秀ちゃんは不思議な子どもだった。




秀ちゃんは私の従兄で、短い赤髪で、随分顔の整った少年だ。すっと腰を伸ばした姿がとっても綺麗で、私は秀ちゃんの後をとてとてとついて行きながら、ほんの少し足をもつれさすと、「ちゃんこけちゃうよ」と、ゆっくりと手を出す。
私はそれがちゃんと分かっていたから、安心して彼の後ろを歩く事が出来た。


大人達が集まると、私たち子どもは何処かへ遊んでおいでとほっぽりだされてしまう。押しやられた玄関で、ぎゅ、と彼の服の裾を握りしめると、彼はにっこりと笑いながら、その指を一本一本放して自分の指へとくくりつけた。

「何をしてあそぼうか」

丸い大きな石の間と間を、てん、てん、と開いた感覚を、無理に足を広げて、ほんの少し跳ね上がりながら渡る。てん、てん。
あそぼうか。近所の友達と、同じような言葉なのに、何故だか秀ちゃんがその言葉を口にしてしまえば他の何かの事のように思えてしまう。
何をして遊ぶんだろうと山の中を駆け上って、茶色い地面に足をこすりつけた。


「秀ちゃんって、まるで人間じゃ、ないみたい」

赤い彼の髪の毛が、さらりと流れた瞬間に、ふと考えた言葉を口にした。すると彼はぴたりとその足を止めて、ゆっくりと振り返る。大きく長く生えた茶色い幹と、緑の葉っぱをバックにしていた。


「なんでわかったの」


まるで彼の口元から、にやりと犬歯が見えているような気がして、ぱちくりと瞬きをした。まるで彼の周りの植物だけ、ぐにゃりと大きく揺れているように見えて、もう一度、ぱちくり。そして私は口を開いた。

「冗談だよ」
「うん分かってる」


嬉しそうに微笑む少年に、「何をしてあそぼうか」と今度は私が問いかけた。そうだなぁ、と首をひねる秀ちゃんを見て、私の従兄は、なんだかおかしな人間だなぁ、と考えた。



2008/08/17
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