★ 管理人は類まれなる迅八スキーです。亜梨子が好きな迅八くんが好きです。
★ 一部いろいろネタバレ、迅八の失恋話含む
★ 迅八たちは異星人の生まれ変わり





手に持ったテストを持ちながら、俺はポンッと教師に肩を叩かれた。「、ニ位。がんばったなー」 98。書かれた点数を見て、ぶるぶるする。かわいそうに、という空気が教室中に溢れて、教師が多少苦笑した顔をした後で、「えー、栄えある一位はー」 


「おぐらじんぱちー。はい、拍手ー」
ぱちぱちぱち



「迅八ぃいいいいこいつ締める激しく締める息の根止めるそうすれば俺が一位確実なのにこのばかああああ」
「ぐえええええええ」
「うわああああ委員長落ち着いてほんとおちついて」


錦織くんとめないでくれえええええ!!! わざわざ隣のクラスから出張してきた錦織くんが、「おちついてぇー!」とがばちょと後ろからはかいじめをしてくる。俺はそれを振り切るがごとく、うおおお、と暴れた。がくがく迅八が俺の手の中で震えている。こんなにアホっぽいのに。「こんなに外見アホなのに、何故なんだ……」「委員長、心の声が漏れてるよ。あと迅八が死んだら困るからそろそろ本気で手を放そうね」「錦織くん……」「ね、落ち着いた」「学年で一位になるためには、錦織くんも削除せねば……!」「こっちに矛先がやってきた!?」

おおおおおちつけー、おちつけー! 委員長よおちつけー! としまいにはクラス全員にかこみこまれ、俺は「ふんぬー!」と口から泡を吐く迅八を振り回しながら、暴れまわった。中学三年生、青春の日々である。

「おい、小椋の顔が真っ青だぞー!?」





俺は完璧なる委員長を目指す男なのである。成績よし、運動よし、メガネよし。別に内申点をマックスにしたいわけでもなく、やるからには完璧を。任されたからには真っ直ぐに。中学一年のときからずっとずっと、頑張ってきたというのに。それだというのに、「この小椋迅八はァ!」 コナクソォ! といいながら迅八の弁当箱から玉子焼きを盗んだ。「お前えええええ何すんだー!」「ナニモカモッ! お前の見かけがアホっぽいのが悪いー! 高校まで同じクラスにきやがって!」

にくいいいー! にくいにくいー!

もごもご甘い卵焼きを頬張っていると、錦織くんが「委員長が今ほおばってるのは肉じゃなくて玉子焼きだけどね」「それも俺のだけどな」「うまいこというなあー!」

今日も今日とて、テストで負けた。むっしゃむっしゃと咀嚼しながら、目の前の小椋迅八という男を見つめてみる。色素が薄い髪はぼあっとしていて、だいたいゲラゲラ笑って錦織くんとつるんでる。こいつらほんとに仲がいいなぁ、と毎回疑う。この運動神経だけが取り柄そうな顔をしていて、二人そろって中々に頭が回る。錦織くんはともかく、迅八はちょっとした詐欺である。「お前、人生チートしてるっぽいよなー」

俺がぽろっとこぼした言葉を、迅八と錦織くんが、必要以上にビクンと体を震わせてこっちを向いた。ほんの少し口を開けて、三秒くらい瞬きもせず、「……あん?」「ええ? なにが?」二人一緒に首をかしげる。
妙な反応だなぁ、と思いながら素早く箸を動かしながら迅八の弁当からウィンナーを奪取した。「にくいいい、にくいいい」「あ、それなら肉だね」「てめええええ俺のウィンナー返せえええええ!!!」






なんであいつは、あんなに見かけと行動がアホなのに、頭の中身がいいのだろうか。教師に口いっぱいにチョークをつめ込まれたアホを見て、俺はフーッ、とため息をついた。アホであった。

「お前、そんな勉強してるっぽい感じはせんのにね」
「まあ、KKの内容だかんなぁ」
「ン、KK?」

K1? 俺がちょいっと首を傾げてみると、「ああいやいや」と迅八ははたはた手を振って、「KK……KK……、か(K)ていきょ(K)うしの略でな」「え、お前カテキョ頼んでんの」「まっさかぁ」「だっよなぁ」 意味のわかんないこと言うなよ迅八くーん、と迅八をエビ反りにさせて、俺はドカッと背中に乗り込んだ。「いてええええええ」「はいわーん、つー、すりー」 かんかんかーん、とリング替わりにクラスの男子が手のひらを叩いて、グイッと親指をつき出す。

いてー、いてー、と床にほっぺたをつけてばたばた暴れていた迅八は、とある方向を見た瞬間口をつぐんだ。そして「い、いたくねー! いたくねー!」 一体こいつは何を言っているんだろう、と首を傾げたのだが、迅八の視線の先には、一人の女の子がいたのだ。
俺は迅八を一回見た後、もう一回彼女を見た。そしてふーん、と頷いた。「おーい、委員長、迅八痙攣してんぞ」 とっくにテンカウントこえてんぞー。





「坂口さあーん! 今プリント回収してんだけど、坂口さんの分もちょーだい?」
「あ、委員長ごめんなさい」
「いいよいいよー」

きにすんなよー、と元転入生、坂口さんからプリントを受け取る。まっすぐな黒髪で中々可愛らしい女の子だ。控えめに笑う感じが、中々に好きなのだが、俺はプリントを折り曲げ、懐にささっと入れた。丁度廊下から外でぼんやりする彼女が見えたのだ。

俺はすとんと彼女の隣に座り込んだ。坂口さんはきょとんと瞬きをして、首をかしげる。「いや別に、用事も何もないんだけどね」 うはは、とメガネを直しながら俺は彼女に笑ってみた。彼女はほんのちょっと困ったように笑ってて、俺は思わず自分の顎を指さした。「坂口さんさ、俺の名前、知ってるの?」「え?」 いっつも委員長って言ってんでしょ。とケタケタ笑うと、彼女はやっぱり困ったように笑った。

あら、からかいすぎちゃったなぁ、と焦ってメガネを直して、「俺ね、くんでいーよ。あ、やっぱなしなし。ごめん困らせちゃった」委員長で大丈夫だよぉ、とへらへら片手を振って、もう一回坂口さんの笑顔を待った。彼女は「それじゃあくん」と言って、少しだけ困って笑った後、さわさわ揺れる椿の花を見つめたのだ。「きれいに咲いてるねぇ」「そうなの!」

ふとした会話だっただけなのに、予想以上にぐいっと彼女はくいついた。だもんで、俺が面食らっていると、彼女はちょっとだけ頬を赤くして、「あ、ごめんなさい。でも綺麗だよね。椿も喜んでるよ」「そおう? 椿さんは女の子かね。俺と付き合わないって、ちょっと訊いてみて」「ふふ」「あ、わらったー」

いいねぇ。ちょっぴり安心したよ。
そう思わず呟いた後、ああ、まずったな、と俺は口元に手のひらを乗せた。彼女はちょっとだけ瞳を開けて、俺はごまかすみたいに、「いや、元気かなって思ってね。友達もできたっぽいから、大丈夫かなって思ってはいたんだけど」

彼女はやっぱり困ったように微笑んでいたけれど、「ありがとう、優しんだねぇ」「そうかねぇ」 ふふ、と俺笑った。やっぱり、気になるのだ。友人が好きな女の子のことくらい、ちょっとは気になる。
けらけら坂口さんと笑っていると、「……何やってんだ、」「あれ、委員長」 ひょいっと迅八と錦織くんがやってきたのだ。

あれまあ、と俺はパチリと瞬いた。俺はハハハッ! と笑って、「ちょっとね! 坂口さんからラブレターをいただいていたのさ!」「あああ!?」「ええええ! ちちち違いますっ」
あわあわ慌てる二人の間で、錦織くんが、「ああ、進路希望の?」「うん、そうそう」


「…………勘違いさせんじゃねぇよ」
「うあああああギブギブギブ、海老反りはいやああああ」

恋する男の嫉妬は醜い。
まあしかしながら迅八、こんなとこでこっそり会っているだなんて、案外ちゃっかりしてんじゃねーの。がんばれよぉー、と海老反りになって涙目になりながらも俺は友人の幸せを祈ったのだ。
しかしながら、案外恋愛とは上手くいかないものらしい。







目の前にはぼんやり黙々とコーラをラッパ飲みする男がいた。ペットボトルだけでは飽きたらず、唐突に人様の家にやってきて、ごきゅごきゅ自分で買ってきたらしい缶を飲み干し、それじゃあ次へ。「お前ものみやがれ」「いらねーよ、俺炭酸嫌いだよ」「てめええ俺の炭酸がのめねーのかー」「酔っぱらいかよ目が座ってるぞ」

こえーよ。どうしたんだよー、と迅八の背中をぱんぱん叩くと、彼は一瞬なきだしそうな顔をした。背中を叩いて、目から涙が飛び出たのかと一瞬心配した後、俺はしずしずと迅八の正面に座ってコーラを仰いだ。まっず、と思ってゲップが飛び出た。

部屋の中に積み上がる空き缶を見て、俺はもう一本、と飲み込んだ。そんで一言。「坂口さんにふられた?」 返事はなかった。そのかわり、ごきゅごきゅコーラを飲む音が聞こえた。「錦織くんには愚痴れんのね」 きっと、こいつならまっさきに彼に言うだろう。でもきっと、言えなかったんだろう。

「錦織くん、迅八のこと好きだったしねぇ」 
ぶぼー! と迅八がコーラを吹き出した。絨毯の上に広がった茶色いシミにじろりと迅八を睨むと、彼はあわあわ手のひらを振って「いや、わる、いや、でもお前が変なこと言うから」「変じゃねーよ。なんとなくなぁ。でも錦織くん、吹っ切れてるっぽいよね」

お前は案外ずるずるいくね。

迅八はポリポリ頭をひっかいた。取り出したハンカチを渡すと、しずしずコーラに濡れた絨毯をふいて、ああちくしょう。というように、ポロッと片目から涙を出した。まあまあ、と俺はぽんぽこ迅八の頭を叩いた。「失恋はねー、つらいよねぇ。もう勝率はゼロなのかい?」「とっくにこっちのコールド負けだよ」「そりゃあかわいそうに」

やべー、と迅八は一言だけつぶやいて、「やっべ、まじかっこわるいわ。おめでとうって言わなきゃならんのに、ちょっと今はいえねーわ」「別にそんなこと、言わなくていいんだぜ」 俺たちはまだまだ高校生なのだ。だからそんな、悟る必要なんてどこにもないよ。

そう言ったら、「高校生かぁ」と、迅八は軽く笑った。何が面白くて笑ってしまったのか、俺にはよくわからなかったのだけど、彼は腹を抱えてケタケタ笑っていた。ごきゅごきゅコーラを飲んで、ほんの少しだけ指が震えていた。

指と一緒にほんの少し震える迅八の声を聞いていたら、なんだか俺まで悲しくなってきたのだ。坂口さんは、きっと迅八のことを憎からず思ってる。そう考えてたのに、現実は違ったらしい。もちろん、俺は坂口さんと迅八のことなんて全然わかってないだろうから、全部勝手な想像だ。男と女がうまくいくのは案外難しくって、外の人間にはわかりゃしない。

振られたことを恨むのも、振ることを申し訳なく思うのも、ちょっと違う。けれども理屈じゃわかってても、気持ちの上でなんともできないのが人間だ。「俺がね、いいたいんだよ」 何がだい、とコーラを飲み込んだ。「おめでとう、幸せになれよって、前は言えなかったら、今度こそ言ってやりてー。相手の奴もさ、嫌いじゃないんだ。仲間なんだ。うすうす、俺、ずっと、気づいててさ……」

「だから、もうちょっとしたら、きっともう大丈夫だ」

そう言って、自分に言い聞かせるようにして、迅八はごきゅごきゅコーラを飲み続けた。「お前、成人したらさぁ、そんときはちゃんと酒飲んで聞いてやるよ。これでコーラはしまらんぞ」「年取ってからも、失恋なんてしたくねーよ」「確かに」

今度は俺が笑ったら、迅八はぼんやり部屋から窓の外を眺めた。「俺ら、高校生だもんなぁ」
自分に言い聞かせるみたいな奇妙な呟きだったのだが、「そうだな」と俺は頷いて、中身のなうなったコーラをカラカラ振った。「ぴっちぴちですよ」

きっと、まあ、大丈夫だ。
次があるさ。
たぶんだけどね。






2011.08.30
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全然わいわいしてないふおおおおおお (((( ;゚д゚))) 
すみませんすみませんとリクで毎回謝ってるようなもうだめっこ

迅八は地味に慶大生で、大介は東大生という。月基地のみなさんは、科学者としてスペシャリストばっかなんだろうなあ。
【わかったらリク企画】