クロネくん、切ない、リクエスト、性別おまかせ

*なんかこう……感覚的な感じで読んでもらえると、うれしいです!
*原作完結後捏造です。りっちーとフミちゃんは地味に原作に書いてます。






「ねぇねぇ、りっちー」


ふと振り返ってみる。すると先には、椅子に反対に座ってばたばた足を揺らしているクラスメートがいた。「あ、今の似てた? おれ、似てた?」「誰にだよ」「りっちーの彼女のフミちゃん」「性別変えてからもう一回リテイクね」 っていうか彼女じゃないよ、告白されたけど。

「りっちーはもてもてだね」
「っていうかなに、その呼び方」
「そんな気分なんだよ、クロネくん」

あはは、と笑いながら、クラスメートの男子はがたがた椅子に座ったまま移動する。よっこらせ、と窓枠に腕をかけた。遠くできらりと光る海は、相変わらず毎日変わらない。僕は高校生になった。あれから五年が経った。「時間って、たつのが早いねぇ」 一瞬、考えていることを読まれてしまったのかと思った。

けたけた笑うは少しだけ不思議な男だ。「時間って、砂時計ってよく言うけれども、俺は違うと思うなぁ。だって砂時計はひっくりかえるじゃない」 ころんってね。彼は片手をひっくりかえしたような素振りを見て、「俺はね、時間は本だと思うなぁ。とってもとっても、分厚い小説」「また意味のわかんないことを」

そうかなぁ、とへらへら笑う男は、誰かに似ている。(“どろぼう”みたいだ……)あいつは、なんにも喋らなかったけれど。「お前って、本当変なやつだよね」「ええ? そう?」
ふと僕は、ほんの少し昔のことを思い出した。あっという間だったけれど、昔のこと。



どろぼうが、いなくなった後のこと。



いい点数を取ることが、めんどくさくなってきた。どろぼうがいなくなったとしても、相変わらず机の上に置かれた教科書がビリビリになるのが終わった訳ではなかったし、母親が僕の相手をしてくれる訳ではない。(……いじめをされるのは、ちゃんと反論しないから……) そう思っていたけれど、相手をするのもめんどくさくて、僕はそのまま自堕落な日々を過ごした。「クロネらしくないぞ」と言われても、「そうですねぇ」と適当に先生の返事をして、めんどくさいからテストは飛行機に変えてしまった。

塩っぽいべたつく風ではたはた飛んでいく飛行機を見ても、とくに僕はなんとも思わなかったし、なぜだか反対にいらいらしていた。そんなときだった。『ねえ、それって楽しいの?』 となりのクラスのくん。小さい街だから、大抵の子どもの名前はみんな知ってる。

僕はめんどくさくなって、「うん、たのしいよ」 くんは、ぱーっと笑った。「じゃあ、僕にもやらせて!」 テストはいっぱいあった。じゃあどうぞ、と僕は真っ赤な答案を渡したら、くんは首をきょとんと傾げて、「クロネくんはバカなの?」

「(こいつ締め上げてやろうかな……)」
「物騒なことを考えてる顔だ! 俺のかーちゃんが俺おけつをぶったたこうとしているときの顔だ!」

こんな感じに、ばしーんってするんだぞ! とぶんぶん片手を振って実演し始めてる。いいよ、別にきみんちの家庭事情は別にいいよ……っていうか尻叩きって、君は何をしたんだよ……と、フッと笑うと、くんはンン? ともう一回不思議そうな顔をして、「でもクロネくんって、もっとかしこかったよなぁ。なんでこんな真っ赤なの?」

案外、バカにまっすぐ言葉をかけられると、ムカッとしてくるものなのである。僕は眉をひそめて、「別に、全部めんどくさくなったんだ」「ふーん……」 よくわかんねぇなぁ、とくんは僕のテストを飛行機にして折って、びゅーん! と自分で効果音を口にしながら空にまっすぐ飛行機を投げた。

飛行機は僕が投げたときよりも、ぐるぐるたくさん飛んでいて、おおっ、と僕は瞬きをした。「あ、ほんとだ。たのしーなー」 それだけ笑って、彼はニカッと歯を見せて、「クロネくんって、いがいといいやつ! また遊ぼうな!」 それだけ言って、びゅーんと去って行ってしまった。


変なやつ、と僕は残りのテストを、全部紙飛行機にして飛ばしてみた。一人で空に向かって投げ続ける飛行機は、少しだけ虚しくって、ただ淡々とした作業のように思えた。「…………びゅーん…………」




「クロネくん、あそぼーぉ!」

ガラガラ開かれたドアの向こう側から、どーん! と見覚えのある男の子がこっちに向かって突撃する。ぎゃあ! と僕は慌てて避けた。くんは、「何で避けるんだよう」と眉を八の字にして、「あそぼう、あそぼう」とぎゅっと僕の手を握った。

そのとき、クラスの人たちが、くすくすと僕達を笑ったのだ。
別にいつものことであったから、僕はなんとも思わなかったけれど、くんは不思議そうな顔をして「今、なんでわらったんだ?」 別に、誰も反応をこぼさない。誰が笑ったのかもわからない。僕はやっぱり面倒になって、くんの手を放して自分の椅子に座った。そして机から教科書を取り出して、次の時間の予習をした。相変わらず破れてぼろぼろの教科書だったけれど、別に読むのは困らない。

くんは空気の読めないやつだった。いつの間にか僕の背後にひょっと移動していて、「おお、クロネくんはすごいなぁ。まじめだぁ」と何が面白いのかにこにこしていた。そして僕の教科書がびりびりに破れていることに、ハッとしたように息を飲んだ。「なんでこんな、びりびりなんだ?」

なんでいちいち聞いてくるんだよ。めんどくさいなあ、とさっさと追いだすつもりで言ったんだ。
「僕、いじめられっ子なの。だからさっさと帰ってくんない? 次はきみがいじめられるかもね」

それだけ言ってぷいっと顔を背けた。けれどもくんは僕の後ろから動かなかった。「……う」小さな声が聞こえたのだ。なんだってんだ、と振り返ったとき、くんはぼろぼろ大粒の涙をこぼしてないていた。「うああああーん」「ハァ!?」 なんだこいつ。

意味がわからない、とびっくりしたのは僕だけじゃない。教室中のクラスメートが、ぎょっとしたようにくんを見て、次に僕を見た。僕は慌てて、何もしてないない、と首を振ったのだ。くんは、ぼろぼろ泣いていた。うああー、とバカみたいに口を開けて、ずるずる鼻水を流していた。そして、叫んだ。

「クロネくん、かわいそーだー!」

別にかわいそうなんかじゃない。なんでいきなり、仲良くもないこいつに言われなきゃなんないんだ、とびっくりしすぎて、腹が立つ気持ちなんとっくの昔にどこかに消えていいた。くんはひくひく喉をひくつかせて、止まらない涙を手の甲でぬぐって、「かわいそーだー! こんなのびりびりで、俺だったらかなしいよ、かわいそうだぁ!」「い、いやちょっと……」「ひでーよー、こんなの誰がしたんだよー、ひでーよー」

ここにいるクラスの誰かだけど。と言っても、くんは知る由もない。なので彼は、「ひでーよな、な、ひでーよな?」とクラスのみんなに話しかけ始めたのだ。ぼろぼろ涙をこぼして、鼻水まで垂らしている相手を無視できるほど、みんなは悪い人間じゃない。うん、うん、と面をくらったようにみんなは頷いて、全員が頷き終わったあと、彼はパーッと花のように笑ったのだ。「な、ひどいよな!」

う、うまい。
僕は思わず息を飲んだ。彼は一番最後に、僕のところへ戻ってきて、ぎゅうっと僕の手を握っていった。「クロネくん、我慢なんてしなくていいんだぞ。何かあったら、全部俺に言うんだぞ!」 がんばって、悪い点なんて取る必要もないんだぞ。
まるでそう言われているようで、僕はぎょっと目を見開いた。舌がぶるりと震えた気がした。そして勝手に首が下を向いていて、まるで肯定したみたいになった。そしたら、またくんはぱーっと笑った。

次の日から、僕のいじめはなくなった。







「…………ってさぁ、あれって天然?」
「え? なにが?」
「昔教室で大泣きしたときの」
「あー、クロネくんがいじめられてた」
「言っとくけど、あれは僕が原因っていうか、いじめられっ子をかばったのが原因だから」

言うなれば僕は正義の味方さ……ときらきら手のひらを差し出すと、「ああはい、ああはい」「(……こいつ適当に答え始めたな……)」「あ、またクロネくんが物騒な顔してる!」

こあーい! とはわざとらしく体をぶるぶるさせて、じろりと僕が睨むとしぶしぶ肩をすくめた。「天然とか、いみわからん」 やっと出てきた彼の台詞は、相変わらず適当で、はーっと僕はため息をついて、ゆっくりと説明したのだ。

「だからさぁ、いじめをやってる人間ってのは、自分をかやの外においてるんだよ。だから悪いことをしていても、悪いことだってわかってても関係ない。本気の悪意を持ってる人間なんて、ほんの一握りだよ。は、あっちをこっちの舞台にひきずりおろしたんだ。あと今だから言うけど、あのとき君、鼻水べったべたな手で僕の手を握ったろ。ちゃんと洗いなよ……って聞いてる?」 聞いてないよね? 

はぼんやり海を眺めていた。だめだこいつ、人の話をききやがらねぇ。「時間って、本みたいだ!」 またなんか言い始めた。
今度は僕が面倒になったので、ああはいはい、と適当に返事をして、がたがた教科書を鞄に詰め込んでみた。は自慢気に僕の前に踊りでて、「さっき、どう思った? 何を思い返してた?」「何って?」「むかしのこと。本を読み返してるみたいだった?」

にしし、と彼は歯を見せて、くるりと体を回してみた。「俺は今、読んだことをない本を読んでるんだ。続きはわかんない。想像しても、全然ちがう。わくわくするね。どきどきもする。でもやっぱり、あー、前のストーリーって、どんな内容だったかなぁって読み返したくなるんだ。それで、ああこんな話だったな、って懐かしい気持ちになって、あんまり昔の話を読んだら、本当にこんなんだったっけ、ってわかんなくなっちゃったりして」

ね、本っぽい。
人差し指をつきだして、いたずらっ子のように笑う彼を見て、僕はふはーっとため息をついてしまった。「、きみは本当に“どろぼう”に似てるよ」「う、うえええ!? なにそれぇ! 俺、悪いことしてないよ!?」「はいはい、わかってる。そういう意味のわかんないことを言い出すのが、おねーさんに似てるんだよ」

彼女は今、どうしているだろう。まだ“あのとき”には、“戻って”いないのだろうか。まだに違いない。まだ、もうちょっと時間が足りない。は不思議気な顔をした。「クロネくんは、誰かに会いたいの?」 そしてときどき、ぴーんと突き刺すような話をするからこいつはずるいんだ。「まあね」「それはお星様だ!」「死んでないけど」「そうじゃなくてぇ」

彼は言葉が伝わらないもどかしさを伝えるように、バタバタ両足をじたばたさせて、ぷーっと頬をふくらませた。高校生の男がすることか。「知ってるかなぁ、星は、意外とみんな、みないものなんだ。でも、ほんとうにときどき、ふっと気になったりして、見上げちゃって、『お、お前今日もここにいるんだなぁ』って想い出すんだよ。それでちょっとだけ胸が嬉しくなっちゃうような、そんな人!」

わかるような、わからないような。いややっぱり。「わからない。っていうか僕天文部だから、星はよく見るんだけど」「ちくしょおおおおー……」「さー、帰るぞー」「ああああ、待ってえ、俺、用意してないよう」「自業自得、自業自得」


ばたばた慌てるを見ながら、ふと僕は考えたのだ。例えば、僕の時間が、本当に本なのだとしたら。その本は、僕以外の、誰かが紐解くことができるのだろうか。
誰かが、僕達の物語を読んでくれることがあるのだろか。

例えば、何度も一日が繰り返す、ほんの少し不思議な夏の日のお話。タビという女の子と一緒に、僕らがぎゅっと手を握って一緒に道づれをした話を。

    『あなた』に聞きます。

『あなた』は僕を知っていますか?
もし、『あなた』が僕を知っているのなら、『あなた』が僕を作ってください。『あなた』のお話の中に、僕を持って行ってください。そうすればきっと、無限に話はつながってゆく。
ぐるぐる螺旋を描いて、それじゃあ次にとつながってゆく。

(『あなた』の次も、きっとまた、『あなた』がいるに違いない)




「それじゃあ知ってる、クロネくん。歌の歌詞には『あなた』とか、『好き』とか、『愛してる』とかあるけれど、一番多いのはね」
「会いたい」


知ってるよ、と笑ったら、は、なんだと眉をひょぼんとさせた。そしていつものようにぴんと人差し指を伸ばして笑ったのだ。

「みんな『あなた』に『会いたい』んだね!」



どうだろうね、と僕はくすりと笑って、あと少し、と心の中でカウントした。もう一度、彼女に会うまで、もうすこし。


2011.08.26
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本編の喩え話がすごくかわいいので、よしわたしも喩え話を! と思ったんですが難しいんですね……! 『あなた』って言葉を見るたびに、ツキコさん思い出します。
【キャラがわかったらリクエスト企画】

うううリベンジしたい……! ところでクロネくん、りっちーがあだ名ってことは「りく」とか「のりあき」とか「りひと」とかりがつく名前なんでしょうか。