俺の胸中を知る由もなく、おっさんはにこにこしたまま俺のぶらぶらと揺らした。うあああ、ちょ、酔うからやめなさいやめなさいったら! とかいう台詞も「よ、よようにゃっ! ようにゃら!」俺なんかちょっと可愛いとかそんな場合じゃない。
「アナタはー愛をー信じマースか?」
「わ、わりと……?」
「ンー、チャーント格好もしっかりしてるノハー、ポイントが高いネー!」
「は、ハー?」
「そのネ、真っ黒い修道服よ? いい子いい子」
「いやこれはバイトで……」
「でもね、ワタシはまだ一つ、足リナイと思うノ……」
なにがですか、と聞く前に、彼はいつの間にかその手の中に小さな機械を持っていた。
きらり、とおっさんの頭のまるい禿げが逆光の中で光る……!
「サァ、頭を丸めナサーイ!」
「禿げはいやああああああ!!!!」
その瞬間、俺は渾身の力を振り絞った。
おっさんの腹を力の限り両足で蹴りあげ、ゲフッ! とダメージがついたところをそのままの勢いで回転し、腕の拘束を振りほどく。芝生の上でつくてんつくてん、と足がはねた。おっさんと向かい合う状態となったとき、おっさんは腹を押さえたまま、小さい機械、ぶっちゃけバリカンを片手で掲げる。「あ、愛のバリカンを受けなサーイ!!」「意味がわっかんねー!!」
取りあえずここにいてはいけない。俺の理性は激しく警鐘を鳴らしている。おっさんへと背を向け、力の限り走った。どこへ? 分からない。なんだここは。まるで一つの島じゃないか! 「愛みちミチてマース! サァー! ミナサンあの男を捕マエルのデース!」「「「レッツザビー!!!」」」そして気の所為か背後で声が増えてるんですけど……!?
振り返るのが怖い。しかしながら周りではあのおっさんと同じように頭を禿げにした男たちが次々と俺の周りにやってくるのが見えてしまう。キラリと光る武器に頭を覆って死にたくなった。けれどもそんなことをしたら冗談抜きで死ぬ。マジ死ぬ。「愛のキャノンで全てぶっとばすヨ!」なんか妙な宣言聞こえた!
そう思った瞬間、全ての景色がぶっとんだ。どっかーん、とまるで何かが爆発したような音が耳元で聞こえて、体がふわっと宙に浮かんだ。あ、死ぬ。男・21歳。人生で初めての走馬灯を経験しました。
おとうさーん、おかあさーん、なんてお花畑の向こうの両親に手を振っている場合ではない。というかおとんもおかんも生きてるし! 元気だしぴんぴんだし! だから「息子の俺だけ先におっちぬ訳にはいかないんじゃー!!」 こ、コンッジョォオオオオ!!!!
俺は崖の上へと立ち、背後を振り返った。勝ち誇った顔をするおっさんと、その周りの大量のはげはげ軍団。光の加減でちょっとまぶしい。
「サァー、おいで? おいで? ヤサシクシテアゲルヨー」 なんてカタコトのおっさんが手元のバリカンをういんういんさせている。ちょ、おま、電源入れるなよ! 思わず自分の頭皮をぎゅっと触った後、崖下の光景を見つめた。ざーん! とぶつかっては砕ける波はまるで現実味がなく、ゼリーの中にクリームが浮いているようだ。ぞっとした。現実味がないことが寧ろ怖い。
ういーんういーんういーんういーん
バリカンの起動音が静かに響く。おっさんはバリカンを上下に動かした。ういーんういーんういーん。おそらく彼の頭の中では、俺のこの金髪ヘアーを見事に禿げにするイメージトレーニングでいっぱいにちがいない。「もう後がありませんよ……!」 おっさんの手下の一人が声を押し殺した。「だよな」俺もそれに頷いた。
どう考えても後はない。
――――って、日本人よりも日本人らしいよな
あるとき、中学生の同級生が俺に言った。俺はソーオ? とストローをかみかみしながらイチゴオレをちゅーちゅーしていた。
俺のどこが? 金髪青目のさんよ?
そんな風にじゅるじゅるじゅるっと最後まで飲みきったとき、彼は笑って言ったのだ。
「ってさ、勢いがあるっていうか、男らしいんだよ」
アディオスおっさん!
目の前の風景がざわりと変わっていく。後ろに倒れ込み、頭から先に海へのまっさかさま。妙にゆっくり確認できる風景の中で、おっさん達が慌ててこっちに向かってくるのがわかる。バリカンは放り投げられていた。あんぐりお口にザマーミおっさん! と余裕があるのなら指をさして笑ってやりたかった。
けれども思考と視界がゆっくり流れるのはそれで最後だ。
バシンッ! と唐突に体が水面に叩きつけられた。息苦しさを必死に誤魔化して泳ぐ。泳ぐ、泳ぎまくってやる。「コンッジョオオオオオオ!!!!!」 やったらああああああ!!!!
激しくクロールのまま陸を目指す。一心不乱に泳ぎまくる。いったいどれだけ泳いだのか、気づけば砂浜の中へとつっぷしていた俺は、自然と一つの言葉が口から飛び出ていた。
「トイレ……したい……」
ぶっちゃけ泣きそう。
2011.01.25
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