ちょっと変な男主の話です。ギャグがほのぼのでキャラ指定なし。
最初に謝っておきます、ごめんなさい。
好き好き言ってますが、友情です……!




「…………ああ…………」
彼は幸せのあまり、ほう……と息を吐き出した。あんなに可愛い子は見たことがない。人生で始めてだ。フォーリンラブ。助けてくれ、胸が痛い。

くりくりとした黒くて丸い大きな瞳が、ちらりとこっちを向くたびに胸がドキドキと張り裂けてしまいそうだ。けれども青年は、あの子の前に顔を出すことなんてできやしないんだ。自分はチキンの塊なんだ。あの子は小さく短い手足をちょんと伸ばした。彼は即座に路地裏にすっこんだ。こうやって、遠くから見ているだけで幸せなんだ。
さてもう一回、とひょっと顔を覗かせる。

「どうしたの? チョッパー」
「あっちになんだかねっとりした視線がやってきたんだ」

あの子はちょいっと黒い爪の先をこっちに向けた。あくまでもこっそりと、それが彼のポリシーでもある。「ねっとりした視線? まあいいか、一応様子見してくっか」 いけない。さっと体を翻し、颯爽と街の中を去っていった。



そしてその次の瞬間、はボッコボコに捕まった。



予想外であった。青年はぐるぐるロープ巻きにされ、「想像以上に弱かったなぁ……」とぐるぐる眉毛の男が首を傾げている。当たり前である。こっちは喧嘩などしたことはない。しがない商売人だ。「俺、悪いことなんてなんもしてないッスよう!」 だからたすけてー。
そう主張してみるも、オレンジ髪の女性がぐいっと腕を組んで、「あんたここ暫く、あたしらのこと付け回してた奴でしょーが。なんか目的があるの? さっさと白状した方が見のためよ〜」 ぐりぐり踵でほっぺをえぐられたら、何やら別の方面に目覚めてしまいそうで怖い。

彼女の名前はナミで、男の名前はサンジ。彼女の言うとおり、自分はここ数日の間彼らをつけまわしに付け回していたのだ。ちらり……とは瞳の端で、彼を見た。ちっちゃい。可愛い。思わずぶるぶる身悶えしそうになったけど、自分は紳士なのである。それはいけない。「な……なんにも、ないッスよう。……あんた達海賊っしょ。賞金首なの知ってたんで、運良く狙えればと思ったんす」「その割にゃー弱かったけどなぁ……」 サンジの言葉に、はググッと口ごんだ。

けれども誰が言えるだろうか。
あそこにいる可愛らしい鹿……鹿さん? がかわいすぎて、ここ暫く付け回していましただなんて。それも本人(鹿?)の目の前で。言えない。言えるもんか。気分は恋する乙女である。

は塩っぽい風をフンッと力いっぱい吸い込んだ。そのとき、サンジの後ろに隠れていた“彼”が、よちよちこっちに進みながら、ピンクの帽子を短い手で固定して、首を傾げたのだ。「……おまえ、ほんとに賞金稼ぎなのか?」「うううううあああああーん!!! かわいいもっとしゃべってー!!!」

「!?」「!?」「!!?」「アッ、俺ってば!」







「うわあああん、チョッパーくんかわいいねー、かわいいねー、ほんっとうにかわいいねー」
「うざいっ! うざいうざいあついー!」
「もっと言ってぇ!」

よしよしよしよしよぉおおおおし!! とはチョッパーの全身をくまなくなでなでさせる。そんな様子を麦わらの海賊団達は生暖かい目で見守っていた。とある港に漂着した先にて、とある行商人のこの男、はどうやらフワフワマスコット、チョッパーに一目惚れをしてしまったらしい。毎日遊びに来ては、「チョッパーくんおなかなでさせてぇー!」 とババッと両手を広げてチョッパーに体当たりを繰り返す。

奇妙な男、に好かれてしまった彼は、毎日ストレスいっぱいで毛が抜け落ちてしまいそうだ。いいか、動物ってのはネェ、ストレスで禿げるんだよ、もう一回言うけど、禿げるんだよ。もしおれがそうなっちゃったら、あなたどう責任とってくれますの。と麦わら船の医者として、動物代表としてチョッパーは彼に説き伏せた。そんなチョッパーを見たは一言。「真面目にお話するチョッパーくんもかわいいね!」 この男はダメだ。何かが駄目だ。人間としてほんとだめだとチョッパーが感じた瞬間である。

助けてくれよう、と麦わらの人たちに助けを求めたとしても、が土産だと毎回持ってくる食料に、船長はもちろんコックも喜び、ナミはそろばんを弾いていて、ゾロは初めから我関せず。チョッパーは思った。「おれ、売られた!?」「悲痛にくれるチョッパーくんもかわいいーなー」 頬をすりすり。超うざい。

助けてくれよう、と彼はつぶらな瞳を揺らしながら、船員たちを見回してみる。今では当たり前の顔をして居座っているを、誰もほっぽりだそうとはしない。おかしいじゃないか。こんなに仲間が困っているのに、みんな見てみぬふりなのか。チョッパーはぽろりと瞳から涙をこぼした。瞬間が「泣いているチョッパーくんも以下略」 本当にだめだこいつは。

ふと、チョッパーは一人の男と目が合った。
つんと長い鼻の男が、うん? とこっちを見て首を傾げている。船長はダメ、コックもだめ、ナミもアウトでゾロもだめ。だったら残りは、「もういないなぁ」「戦力外通告!?」「鬼畜なチョッパーくんもかわいいなぁ〜」 頬をすりすり。




「あんた、本当にチョッパーが好きなのねぇ」
「うん?」

ナミの言葉に、は首を傾げた。ついでにチョッパーは腕の中。ぷらーんと抵抗もなくぶら下がっている鹿を見て、ナミはそろばん片手に苦笑した後、「ほんっと大好きよねぇ」「もちろん! フォーリンラブだもの」「いっとくけどチョッパーはオスだからね」「どっちでもいいっすよ!」「おれはどっちでもよくないっ!」

助けてぇ、助けてぇ、と涙ながらに訴える珍獣を、きゅきゅっとは抱きしめて頬ずりする。「一目惚れだったんす。いつもどおり、店に買い物に言ってたら、見覚えのない珍獣が買い物袋片手におろおろしてたんす!」「珍獣扱い!」「迷子かどうか心配になって、俺、ずっとチョッパーくんのことつけてたんす!」「すでに始まっていた変態との出会い!」

「あんたらおもしろいわね……」

ただし他人ごとなら。
ナミはふーっとおでこに手を当てて、ふるふる首を振った。「まあいいわ。あんた悪意はなさそうだし。こっちの節約にもなるし。存分にいじってやってちょうだい」「いじるだなんてそんな! 俺はチョッパーくんに、純粋な愛を捧げてるんすよ!」

見てください! とはじゃじゃんっとチョッパーの脇をひっつかんで、ナミにずいっと向けて主張する。「この、つぶらな瞳! 魅惑的なボディ! 類まれなるきゅーてぃんぐな角!」

「すべては神が与えたもうた遺物なのです!」

えっ、そこまで?
の主張に、さすがのチョッパーも照れたのか、に突き出されながらも、体をもじもじさせ始めた。「、おまえ、俺のことをそんなに……」 もしかしたら、ちょっぴり好感度は上がるかもしれない。そう彼が感じたとき、ぎゅーっとは再びチョッパーを抱きしめた。「ああ……こんな犬飼いたかったぁ……」「ペット扱いじゃねーか!!!」

「きゅーてぃんぐねぇ……」

そんなとチョッパーを見ながら、ナミはフフッと何かを含んで微笑んだ。っていうかそんな言葉は存在しないが。
「ま、人は見かけだけで判断しない方がいいわよ?」「チョッパーくんは人じゃなくて珍獣っすよ?」「おまえホントはおれのこと嫌いだろ」




「うわあああー!!!」

は腰から尻餅をついた。巨大な獣が彼にのしかかるようにチンピラ達をふっ飛ばしていく。どっかんどっかん。の腰元くらいのどでかい拳は、まるで一つの武器のようだ。
にいちゃんにいちゃん、金持ってんなら俺達にめぐんでくれや。そう言ってニマッと笑っていた彼らは、見れば散り散りに去っていく。

は信じられないような顔つきで彼を見た。「ちょ、チョッパーくん……?」彼はに背を向けたまま、ぎくりと肩を震わせた。彼は振り返らない。ぎゅっと拳に力を入れて、息を大きく吐き出した。「チョッパーくん、なの……?」 チョッパーは、片目を苦しげに細め振り返った。そこには恐怖に顔を引きつらせ、口元を震わせている男がいた。

彼はのすりと足を踏み出した。びくり、とは体を震わせる。その男の隣を、チョッパーは通って行く。のすり。のすり、のすり。を振り返らなかった。ただまっすぐに、船へと進んでいく。
(まあ、しょうがねーよな)
とっくの昔にわかっていたことだ。(俺、そんなかわいくねーよ) 男が男にかわいいって言われても、嬉しくないけどさ。わざと大きな体のまま、彼はのすのすと進んでいった。



ちょっとだけ、寂しくなったといえば、多分嘘じゃない。なぜだか、刀使いが自分の隣にいた。ただ無言でしばらくそこにいた。無言のまんま、大きい手で彼の頭をぽんと叩いて、そのまま去って行ってしまう。なんだか見透かされてしまったみたいで、腹の中がすーすーする。船の甲板から吹く潮風はべたべたしていて、自分の毛が気持ち悪い。
(……おれ、やっぱりこわいよなぁ)
まあ、わかってたことだけど。前からそうじゃないか。あの実を食べてしまったときから、自分は普通の動物じゃなくなったんだ。

びくりと震える男の姿を思い出した。『チョッパーくーん!』 腹の底が、むかっとする。これは悲しいじゃない。悲しいじゃなくて、(むかむかする)

勝手だ。勝手じゃないか。ずるいぞ。ずるいぞずるいぞ。あっちが勝手に想像して、勝手に離れていったんだ。そんなのずるい。「ばっ……」 気づいたら、彼は小さな手のひらで、甲板をぱしんと叩いた。「の、ばかやろー!!!」「えっ。呼んだ!?」

呼ばれて飛び出て! とでもいいたげに、はにゅにゅっとナミの果樹園から顔を出す。にこにこっと笑いながら、は手のひらを振っていた。そんな彼を見て、チョッパーはパチパチと瞬きをして、ぱくぱくと口を動かした。はササッと手のひらを広げた。チョッパーは、すいっと息を吸いこんで、そして、「きゃああああああー!!!」 力の限り悲鳴を上げた。「なんだどうした」「何があったの!」「なんだか」

そんだけ言って、なんだぁー、と納得したように、各自は船の中に帰って行ってしまう。え、ちょっと待って、待って、帰らないで、というチョッパーの心の声は聞こえない。その間といえば、口惜しそうにぎりぎりとどこぞから取り出したハンカチを噛み締めた。「ちくしょうチョッパーくん、今は俺に力の限り飛び込んでいくシーンなはずだ……!」 力の限りどうでもいい。

「なんでいるんだよ!」 もう一回。チョッパーのリテイクに、はきょとんと首をかしげる。そしてするする木から降りて、「なんでって」

「チョッパーくんがすきだからさ!」
「うすっぺらい!」
「ええっ!?」

うすっぺらいぞ! ともう一回チョッパーは叫んだ。だって、そんなの嘘だ。「嘘じゃないよー」とは飛び降り、すたんと甲板の上に立つ。すたすた歩き、ついでとばかりにチョッパーを抱きしめて、「嘘じゃないって。ごめんね俺、ちょっとびっくりしちゃったよ。許してね。謝ろうと思って来ちゃったんだよ」 よーしよーし。
そんなもんではごまかされないぞ。なんだなんだ。怖がってたじゃないか。

そう思うのに、なんだかごまかされそうな自分がいる。

「俺、かわいくないんだぞ!」
「いやいや、チョッパーくんは可愛いよ」
「むきむきなんだからな!」
「それもきっとチョッパーくんさ」

やっぱりちょっと、嘘臭いなぁ、とチョッパーは思ったのだ。きっとその台詞は、彼がそう思おうとしているに違いない。怖いものは仕方ない。かわいくないものは、そう思うのはしょうがない。(まあでも) そうじゃないって、思おうとしてくれてるんだ。

それは少しだけ、嬉しいかもしれない。

「チョッパーくん、俺の好感度が上がったところで、一緒にお風呂でも入ろうか?」
「おれ、医者だからな? の大切なところ、はさみでぶちっと切れるからな?」
「なにそれ普通に怖いんですけど」


の脇に、ひょいっと抱え上げられながら、まあ今日くらいは好きにさせてやってもいいかもしれない。そう思って、うっそりと瞳をつむったのだ。
うへへへ、と笑うを見て、もしかしなくとも。ちょっとだけ。
(ちょっとぐらいは、友達って思ってやってもいいぞ)
きっと旅に、友達はつきものだ。



2011.08.25
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(土下座)     チョッパーのかわいさ無限大
【キャラがわかったらリクエスト企画】