2005年〜2007年くらいまでに書いてた短編集です。古いです。文章すっかすかです。俗に言う黒歴史です。ページ数分けるには文字数が少ないし内容が薄いので一挙に貼り付けます。キャラクターも大量。

一応一覧
笛 / 三上(3)笠井(3)藤代(5)渋沢(1)(3)若菜(5)真田(1)水野(4)佐藤(1)椎名(1)黒川(2)日生(3)横山(1)
テニス / 跡部(1)宍戸(1)芥川(1)手塚(1)
ブリーチ / 日番谷(1)


それでもいいよー、という方はスクロールスクロール。
【2011.12.05 ターゲットリンク追加】




三上亮


うん、俺って結構サイテーだ


目の前に寝っ転がるのは、無垢な少女。人がせっかく寮から帰って来たってのに、堂々とそんなポーズのヤツは。何故か俺の部屋に入っているソイツは

「おーい」

耳元にちょっとでかめの声を出して

「っん…」


(微妙に)無反応
…しかもちょっと色っぽい声出しやがって

「おーい、 サーン?」

完璧無反応

微妙にちょっと考えて。そのまま放置しといてやろうかな、なんて考えは俺の優しいトコロ


「…あきらぁ」

前言撤回


(待て待て待て、人の名前寝言で呼ぶのはナシだろ)
(気にするな俺、気のせいだからきっと)
(そうそう、静かに眠ってるじゃねぇかオイ)

「あきら…」
「うわ、気のせいじゃないし」


何度も寝返りなんて打つもんだから、短めのスカートの下なんて、もう、アレだ。


「あー…」

ぽりぽりと頭の後ろを掻いてみる。
「んー…」

頭をひねりまくってみる

「コレは、誘ってんのか」

いやマジで


(まあ、取り敢えず)


目の前に、お行儀よく手を合わせてみた



「イタダキマス」



うん、俺って結構サイテーだ。




1000のお題 【94 有難く頂戴しろ】
2006.07.





俺の彼女は、なんていうか、凄い。


俺の彼女は凄い。
凄すぎる。
ビックリだ。

俺の隠し特技、円周率の暗記なんてもんじゃない。それ以上のレベルだ。
どれくらい凄いかというと、どっかのバカ犬が、その凄さを実感した時の顔といったら、もう、アイツが初めてテストで100点(いや、10点満点だから、10点なのか?)をとったとき、名前の書き忘れで0点になった時より凄かった(部活でうるさかった)

俺の彼女は、惚れてる身のひいき目だとしても、美人だ。
文武両道のこの武蔵森でも、成績はかなり上位だし、性格が悪い訳でもない。
いや、俺としてはこれ以上最高の性格なんてない、とか地味に思ってる。
時々訳の分からないわがままなんかいったりするけど、そこがまたいい。なんて思ってる俺は、もう後戻りなんて出来ない気がする。


さて、そんな俺なのだが。
只今窮地に立たされている。


「亮くん、はい!」


にこりと笑って渡されるもの。
ああ、俺は一体どうすればいい。


「渋沢くんと一緒に作ったの。美味しいといいな」


(…美味しいとイイデスネ)
(いやしかし、今回渋沢と作ったといっていたし)
(いやいやいや。けれども俺は、藤代が泡を吹いて倒れたのを、しかとこの目で見た)



キラキラと、目を光らせる彼女。



ああ、俺はどうすればいい?



1000のお題 【574 ロシアンルーレット】
2006.10.9



この頃アイツは調子にのっている。ごめーん! 遅れた! なんていつもの事だ。
5分から始まって、只今最高記録が30分。おい、ちょっと待て。いくら女が支度に時間がかかるかといっても、これはアリエナイ。あれだ、5分前行動という言葉は今時小学生でも知っている。

おい、遅刻だぞ。

遠慮なんていらない。ビシリと眉毛に力を入れて、にらみつけるように一言。
大抵の女なら、そこで「ごめん」としおらしげに謝って、まあ最悪次くらいはマトモな時間にくるもんだ。ソレなのにアイツときたら。

『まぁまぁアキラちゃーん、怒んないでぇ?』

いや寧ろお前の言動を締め上げたくなるんだけど。オイ。

よって。今日の俺はひと味違う。ピシリと胃が痛くなるようなあの言葉に惑わされまいと有意義に寮の食堂でメシをとる。

「あれ、センパイ。先輩とお出かけじゃなかったんスか」
「うるせぇバカ犬」
先輩がさっき上機嫌で寮の前通ったの、見たんスけど」


黙々と、箸を、進める、俺
(今日の俺はひと味違うのだ)
(なるべくアイツの後に行くのだ)
(待つ方の気持ちってモンを分からせてやる!)


カチャカチャカチャ
金属音のぶつかる音に、目の前の犬が一生懸命オレンジの物体を別けているのが見える。ちっ、と自然にもれた舌打ちと共に、目の前の犬にオレンジの物体を口の中につっこんで。


「ぶはっ、ちょ、何すんスかぁ!!」
「黙れ犬!」



食堂に堂々とかかる時計を確認して、「ちっ」と本日二度目の舌打ちに、また心の中で舌打ちをして。


「バカヤロウ」



思いっきり、その場から立ち上がった。




1000のお題 【312 宮本武蔵戦法】
2007.02.01





笠井竹巳



何故だか、情けなくて涙が出る。

って、バカ?」
「バカじゃない」

ぽろぽろぽろぽろ止めなく流れる、私の涙(違う違う、心の汗なんだもんっ!)
みんないなくなっちゃった教室で、私とタクミは二人きり。
タクミの顔も、私の顔も、ただオレンジ色に染まってて。

「バカじゃなかったら、あんな事いわない」

一番端っこの席で、ちっちゃくうずくまって私は下を向く。
それをタクミはぽんぽん、って何度も頭を叩いて落ち着かせようとして。

「先生にさ、あー言うこと言っちゃ駄目だと、俺は思う」
「だって、理不尽だよ、言わなきゃ駄目だよ」

思わず、力一杯、私は顔を上げて、

タクミを、睨んだ。


ぽとっ、ぽとっ、て机の上に水が滴り落ちて、円を作る。

「先生の、返事が最悪だっ!」

絞り出すように、かすれた声を、精一杯はき出して。
そうだね、って彼の口から出る言葉を、待った。





「っていうかね」

ゆっくり、彼は息を吸い込んで

「バナナはおやつに入りますかって聞くのどうかと思うよ」
遠足に行けて嬉しいのはごもっともだけどさ。

ふってきたのは、きついツッコミと、頭へのチョップ。

「だって、聞かなきゃ駄目だ、って思ったんだもん!」
「いや、駄目だと思うよ」
「そんで返事が、『バナナは生ものなので持って行けません』だとは思わなかったんだもん!」

真面目に返ってくると思わなかったんだもん!



ホント、バカだね、って、呟かれた。

【バナナはおやつに入らない】
1000のお題 840


「ていうか、藤代が、同じ事、後で質問してた」
「ふーん」
「藤代と同レベルなんてやだっ!」
「(あ、ポイントそこなんだ)」






うちで飼ってる黒猫一匹


「竹巳ー」
「何ー、姉さんー」

二人でぐてん、となって、ミカンを頬張って。

「あったかいねー」
「んー」

ああ、寝ちゃいそう。

「コタツ、さいこー」
「そうだねー」


ああ、なんか竹巳って、


【こたつと猫とミカン】
1000のお題 32




うえ をむぅいて あーるこ
ちゃちゃちゃ、ちゃちゃちゃちゃ、ちゃーちゃ、ちゃちゃちゃちゃ


ゆったりとした音が、教室の中に響く。
真っ黒に塗る潰されたグランドピアノ(とでもいうんだろうか)の鍵盤の上を先生はなめらかに指を滑らしながら、優雅に、とても優雅に演奏をする。

先生のその生まれ持った綺麗な顔もぷらすされて、女生徒なら誰しもがうっとりと眺めてしまうような、そんな状況     のはずなんだけど。



私の場合、状況が状況だ。



「さ、 さん、歌って」
「い や で す」


子どものように、イー!と口の端を持ちながら、事もあろうか音楽教師へとの素敵な反抗。いやいや、真面目で通る私がこんな事をするのは一応理由がある訳でして。

「なんで私がこんな歌、歌わなきゃならんのですか」
「歌のテストをさぼった人に言われたくない台詞だね」


ほわっちゃー

見事な反撃だ。こりゃ一本とられたぜーとかいいながら、おでこをぱしん、と叩きたくなるような。座布団一枚はいドーゾ!とかいいたくなるくらい見事な反撃だ。

「ごまかしはいいから」


人の最期の抵抗(しかも心のなかで)にまで口出しする教師。ある意味、この笠井先生は、私が知りうる教師の中で最強ランクへと所属する気がする。いや、強制的に雲の上の人へランクアップだ。

そんなこんなで、私の静かな反抗(音楽室の端の方で座って何もいわないだけ)に嫌気がさしたのか、諦めたのか、笠井先生はまたピアノへと意識を集中させる。


どこかでつっかえる事もなく、とちる事もなく、あくまで優雅に美しく流れる旋律。
その音を聞きながら、取り敢えず私は深いため息を吐いた。
(早く帰らしてくれ、ドラマの再放送が)


さん」
「はい、ドラマ」
「(ドラマ?)今まで、こんな事なかったろう?何で歌いたくないんだ」
いつもなら、大声で堂々と歌ってたろ


大声で悪かったザンスね、と素でツッコミたくなったのは、この際置いといて。


笠井先生の指は止まらない。私と話しながらでも、すんなりと、今回のテストの課題曲を美しく(薔薇が似合うネ。ッケ!)弾いてみせる。

そんでもって、なんのサービスなのか知らないけれども、先生の素敵ボイスまで響いてきて


「うえ を むぅいて」

流石です、流石に音楽教師です。音が外れる訳ないですよね。ふーん、と聞き流している間に、どんどん歌詞が進んでいく。ほけー、上手どすなぁー。なんて、ホントなら、拍手をしたいトコなんだけど。

「あーもー!その曲嫌いなんですっ」

拍手の代わりに、私の叫び声なんか、どうでしょうか。




チャチャチャ ボーン



あ、今音ずれた



あ、先生、ありえない顔でこっち見てる



あ、なんかすっごい



面白い




「…さん?」
「なんでしょーか」
「何ソレ」
「言葉通りの意味ッス」


先生は、なんとも奇妙な、強いていうなら、ツチノコを初めて発見した人のような顔を   いや、私もそんな人の顔見たことねぇよ、まぁいいか     変な顔をして、私の顔を凝視する。
気づけば、先生がピアノを演奏する手は止まっていた。


大きく見開かれた目からは、なんで?とでも言いたげに

答えてやろうじゃないの、とかガラにでもなく思っちゃったり。


「上を向いて歩くんですよ」
「そうだね」
「そんなの、危ないだけじゃないですか!」

いや、涙がこぼれないように上向くんだろ、とか笠井先生が言い終わる前に、先制攻撃とでも言いたげに私が先に反論した。


「だいたい、なんでコレが歌のテストの曲に選ばれちゃうんですか。なんで教科書に載ってるんですか。テストなんて、校歌でもずっと歌っとけばいいんですよ!」


ほら、新しく作りますから、校歌!
簡単ですから。
たーけしちゃぁああん(校長)は、じつはーズラーのように 見えて 地毛ー
はいもう一曲出来た。


びしっと自慢げに先生を指さしたまま、私の姿勢はストップ。
先生の動きもストップ。
寧ろ空間ごと、ストップ。


「…嫌い?」
「嫌いです」

ぷっ、て今、絶対、笑われた。

「上向いて、歩いたんだ」
「歩いてません」
「試したんだ」
「試してません」
「…そんな解釈しちゃうのは、心が貧しい証拠だね」
「貧しくないです。大富豪状態です」
「よし、の貧しい心を豊かにする為に、歌おうか」
「嫌だっつってんだろオイ」

はいっ、せーの





その先生のかけ声に、私が合わせてあげたかは、定かではない。


1000のお題 【602 〜が貧しい】



藤代誠二




タンターン、タカタカタンタンタカタカ、タンタンタカタカ、タカタカタカタカ♪

『はーい、やってまいりました、第60回、たいいくたいかーい!!』

ノリノリのテンションで叫びまくる、放送委員

「よーい、ドン!」

パンっと大きな音をたてながら、スタートをきる生徒達

「あつー」

やる気のない、いつものメンバー



「っていうか、さ、なんでこんな微妙にあっつい時にあんのよ」
「校長に聞け、校長に」
「えー、たけしちゃん絶対マトモに答えてくんないって」

いつもは教室に机とワンペアになっている椅子は、今日は別。この日がじりじりと照りつけられる炎天下の中、観客席へ所狭しと詰められる。そんな中、隣にどーんと座って、私とおんなじように、暇オーラをまとわりつけながらグラウンドを見つめる、三上。

「三上ー、渋沢は?」
「委員会だろ」
「中西」
「日陰に移動した」
「根岸」
「整列係」
「辰巳ー」
「しらねぇ」
「笠井君は?」
「短距離走。つーかアイツ学年違うだろうが」


つーかみんな忙しいんだね、暇なの私達だけなんだね。
(寂しいよ、私は)
思わず涙がポロリ。

私も三上も別に委員会の仕事もないし、競技だってそんなに出てない。
つまりは、ぼー、と見とくだけ。

「あ」
「んだよ」

ぽん、と手を叩きながら一言。

「誠二は?」
「ああ、藤代は      

『おおっと! 毎年異様な盛り上がりを見せる青春借りパンリレー!! 初めは青春の如くキャタピラリレーで幕が開き、そして男子の女装レースにバトンタッチ! ぐるぐるバットと言う難関を乗り越え、コーラ一気のみの試練を乗り越え! 待ち受けるのはパンを食べまくりっ! そしてそして紙を狙い水鉄砲で撃ち抜くというこのリレーですが      



興奮しまくったしゃべりに一瞬、間が開いた。



『そして、そしてそしてそして今! アンカーへとバトンタッチ! 三輪車かゴーゴーカーでゴールテープを切る事になっていますが…先頭は     おお! サッカー部のエースストライカー、藤代誠二だぁああぁあぁぁあぁぁぁああぁあ!!!!!!』

三輪車に乗りながら、二番手と恐ろしく差を広げてしまっている誠二。
普通に乗る事に飽きたのは、観客へと手を振りながら、サービスをしまくる。

「…バカだ、アイツ」
「やるからには完膚なきまでにたたきつぶせっつーの」
「いや三上、それ違う」

『おおーっと!! 藤代誠二、休憩だ! 休憩までしている! 疲れてしまったのでしょーかぁ! そんな中二番手が着々と近づいてきているぞぉーーーーー!!!』


三輪車にのんびりと休憩中の誠二の後ろに、二番手が。
ホントにアイツはバカだ、と思う。

けれども、アイツが負ける姿は見たくなくて。


いっつも、戦陣を切って、飛び込んでいくアイツ。


「こんの、うつけ者がぁーーーーー!!!!!」


腹の底から出した、この声が、アイツに聞こえたらいい。




1000のお題 460【 うつけ者】



甘いはずなのに、苦いソレ 。カカオ99%

取り敢えず、私と誠二は一つのテーブルを挟んで向かい合う。
がさりと音をたてながらコンビニの袋(ちなみにサン○ス)取り出した、その物体を見ると、誠二は分かりやすい程に、そしてこれでもかという程に顔を眉毛を、口をひん曲げる。

「…せんぱーい、これ、何スか」
「あなたには分からないの、この茶色の物体が」
「いや、怪しい言い方しないでくださいよ」
「今巷ではやっているんだってさ」
「巷って何処ッスか」

「ええい! 男がうじうじ文句(?)をいうなぁ!」


その場のノリと勢いで、ビリリと包装紙を破ってその物体を取り出す。
私が綺麗に破ったその紙に書かれた『少しずつ、溶かしながらお食べ下さい』そんな注意書きなんてしるもんか。
にやりと笑い、私はその物体を、天高く掲げて       

「ちょ、何を」
「神妙に、お縄につけー!!」

誠二の口の中にそれをつっこんだ。



ギャーーーーーーー、なんて色気のない悲鳴が、ご近所様にそれはもう、筒抜け。



1000のお題 390【ひとかけのチョコ】


コメント、不能。

「おい、犬ー! 飲みもんかって来い、飲みもん」
「はい!」
「おい、犬ー! 腹減った、何かくれ、何か」
「はい!」
「おい、犬ー! 暇だ。グラウンド20周してこい」
「え、あ、はいぃいぃぃい!」

そのまま、一目散に走りだそうとする犬の服の袖を引っ張って

「アホ、冗談に決まってるだろ」
「はい!」


こいつはホントに、バカだ。


1000のお題 【434 馬鹿な忠犬】



ある猫から見た彼ら。



「この点はなんだこのバカ犬がーーーーー!!!!」
「だからいったじゃないですか俺ダメだってそういうのー!!!」
「ダメって何だダメっておいダメって」
「ダメなもんはダメでダメダメであるって感じッス!」
「ええい日本語がなっとらん!!」



いきなりガガン、と扉をぶったたいて乗り込んできた一人の先輩。さん。
(ここは男寮なんだけどなとかちょっと思った)
藤代誠二としっかり名前が書かれたソレ(真っ赤だ…凄く真っ赤だ…)を振りかざしながら、まるで鬼の如く怒り狂う先輩。

よくあんなに怒られて、先輩の事嫌にならないよな、なんて三上先輩の言葉に、キャプテンが微妙に眉毛のねっこをくにゃりと曲げていたのは記憶に新しい。


(けれども俺は知っている)


あの先輩が持つ真っ赤なプリントは、誠二が紙飛行機にして飛ばしてたプリントだって事を。
この部屋の窓から先輩めがけて飛ばしたって事を。



「特訓だ、このバカの為に、私直々に特訓してやるっ!!!!」
「はい、先輩!」


ただ、かまって欲しいバカ犬だという事を






(…テストの点はわざとじゃない事を祈る)



1000のお題 【498 スパルタ式】
2006.10.2



斜め後ろ
その席からは

      っ!!!!」

一瞬、意識が飛びそうになった。
初めて、初めて、そう初めて、それを、見てしまった。


ゆるゆる聞こえる先生の声に、一人一人立ち上がって、真っ白くて、赤いプリントを貰っていく。そう、それだけの行為が、私達学生の頭を悩ませるのだから不思議だ。

私は、呼ばれた、先生に。

(こ、これは…っ!!)

違う意味で感動。(駄目だろ)

がっくりと机の上に頬をくっつけて、そのプリントは机の上。誰にも見せないように、右下の部分を三角に折る。……堂々と見せている方々が羨ましい。
なんて、ちょっと卑屈な気分で辺りを見回した。


左右の子。だめ、隠してる。
だったら、後は斜め前だけ。

見た。藤代君だった。

バシン、バシンとお友達とたたき合いの最中らしく、ちらり、と素敵にソレが見えて。好奇心、ってヤツだ。隠してないんだから、いいじゃん、見られてもいいって事だよね。
      なんて、思った私が悪かったのか。


「………」

再び、見てはいけないものを、見た。

敢えてどれくらいかというと、私の、ものの、半分、………以下。
ああ、それなのに、何で彼は、あんなに、あんなに堂々としているのだろう。

(それに比べて、私は、)

ああもう、色んな意味で泣きたい。


………堂々と。
そう、堂々と、彼のように



震える手で、真っ白い紙の三角に折られた部分を、ゆっくりと、手を添えて、そう、彼のように、と       私は、


後ろから、ポン、と私の肩に誰かが手を置いた。

くるりと振り返ると、つんとつり上がった、まるで猫のような目をした少年。何だろう、と言葉を待つと、ふう、と彼は一度息を吐いた。


「………誠二はバカだから、あんまり気にしなくていいよ」


………何ともいえない気分になって、
また、プリントの右端を、綺麗に三角に折りなおした。



1000のお題 【216 天才バカ】
2007.04.23




渋沢克朗



なあ、あれをどう思う、笠井
完璧に、アレですかね…三上先輩



じ、と見つめる大きな目。
パタパタと振られる(ように見える)尻尾
極めつけに、小さな小さなそのボディ(あえて英語で)


は、俺にとって、ヤバいくらいな、


 存 在 


、おはぎ、食べるか?」
「ん。たべるー」

その小さな口を、頑張って頑張ってあんぐりと開け、両手におはぎを持ち、ぱくりと頬張るその姿。食べ終わった後の、渋沢くんだいすきーの言葉の為に、俺は、俺は…っ!


、わらびもち、食べるか?」
「たべるー」




渋沢克朗。中学三年にして、人生最大の生き甲斐を、見つける。






「先輩、先輩の大好きってのは…」
「ああ、俺も飴やったときに、三上くんだいすきーvとかいわれたな」
「あ、飴…っ! そんなもん持ち歩いてたんですか先輩」
「ち、違う勘違いすんな笠井! 女子から貰っただけだ、いいかそれだけだ!」
「はあ、それで先輩に、あげたと」
「そうだ」
「大好きーv目当てに」
「そうだ…っておい!」
「(バカを見る目)」
「なんだ、なんだその目はなんなんだオイ!」



ライバル登場。




1000のお題 【664 餌付けの名人】
2006,10,3







郭英士



「か、か、か、かく…確、信犯、確信、犯…?」


。ユンのいとこ、俺にとってのまたイトコ。
ちょくちょくユンと一緒に日本に来ては何故か俺の家で滞在する訳で。

そんな彼女は昔俺があげた、彼女にとって、日本語を勉強する為の本、俺にとっては日本語を調べる為の本を、彼女にしては珍しく、調べる方に天秤が傾いているらしい。

「何調べてんの、
「確信犯…?道徳的・宗教的・政治的な信念に基づき、自らの行為を正しいと信じてなされる犯罪。そんな、意味?」

ぶっとい、茶色の表紙の本を穴が開くほど、見つめて。

「ニホンゴって、難しい、ネ。私、別の意味で覚えてた、のに」

瞳を伏せ、その唇は震えている。

「コトバ、一つ駄目だから、ヘダタリが出来るのかな」

彼女にとってそれはぽつりと出てしまった言葉かもしれないけれども、ただ、その言葉は俺にとっても、いえる事で、誰にもいえる事で。

息がつまった。


「どうだろうね」
俺には分からない。


ゆっくりと彼女は伏せていた瞳を俺へと向ける。

俺は彼女に違うよって言えばいいのか、そうだよって言えばいいのか、俺には分からない。
きっと誰にも分からないんじゃないだろうか。


「ヨンサ、傷ついた、ゴメンネ」

す、と細い手を俺の頭へとよせて、イイコ、イイコとか言いながら、優しく撫でる。
懐かしい感覚と、こそばしいような、そんな感覚が流れ込んできて。

は、伝えたいから、日本語を覚えたんじゃないの」


幼い頃のような、そんな感覚と一緒に

「ソダヨ!」

ヨンサと話したいから、覚えた!って、言ってくれるキミ。

只、たまらなく、その存在が、可愛くて。



「ン?」
「確信犯は、日本人も知らないと思うよ」
「え」


只、愛おしい。



1000のお題 356 確信犯


まーだだよ



そろそろかな。そう思う度に、何度も何度を覗いて。
自分の行動に空しくなってしまうけれども、それでもパソコンへと向き直る。
画面の前にずらりと並ぶ文章。

Re;       郭 英士


まだかな、まだかな

まだかな、まだかな


まーだだよ、っていう声は聞こえるけれども、
もーいいよ、なんて声は聞こえない。


まだかな、まだかな

まだかな、まだかな



ずっとずっと続けばいい

もーいいよ、なんていわないで



1000のお題 【57 君にくびったけ】




電車でゴー


「私、思うの」
「何が」

カリカリ、と何かを書く音(何書いてるか、なんて分かりきってるけど)
その書いてるものを、じー、と私は見つめて。

(今日の天気、晴れ。一時間目、中谷先生、数学)

静かに、静かに、心の中で音読(寧ろ黙読?)


「思うんだよねぇー」
「だから、何が」

カリカリ、カリカリ

「片思いってさ、片道切符みたいってさ」
「ふうん」
「勝手に切符だけ買って、勝手にどっか遠いトコまで突っ走っちゃって」
「ん」
「そんな感じ、って思わない?」

ぐいん、とでっかく手を振りながら、人の演説を、しっかり無視なコイツ。
何度も、何度も生返事で。

(どうせなら、返事しない方が、マシ)


カリカリ、と書く音が止まって、ソイツは不意に顔を上げる。
ビックリして、ビックリして、引きつりそうになった顔を、精一杯押さえて

「…えーと」

ソイツの手元の書き残った部分は、日直の名前だけ。

「いいよ、私が残り書いとく」
「そう?」

悪いね、なんて言い方しながら、しっかりと帰る準備が万端な、ソイツはムカつく。
じゃ、と一言だけいって、振り返りもせずに、ドアの向こうへと消えてった。


学校指定の鞄の中から、小さめの入れ物ひとつ。
チャックを開けて、お気に入りのシャープペンシルを取り出す。

「…相方の名前くらい、覚えとけ、ばーか」

、とだけ書いて、隣の郭 英士、って言葉を見て


ちょっと、泣きそうになった。






(まあ片想いは片道だから、片想いっていうんだけどさ)





1000のお題 【408 片道切符】
2006.07.25



若菜結人



ちゅどーん

「…あーあ、死んじゃった ヘタクソ」
「うるせぇー」

ゲームオーバー、なんて真っ赤な文字が目の前のテレビ画面にでかでかと光る。その文字を見て、口を一文字に結ぶ結人。ちくしょー、あとちょっとだったのにー、という悔し紛れか、それともホントの事が知らないけど、取り敢えず恨み言がつらつら。

「もう一回!」
「えー?またかよ」


ぶいん、と勢いよく振り回したコントローラーの紐が、綺麗に曲線を描いた。


1000のお題 【403 俺の屍を越えてゆけ】



(ひもじい)
お腹がへった。呻いてた。おへその辺りを両手で抱えながらくるくると回っていると、「しょうがねぇなぁ」といいたげな顔をした結人が、薄い青の皿の上に、ぶきっちょなにぎりめしを三つ。にぎりめしって丸いか三角なんじゃないかい。きみのこれは、どっちもなってないんじゃないかい。

「やだぁ、まずそう」
「失礼な。せっかく結人様が丹精こめて作ってやったってのに」
「愛情とおいしさは比例しないんだよう」
「空腹は最高のスパイスっていうだろ」
「お腹が減っているからこそ、美味しいものを食べたいなぁ、私はー」
「……わがままめ!」
「……ぶきっちょめ!」

茶色の塗装が剥がれかけた茶色い木目のテーブルを、どんっと拳でつっつく。あ、やっべやりすぎたかな、と彼を見詰めると、やっぱり予想通りに腕を組みながら、むっと目をつり上げて、口元を少しとんがらせていた。茶髪のスネちゃま。

しょうがないなぁ、食べてやるよ、と高々に宣言してやると、態度でっかいんですけどぉ、とやっぱりすねたような口を開く。
ぐちゃぐちゃな形をしたおにぎりへと手を伸ばした。指先にぴたりとお米がくっつく。しっかりと握ってないもんだから、ぽろぽろと指の先からこぼれ落ちる。べったりとくっついた海苔が、歯にくっついた。昆布の味がした。全部食べる前にやっぱりこぼれた。

手のひらにくっついた塩を、舌のさきっちょでなめ上げると、少しだけ嬉しそうな顔をした結人が、テーブルに右肘を着けて、そのまま手のひらへと顎を乗せている。気のせいか、ちょっとだけ嬉しそうな、とろけそうな顔をしていて、

「うまいだろぉ?」

ちょっとだけ、自慢げな顔をしていた。私はもう一つ、ぱくりとおにぎりを口に入れて、すっぱい梅干しの味が、口の中に広がった。「うん」「へへ」「まずい」「おい」
梅干しがすっぱかったから、出す言葉まですっぱくなっちゃったんだよ、とニヤニヤ笑いながら、私はもう一つのおにぎりを、また口に含んだ。
少なくとも、もうひもじくはないな、とまた笑った。

【S.D.S様の企画に投稿させていただいたものでした】


目の前には、赤いもの。


「ねぇねぇ、さん。これはなーに」
「赤いもの」
「このお皿にのってる意味はなーに」
「食べろ」

赤い、ソレに俺は躊躇いがちに手を伸ばして、


にあげる」
「いらない」


赤い赤い赤いソレへ


「キスしてくれたら、食べる」


いや、冗談だよ。激しくさ。うん、激しく。
けれども気づいた時にはぐいん、と襟元を引っ張られる感覚が

(え、ちょっとマジ? マジ? マジ?)(ファーストキッスは俺から奪うって決めてたんだけど)(なんだこのトキメキ展開!)


口元にぴとりと冷たい何か。


「ゆうと君は、トマトとキッスがお似合いデス」



俺のときめき返してください。




1000のお題 【714 ふざけんな、バカヤロー】
2006.08.13


ギラリと照りつけるそれは。きっとそれは青春である。


「あつい」
「そ?」

からりと炎天下。ジャカジャカ行進。暇だなぁ、なんて。
ふわりとした草の上に腰を下ろしながら、只、きゅ、と前を見つめる。

「何が、面白くて、なぁ?」
「私は結構面白い」

つーっと額に流れる汗

「…連合だぞ、体育祭が」
「他のガッコと接触する良い機会」

そんなありえないものを見るような目で見ないで。
ぎゅ、と掴まれた心臓に、気にしないようなそぶりを見せて。
カタリと震える手を誤魔化すように、水筒の口を開けた。

「ずるい」

ぱしりと流れるように。気づいたら。


ゴクリ、と喉がなる音に、ゆっくりと、頭に、光景が、そして



「ゴチソーサマ」


…ばか




1000のお題 【688 水筒に口を付ける】



「くうう…っ」
「年を考えろよ、ねーちゃん」
「うるわいわいっ」


昨日はなんともなかった。
なんともなかったのだ。
それなのに、今日になって、ぴくぴくと引きつられるように痛いってコレどーよ!

だらりとお気に入りのクッションを抱きしめながら恨みがまし気に今日も今日とて楽しそうにコントローラーを振り回す我が従兄弟を見つめた。
(ちくしょう、それは私が買ったんだぞ)(何ひとんちに上がり込んで来てんだコラ!)

「おー、俺肉体年齢20歳! 一番わかーい」
「ふふ、私は72歳だってよ…」
スタミナとスピードがないんだってサ


目先でぶうんっと素早く振り増された軌道が見える。
畜生畜生、と動かした体はピシリと悲鳴を上げて。
(あ、目尻に涙が)



「あーもー、お前はサッカーだけしとれー!!」




1000のお題 【878 三日遅れの筋肉痛】
2006.12.3 ←wiiの発売くらいに書いた





真田一馬



だってヘタレだもん!


「一馬一馬! あのね、クッキー作ったのよ」

パタパタと、尻尾を振るみたいに俺へと近づいてくるソイツ。
ああ、可愛いなあ、なんて。思わず伸ばしてしまいそうになる、俺の手をぐ、とこらえる。

「…食べて?」

(お前を?)

「何赤くなってんの、一馬」
「ああ、うん、いや」


この俺の頬へと伸ばしてくる手を引っ張って


「好きだ!」


いっつもリンゴくんってからかわれる俺。
いっつも卵サンド好きってからかわれる俺。

でも、やるときはやるんだぜって。
精一杯、力を込めて、出来る限り、俺が出来る限り、出来る限り!



「かーずーまー?」



って出来たらどんなにいいんだろうな!!

「おーい、赤いぞー?」
「うあっ」


だから、手で触んな、触んじゃねぇよ

でも、触りたい、とかさ



じくじくと痛い、この関係に、さっさと終止符を打とうかな、なんて




(でもフられるのは嫌だ)





1000のお題 【500 ありがち】
2006.07.25




水野竜也



俺が今日帰ってからやること。
1、宿題 2、イメトレ 3、ホームズの散歩


ぱたぱたと嬉しそうに尻尾をふる犬を見つめて、よくもまぁ、代わり映えのない路を、何度も何度も楽しそうに歩くものだ、なんて思う。
しかも、リード付きで。

(自由のない毎日を、それども、か)

まぁ、俺にはマネ出来ないな。と、どっぷりとくれつつある日を、細めで見つめた。


「すみませーん、そこの人ー!」

遠くで微かに聞こえる声に、ぴくりと耳を動かしたのはホームズだ。ピタリ、といきなり止まったホームズの体に、なんなんだ、と俺も一緒に止まる。
暫くすると、「そこのひとー!」と何だか何かに懇願するような声に、そこのひとを見渡しても、俺しかいない。

(…俺、そこの人?)

「なにか…って」
「うわ、水野だ」
「……」
「あからさまに嫌そうな顔すんなっ!」


嫌になる程毎日見ている、セーラー服。
女子だ。めんどくさい。めんどくさい。
(っていうか、何で俺の名前知ってるんだ。ファンか。追っかけか)


「おーい、すみませーん」
「何か」
「何他人行儀な話し方してんだよ。クラスメートだろ!」
「…はぁ?」
「…お前、私がお前のファンか、追っかけかって思ったてたろ」
「…(思ってたな)」
「…思ってたろ!」
「で、なんだよ」


見覚えのない自称クラスメートは(クラスの女子なんて覚えていない)、ちっと女子らしかぬ舌打ちを一つ(…小島でもやらないぞ)ホームズの頭へとひょいと手を伸ばしてぐりりとなでつけながら、バカみたいに、


「な、ここ、ドコ?」
「は?」
「ここドコだよ」

まさか。まさかまさかまさか。

「お前、迷子?」
「そー」
「制服で?」
「学校の帰り道だから」


何が可笑しいのか、にかにかと口の端を上げながら、何度もぐりぐりとホームズの頭をなでつける(ヤメロ、禿げる)

ただ、目線で。このクラスメートに、どうやって、迷子になったんだ、と問いかける視線に知ってか知らずか、「探検してた」と、あっさりと口を開いた。
この言葉を聞くヤツが俺以外いたとしても、きっと同じ感想を抱くだろう。ドコの子どもなんだよ。と。


「水野、学校の方向は?」
「ああ、あっちだ」


押しつけるように投げられた言葉を、反射的に打ち返すと、また自称クラスメートはにかりと口の端を上げる。きっとコイツなりのありがとうという意味なんだろう。


「案外、探検って楽しいんだぞ!」


じゃあな、と。俺が学校へと指さした方向へと、走り抜ける彼女は、パタパタとスカートがはためいているのが、遠目でも分かった。


嵐のような自称クラスメート。
去り際の言葉のおもしろさに、あんなバカみたいなのが、クラスに居たのだろうか。と明日あたり、適当にクラスの中を見回してみようかな、と俺らしくもなく、明日の部活以外の楽しみが出来たことに驚いた。


(ま、別にいいだろ)

こんな日常が紛れ込んでいる事ぐらい。



「ホームズ、今日は違うコースいってみるか」
(決められた道以外を行こうか)


わふん、と犬が吠えた。





1000のお題 【554 土地勘】
2006.10.5



隣の席にいて、当たり前に会話して


「水野、今日、日直だよ。黒板消さないと」
「あ、悪い」

机につっぷしたように眠っていた彼を起こすのは気が引けたけど、なんとか心を鬼にした私。きっとサッカー部の練習が忙しいんだろう。

(忙しいんだよね、疲れてるんだよね、…一人じゃ、辛いよね)

いや、黒板消しなんて一瞬で終わる気がしないでもないんだけど。
でも、適当に言い訳つけて、うずうずと動く足をそのまま一気に進める。


「手伝う」

たったそれだけいって、二つある黒板消しをぱしりと取り上げ、一心不乱に黒板へたたきつけるようにしてチョークを消していく。

クスリ、と一瞬笑われた気がして。けれどももっと黒板へたたきつけるように。


「ありがとうな」
「べつに。好きだし」


一瞬、音が止まった気がした。


(…好きだし?)(え? 何が)(なななな何いってんだ私!)


「ここここういう雑用好きだし!!」


水野は何事もなかったかのように(いや彼にとっては何事もなかったんでしょうね!)黙々と黒板を消して行く。慌ててつきたされた私の言葉に気づきもしないで。

(ちくしょう、水野め)


私のばかやろう




1000のお題 【10 ミステイク】
2006.11.7


隣の席にいて、当たり前に会話して



「水野、今日、日直だよ。黒板消さないと」
「あ、悪い」

アイツが近くにいるって思うだけで、バクン、バクンと跳ねる心臓を落ち着かせようと机につっぷしていたら、アイツに声を掛けられた。格好悪い、俺無茶苦茶格好悪い。
白く埋め尽くされた黒板を誤魔化すように黒く塗りつぶしていると、「手伝う」と少しうわずったアイツの声が聞こえた。

途端に、心臓がまた暴れ出す。

(落ち着け俺落ち着け俺落ち着け俺)
余裕があるように、意地をはって表情を落ち着かせようと、無理に口元を上げた。

「ありがとうな」

どもってしまっていないだろうか?
大丈夫だろうか?
今すぐ叫んで、この教室から飛び出してしまいたい、と思った時


「別に、好きだし」


酷く落ち着かない間が生まれた。
まるでぽかりとソコだけ抜け落ちてしまったかのように。


「ここここういう雑用好きだし!!」


(…雑用かよ)


何事もなかったかのように、黒板へと向き直る俺。
ちょっと泣きたい。



(でももう一度その言葉を聞きたい俺は何だ)


1000のお題 【2 やり直せ】
2006.11.26





佐藤茂樹


ガラガラガラ。響いた音と一緒に入ってきた彼に、ガバッ! と抱きついた。
「シゲちゃーん!」

障子を開けっぴろげのまま、金髪関西弁少年ことシゲちゃんは、「おいおいなんやねん」とぼそっ、と呟いて、シゲちゃんの腰にこれでもか! とくっついていた私をずるずる移動させる。取りあえず私といったらシゲちゃんのお腹にタックル! したままの姿勢だったもんで、周りの風景なんててんで見えやしなかったけれど、もう一度聞こえたガラガラガラ、という音に、あ、今障子閉めたな、とかちょっと思う。

「シゲちゃーん、ふられたー」
「そりゃ可愛そうやなぁ。どっから入ったん」
「もうちょっと反応してよ、さっきお寺の前でフラフラしてたらメガネ掛けたお兄さんに入れて貰った」

なんやもーあの人はー。とぶつぶつシゲちゃんが呟く声が聞こえて、「ちょい熱いんやけど。放し」ビシッ! と言い放つ言葉が妙に突き刺さるぜダンナ!

「あああ、ふられちゃったよふられちゃったよシゲちゃん」
「そりゃもう聞いたわ」


思い出すだけでも、むかむかっ、としてしまう。取りあえずドラマチックな演出が男は好みだとどっかで聞いてしまった訳で、それならば、と一夜漬けで書かせて貰った恋文ぶっちゃけラブレターをそっ、と彼の下駄箱の中に入れておいたのだ。取りあえず私の名前だけ書いて、好きなんだぜあんちきしょー! みたいな叫びをつらつらと書いてみて。

そしたら次の日、私が使ったものと同じような真っ白な封筒が、す、と私の下駄箱の中に入ってるじゃないか! こ、これはもしかして! とかドキドキ心臓の音を弾ませながら、このクソ熱い時期に何故だか布団の中にもぐりこんで、ピリピリピリと、のりを剥がして、

「それで?」

シゲちゃんがほんの少し興味深げに、声を挟んだ。
私といったら、思わずうふふ、と薄い笑みを顔に浮かべつつ、ポケットの中から、ぐしゃぐしゃになってしまった紙を、よっこらせと取り出す。


『趣味じゃありませんごめんなさい』


ぶはは! と笑うシゲちゃんの額を、取りあえず人差し指でズビシッ! と突っついた。「ちょ、痛いやんなにすんの」「私の心の方がもっと痛いさ!」 文字通りな!

「ああいやだー! 趣味ってなんだい趣味って!」
「まぁ顔とか性格とかちゃうん」
「だよねー! クッソウ!」

思いっきり叩いた拳の先は、バフッ! と音がする。だって座布団叩いたからさ。流石の私だって、他人様の畳を思いっきり叩くのは憚られる。ばふっ! もう一回! 「ちょっと埃たつからやめぇ」怒られた。

「まぁまぁ、新しい出会いはようけあるって。ほらほら恋多き乙女ってええ響きやん」
「そうだよね、まだまだあるよね、よっしゃ希望が見えてきた!」

取りあえず開いている窓に向かって、ぐっと拳を突き出してみる。カァーカァーカァーとマヌケに響くカラスの声やら、見えた先が墓地だったけれども、それでも希望の光は灯る。「でもシゲちゃん、やっぱ誰にも相手されなかったら、シゲちゃんが相手してくれる?」




そのとき、シゲちゃんはにっこりと笑った。





「いややわぁ、俺かて趣味があるもん」



エルボー!





1000のお題 【75 我が人生最悪の日】
2008.05.23


椎名翼


「椎名 翼です、宜しくお願いします」と、きらりと笑顔をきらめかせて。
まだ制服ができあがっていないのか、私服姿のソイツはいった。



昼休み、恐ろしいほどにごった返す教室に、いてもたっても居られなくなって、ぎゅうぎゅう詰めになっている廊下から押されるように抜け出した。
みんなアレか、転校生が珍しいのか。


なんて思いつつ、こっそりと私的やすらぎの場所へと足を向ける。
なるべく人の少ないところ、なんて思いつつ移動したもんだから、この先微妙なドラマが待っている事なんて、まったく知らなかった。



「…あ、椎名翼」

思わ呼んでしまったフルネームに、可愛らしい顔を歪める椎名。うん、生意気っぽ面。

「何」
「いや何っていわれても」
「用事がないならさっさとあっち行ってくれない?」
「よ、用事って」
「何、用もないのにわざわざ後つけてきたって? 何ソレストーカー? ああもう最悪ここの学校って。見せ物パンダじゃあるまいしやってられないなホント。人が少ないトコ探すのも一苦労なんですけどっていうか」
「ちょちょちょちょーっとまてい!」

速い、恐ろしく口の周りが速いぞこの子は。つーか何勝手に変な疑惑をつけるのさキミは!
そのまま進みそうな話を遮ろうと、がしり、と椎名の口元へと手を伸ばして。
や、即座に振り払われたけど。

「キミが大変なのはよくわかった、十分わかった!」
しかしながら私はストーカーなどという行為には及んでいない!


疑わしげな目(…むかつくー)のソイツは、はんっと鼻で笑った。ちくしょう。
ま、そんな事はどうでもいいけど、と軽く言い捨てる椎名。いや私は全然よくないんですけど。


「この学校って、サッカー部ある訳?」


なんでみんな、コイツなんかを見学しに来るのだろうか。ちょっとっていうか、かなり顔が可愛いだけじゃん、と思う。只の生意気なガキだとも思う(同い年だけど)
そんな感じで眉を寄せて椎名を見ていたら、「何、ないの?」と不機嫌そうに声を掛けられた。けっ!

「ないってったらない。あるってったらある」
「歯切れが悪い」
「作ろうとしてる最中らしい」
「へぇ」


確かクラスの井上あたりが、とぽろりと漏らすと、心なしか、上がった声の音。


「それは、楽しそうだね」


細めた目が、なんとなく笑っているような気がした。



(…こりゃ、パンダになる訳だ)
野次馬が鼻がきくってのは、ホントだったらしい。



「で、井上って誰」
「サルっぽいの」
「ああ」
「え、サッカー部(になろうとしてるヤツ)にケンカ売る気?」
「まあそうなるね」
「やめときなよ、女子ならおしとやかにさぁ」
「じょ…っ!?」


殴られた。





1000のお題 【28 羽】
2006.12.3



黒川柾輝


こちん、と割ったそれは、白くて黄色


じゅーじゅー、と美味しそうな音を漂わせて、フライパンの上でくるりと踊る。
それを見つめながら、後ろには黒い狼が

「なぁ、まだ?」

(ハラヘリ狼は黙ってなさい)
じゅーじゅー、じゅーじゅー

「おい」
「まーだ」

言い終わる前に、こっちから言ってやる。
背中をソイツへと向けたまんま、ピシリと声を出して。

「俺、腹が」
「今作ってんの」

ぱかりと冷蔵庫を開けたそれからもう一個、それを取り出して、ぱきんともう一回。
(あ)

「タイムカプセルみたい」
「何がだよ」
「これが」

彼へと向けた、真っ白い、カケラ

「アナタへお届けします、みたいな?」

返事の代わりに、ぐー、と鳴った狼君のお腹の音。
ぷ、と洩れてしまった声を隠すように、またフライパンの上へと視線を向ける。

       届く先は、腹の中ってか?」
「ん」
「結局は、俺に食べられる運命だけど」



ゆっくりと、後ろへと視線を投げかけて

なぁ? と口の端を上へと上げた、彼がいた。



1000のお題 【466 タイムカプセル】


「…どうするよー、柾輝ー」
くるりと私はシャープペンシルを


(提出日、明日)
確かにそう書かれている、その文章。

「まーさーきー」

面と向かって座りながら、助けを待つように、ただただ、懇願。
ごろん、と床に寝っ転がっているソイツは、はーと深くため息を吐いた。

「柾輝はコレどうしたの」
「白紙で出した」
 

先生、かわいそー。って小さく呟いたら、別にいいんだよ、俺は。と反論。
何がいいんだよ、オイ。


「つーか、無難な進路でも書けばいいだろ」
「ぶなんー?」
「そ、無難」


小心者のこの私が、白紙でなんて事、出来るはずもなく


「将来、お嫁さんになりたいです、にしとこ」


ウフフ、と口元を押さえながら、とびっきりの可愛らしい字で、ここは一つ。
(結構本気なんだけどね!)
ふー、と隣で聞こえるため息に、にやり、と柾輝お得意の笑みをマネしてみた。

「無難っしょ」


微妙な沈黙、一つ


「…頑張れよ」
「…そこはさ、俺が貰ってやるよ、とかいうトコじゃない?」


空気読めよ、オイ。
お前が読め




(ちなみに先生から帰ってきたコメントが、夢があっていいですね、でした)
(もの凄くムカつきます)




1000のお題 【383 妥当な路線】
2006.07.26



日生光宏



ほんの少し、肌寒くなる。
木の葉が舞い落ちる。
あの日が、近くなる。




「日生ー、さむいー」
「衣替えの季節だなぁ」

俺にだって、そんなのどうしようもない、と微妙に方眉を下げる同級生(そんでクラスメート)を見つめて、ざわざわ揺れる木の葉へため息を向けた。
びゅうう、と冷たい風が通りすぎる。

「俺の上着を、とか言ってほしかった」
「俺に上半身裸の変態になれって?」
「日生の裸みてもなぁ」
「なんだよそれー」

けらけら笑う日生の隣で、長袖のシャツ、ドコに置いたかなぁ、と只今一番重要視されるべき事を頭のタンスから引き出す。けれども、そのタンスの場所がどうやら行方不明になってしまったらしく、頭を抱えるしかない。

「どうしたよ」
「ああ、いや、ちょっと。寒いなぁって」
「いやぁ、ホントに。一気にって感じ」

これからの、最低気温を考える度に、頭が痛くなる。寒くなる。心身ともに。

って、寒いの嫌いなのか?」
「 大 嫌 い 」
「そこまで断言しなくても」
「 大 大 大 大 嫌 い 」
「…そこまで強調しなくても」

でも、12月っていいぞ! 寒いけどな! ってバタバタ動かす、日生の手の行方を追って

「クリスマスに、まぁおまけでイブに、大晦日とか、球技大会とか」

一つ一つ、指折り数えて、イベントをあげていく日生は、微妙に微妙に、隠れてこういう事に燃えてそうだなー、と。意外な気がしなくもないし、意外じゃない気がしないでもない(どっちだろう)

「あと、一つさ」
「え? うん」
「あと一つ!」
「いや、何」
「あと一つあるんだよ」
「へー」

ぴくぴくと、そわそわと。ちょっと似合わないくらいに、顔の筋肉を動かし続ける日生。
いいたい事があるなら、ぴしっと言ってしまう彼は、こんな光景は珍しすぎる。
けれども、私の沸点は、他の人よりちょっと低めなのだと思う。
「さっさといえ!」と叫ぼうとする私と、ちょうど被った一つの声。

「12月14日、空けとけよ」

日生の目は、どっかの野生動物みたいに、ギラギラしてた。



1000のお題 【342 師走】
2006.9.24


きっと私は、彼に勝つことなんて出来ないのだ。


「みっくーん…」
「んんー?」
「あつい」


もたれ掛かるように、ぴっとりとくっついて。
さあキミにもこの熱さをプレゼント、なんちゃって。
このまま私もプレゼント、もっとなんちゃって。


「暑いってったら余計暑くなるぞ!」
「みっくんはなんで涼しそうなの…」


ぴっとりとくっついた体はじわじわと熱く、なんか別の意味でむちゃくちゃ暑いし。
みっくんといえば、別に涼しくないって、といつもの爽やかスマイル発動中(あー、気分的にすずしーかも…)


「夏はあったかいし、冬は涼しいんだ」


なんていうか、突っ込む気力もなく、ダウン一歩手前。
ああ、いいなあ。ポジティブマンって。




私もポジティブウーマンになりたいぜ…





1000のお題 【806 夏暖かく、冬涼しい】
2006.10.2




うっそついったら針千本のーますっ
指切った!


「みっくん、今度サッカー今度教えてよ」

器用に足で蹴り続けるみっくんに、何気なしに呟いた。
何度も宙に浮いていたボールは、ぽんっと地面に置かれる。

    いいよ」

本当に、それは一瞬の間で。
うん、と頷いた私は小指を差し出したのだ。




「お隣の光宏くん、昨日お引っ越ししちゃったわよ」


告げられた言葉に、ガツン、と何かで頭を殴られた気がした。
すいっと通り抜けて行くその言葉が、本当なのか分からなくて、あまりにも呆気なく滑り込んだものだから、嘘にしか思えなくて。

小指が震えた


(多分彼にとって、私はそれ程度の存在だったのだ)
(きっとそうだ)
(そうだと思わないと、崩れる)


(崩れてしまう)



彼が帰ってくるなんて思わない。
思いたくもない。


けれども、私は私に約束は、ずっと続けて行こうと


「指切った!」


約束した。




(私達は矛盾の上で生きているのだから)



1000のお題 【683 お引っ越し】
2006.10.7




横山平馬


「なあなあ、。犬派?猫派?」

今日も今日とて、



「は?」
「だから、さ、犬派か、猫派か聞いてんの」
「何が言いたいのかな、ケースケ」
「俺犬派なんだけどさ。も犬派だよな!」

まるでお前も仲間だろっ! といわんばかりに、犬が犬を好きだと尻尾をぱたぱた。うーん、ここは犬っていった方がいいのだろうか、とぱくりと口を開けた瞬間、犬の隙間から、一匹の猫が躍り出た。


、いくらケースケがバカみたいで、可愛そうだからって、同情票はケースケの為にならないぞ」
「うおおう、平馬くん(見透かされてる…)」
「なんだよそれー!」

「で、結局」


こほん、と平馬くんが咳を一つ。ワザと重々しく吐かれた後に、じーっと見つめられる二つの視線。

「あのー」
「どっち?」
「どっちなんだ?」


(…なんなんだ)

ぱたぱたと尻尾を振る、犬。
鋭い眼光を、ぎらりと光らせる、猫。


「ねこ、派」

案外言葉はするりと出た。


(私の微妙な告白は伝わるだろうか)(いや、伝わるのは困るんだけど)(伝わったらビックリなんだけど)


「えー!」
「えーじゃない!」

ぷくりと頬を膨らましたケースケの頬をぷすりとつっついて、ちらりと平馬くんを見てみたら、なんだかとっても珍しい顔で、思わずぎょっと目を見開いた(わわわ笑ってる…っ!)

つい、と平馬くんから伸ばされた手

「俺は、派なんだけどね」





(…伝わっていたらしい)
(エスパーかコイツは!)




1000のお題 【700 犬派と猫派】
2006.10.3




テニスの王子様


【跡部】
「女なんて、どうせ俺様の顔が目当てで寄ってくるんだよ」


なんていうか、まぁ、たまたま。たまたま、下足場で、ばったりと会って。たまたま、古典的なくらいに、その彼のロッカーの中に、ハートのシールが貼ってある、真っ白い封筒が入ってたりして。まぁ、たまたま、それを私が見て、「流石帝王。もてるねぇ」と微妙にひがんで。たまたま、跡部がふふん、と鼻で笑って自慢げにすることなく、しん、と声を落として反論して。

たまたまが、いつくも重なったのだ。


意外にも、彼のそんな一言が聞けると思わなかった私は、う、と喉の奥で言葉が詰まってしまって、何も言えなくなった。敢えて出来ることといったら、ごくりと唾を飲み込むぐらいの抵抗で。本当にショボイ抵抗だ。

ついでに彼はというと、やっちまった、いっちまった、の表情が、ありありと見えた。珍しい。そこはお前、ポーカーフェイスで通すのが礼儀だろ、私も反応しちまってるじゃないか。


お互いに。うう、と唾を飲んで、微妙に目線をそらす事しか出来なかった。
ちくったくっと動く私の腕時計が時間を(秒数のみ)知らせてくれる事で、やっとこさ、時間が流れているのが意識できる。………下校ギリギリ前で、人がいない。

聞こえなかったフリをするのが一番なんじゃないだろうか、とちょっと思った。
アイツ的にも、そうして欲しいのか、さっきからゴホゴホと何度も咳(をするフリ)をしている。

よし、しょうがない。ここはお姉さんが


「跡部くん。女は確かに顔しか見ていないよ」


寧ろ敢えてナイフで傷口をぐりぐりしてやろう(ハハハ!!)



ごほっと、激しく跡部が咳き込んだ。さっきまでの誤魔化す為の咳き込みじゃなく、本気で、マジで、咳き込んだ、その上ロッカーに頭をぶつけた。つまりクリティカルヒットってヤツだ。

「お、お前…っ!」
「だって跡部がぶっさいくだったら、誰も近寄んないしぃー?」
「女子高生風にいうんじゃねぇ!!」
「女子中学生だしぃー」

がんっ、と跡部が思いっきりロッカーを叩いたのが見える。ちょこっと凹んでしまっているソコは、確か宍戸くんの場所だった気がする。まぁいいや。

ふー、と一回、跡部は息を吸った。ぽつりと「帰るぞ」と単語で告げる。それに私は「不機嫌な人と帰りたくない。一人で帰れば?」と告げる。ピシピシッと跡部の血管に筋が入ったのが見えた。

「何、跡部は否定して欲しかったんだ」
「帰るっつってんだろ」
「だから一人で帰れよ」
「うるせぇな」
「否定してあげようか、跡部」
「だからうるせぇよ。今更だろ」
「あ、やっぱ否定して欲しかったんだ」

ジロリ、と彼の目が、しゅぴんっと私を射抜くのが分かる。……うん、ちょっと調子に乗りすぎたかもしれない。
今度はふー、と私がため息を吐く番だった。ぽりぽりと二三回、顔を引っ掻いて、またため息を吐く。凹んだロッカーが見えて、またため息を吐きたい気分になった。けれどもこれ以上は、火に油だという事を知っている。

小さく、「ごめん」と彼に告げた。それを無視するソイツは少しムカついたが、責められるよりは幾分かマシだ。一応、もう一回、謝ってみた。「もういい」。小さく聞こえたソイツの返事に、私はちょっと満足する。


     しょうがないヤツだ。

「跡部」

未だに、ほんの少し機嫌の悪いヤツに、声を掛けてみた。いつの間にか、くるりと回って、背中向けになっている彼を見つめた。返事はなかったけれども、多分、聞いてくれていると思う。

「私は、跡部が不細工だったとしても、近寄ってあげるよ」
「あーん? 俺様が、んな事ある訳ねぇだろうがよ」
「そうだね、まぁ、今の形が跡部なんだからね」
「うるせえな」

今日アンタ、うるさいっていう回数多くない? と、ちょっと笑った。






1000のお題 【617 顔より大切】

「君に、君の顔以上に魅力的なものを教えてあげよう」
「んだよ」
「財力」
「!?」

2007.04.08

【宍戸】

クラスメートの宍戸くん。

「宍戸くん」

勇気を振り絞って、さあさあ私! ときゅ、と堅く目を瞑った(ああ、ダメ私!)
震える口をなんとか繋げようと、しても、またぷるぷると震えてしまう。
うっすら開けた目の先には、宍戸くんが鬱陶しそうに目を細めて細めて私を見ていた。

「…なんだよ」

明らかに不機嫌そうな声。

「…何でもないです」


(今日はダメだ)


だって宍戸君の機嫌が悪いから。
(言い訳なんて分かっているけれども)


何でもない、といった瞬間に、宍戸君の顔はまるで「何でもないのにいちいち呼び止めるな」というように眉毛を寄せられた。ごめんなさい、と心の中で謝っても相手に伝わる事もないし、一々口に出すほど、私は度胸を持っていない。


ただ、逃げるように、その場を離れて、私は




(宍戸君に、タテロールがきっと似合うよなんて、いえない!)

だってテニス部だもん。

1000のお題【401 タテロール】
2006.12.3


【芥川】

ぽかりと、暖かくて。

金髪の、ふわ毛。

ぽかりと沈んだ緑色の絨毯に、ぼふっと体全体を任せてる。
閉じた瞳が、開く事になるのは何時になるか分からないけど


「気持ちよさそー…」


名前なんて知らない。瞳の色だって知らない。



いつか彼が、私の事を見てくれますように。








(タイミングが悪いのか、それともずっと寝てるだけ?)






1000のお題 【110 春眠に限らず暁を覚えず】
2006.10.1

【手塚】

確かにその時、空は青かった。



がらりとした裏庭の空気が好きで、何故だか俺はよくこの場所へと足を向けた。
くぐもったガラスに背を向け、ふ、と上を見つけたその時。


ガラリ、と力いっぱい開いた音と共に、ひょっこりと壁から生えた顔(いや違う窓を開けただけだろう)

「青い空の、ばかやろー!!」


高めのソプラノ声のそれは、ふんっと鼻で軽く息をつぎ、「よっしゃ!」と独り言。
何が起こったのか対処しきらない脳みその奥で、このまま何もなしで終わればいい、と告げる心の声。

「確かに青いな」

けれども、反射的に言葉を発してしまう俺の声。

「みみみ見ましたね!」
「…ああ」
「私の、秘密を、見ましたね!」
「(青い空が秘密なのだろうか)…ああ」
「あの、違います、えと、演劇部の発生練習でして!」
「…うちの学校に演劇部はなかったと思うが」
「はうあ!」

ぐるぐると目を回す彼女にいたたまれない思いになってしまう。
そして、「叫んだら、色んな事忘れれるんですよ…」と力なく項垂れる姿。
(敢えて突っ込まず、誤魔化されてたらよかった)


「まあ、いいんじゃないか、青春だろう」


人様に迷惑を掛けなければ問題ないだろう、と青い空を見た。
隣でぽかり、とマヌケに口を開くその彼女。


「…あの、シャレですか?」
「…中々いい度胸を持っているな」


ヒイイイイ! ともう一度慌て直す彼女を見て、何故だか俺は無性に青い空のばかやろー、と叫びたくなった。




(取り敢えず後で、名前を聞こう)



1000のお題 【304 自己流ストレス発散法】
2006.12,3


【ブリーチ、日番谷】

黒い服を着た、銀髪の少年が居た。


真っ赤な背景を背負って、少年は立っていた。
私の背に背負われたランドセルが歩くたびにがしゃりと音がする。
隣には友達が居て、ただ真っ直ぐ家へと帰る。

ちゃん、どうしたの?」
「なんでもないの」

ただその場を動かない少年は、本当に人間なのかと思った。
ただギラリと光る銀色の瞳は人間なのだと語っていた。


ゆっくりと赤い太陽が流れる。
少年は佇んでいる。
私は歩く。


みんなみんな、彼を知らないフリをしていた。
流れる太陽だってそうだ。彼の足下には、私の足下にある黒いものがないのだから。

(知らないフリをしなくちゃダメなのかもしれない)


ただ、彼の銀に光る瞳を見つけて。



私のランドセルがなくなってしまっても、彼が変わる事はなかった。






1000のお題 【789 見えるものと見えないもの】
2006.12.4





2010.12.18

文章色々修正しようと思ったけれども諦めました。
懐かしすぎて色々もだえるけれども、せっかく昔公開してたんだから……と踏ん切りつけました。いやあ、5年たって色々上手くなったもんだなぁ、と自分では思うのですが、他から見たら変わんないかもしんないですね。
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