* GS美神、完結後未来妄想
* ひのめちゃんの未来をすごく妄想。不思議系美少女だったらいいな……!! とか!!!
* 小学生男子 → 同級生ひのめちゃん
* すごく中途半端。冗談抜きで中途半端。そのうち……続く……かな……







僕は、昔から不思議な力がある。



不思議な力と言っても、下校中の道にぼんやり首がない男の人が立っていて、「なんでいつもそこにいるの?」と訊いたら、首がないからうまく喋れないらしく、ばたばた頑張る手振りを読み取って、その人のお墓に連れて行ってあげた。電車のホームで、しょんぼり顔の足がないおばあさんを見たら、どの電車に乗ればいいのか教えてあげたし、ときどき見かける小さな妖怪たちに、悪いことをするなら、踏み潰しちゃうんだぞ、とむんと胸をはったら、彼らは慌てて逃げていった。


見えない人の方が多いらしい。
いや、普通の人だって見ることができるけれど、僕みたいにはっきりとは見えないし、妖怪なんかに目をつけられてしまったら、ぱくりと食べられてしまうのがオチなのだ。
(僕には、霊力がある!)

それはみんなにある訳じゃない。僕だけにあって、僕みたいな人は他にもたくさんいて、そんな人たちは自分の才能を生かした職場についている。僕は他の人よりも、ちょっと特別なのだと知ったとき、僕の未来は決定した。僕も彼らと同じく、妖怪相手にバシバシ戦って、ビシバシかっこよくなってやるのだ。だったら将来の夢は、ゴーストスイーパー? いいや違う。あんな一個人の営業職、ヤクザな商売なんて目じゃない。

「夢はでっかく、オカルトGメン!!」


なんてったって公務員。なんてったって安定収入。「がんばるっぞー!」 うおー!! とランドセルのひもを握りしめて、うんうんと頷いたとき、「……くん?」 何言ってるの?

僕はうわっと振り向いた。ババッと周りを確認して、「あ、あ、あ」 うん? と彼女は首を傾げている。さらっと彼女の長い髪の毛が揺れて、うわあ、とドキマギした。「み、美神さん……」 美神ひのめちゃん。同じクラスの女の子だ。

彼女は赤いランドセルを背負って、僕を見た。「別に、ひのめでいいよ」「い、いや、……うん、ひ、ひの」 め、ちゃん。と最後まで言えたらよかったのだけれど、僕はぶんぶんと勢い良く首を振った。無理だ。絶対無理だ。むちゃくちゃ無理だ。「や、やっぱり美神さんで!」 ふーん、と彼女はどうでもよさげに頷いて、変な人だなぁ、という顔をした。僕はガクッと激しく何かが突き刺さった気分になった。

     美神じゃなくて、ひのめでいいよ

同じクラスになった初対面のとき、彼女は僕にこういった。でも別に、僕の事に興味があるとか、気になるとか、そんな訳ではなく、クラスのみんなにそう言っているだけだ。仲がいいとか、そんな訳じゃないから、ひのめちゃんは、僕のことはくんではなく、くんと呼んでいる。
なんでも、お姉さんの仕事場に一緒にいることが多いから、下の名前で呼んでくれた方が違和感がないらしい。

でも駄目だ。僕はだめだ。ひのめちゃん。到底呼べない。無理にきまってる。嫌いな訳じゃない。その反対だ。可愛すぎるのだ。かわいすぎて無理なのだ。どこかぼんやり顔で、端っこの方で本を読んでて、けれどもクラスの中で、彼女はぴかぴかに光ってる。男の子も女の子も、ちらちら彼女を窺うし、大人だって彼女を見たら、一瞬うっと息を詰める。

そんな彼女の名前を呼ぶだなんて、そんなこと恐ろしくってできる訳がない。もちろん、そうできたらいいと思う。僕がひのめちゃん、と呼んで、ひのめちゃんがくん、と僕を呼ぶ。ついでにニコッと笑ってくれる。想像だけでお腹いっぱいになって、僕はカーッと顔が赤くなってしまいそうだ。けれども現実はそうじゃない。身の程知らずというやつである。だからこそ、ちょっとだけ満足できるように、心の中ではひのめちゃん、と彼女のことを呼んでいるのだ。僕って寂しいやつである。

ひのめちゃん、じいっと僕を見ていたかと思うと、「くん、遅刻しちゃうよ」と言って、僕の隣をとことこ通り抜けた。僕は慌てて彼女の後ろについたのだけれど、アッと慌てて彼女の腕を掴んで、ひっぱった。「あ、あの、ひのめちゃん、こっちは、ちょっと」 彼女がきょとんとして、自分を掴んでいる腕を見る。僕はまたまたアッとして、パタパタ片手を振りながら彼女と距離を取った。しかもひのめちゃんって呼んじゃった。


「そ、その、美神さんごめん。でもこっちはよした方がいいと思うんだ」
「なんで? 早く行かないと遅刻しちゃう」
「でも、その、えーっと……大丈夫! 僕、近道知ってるし!」

こっち、こっちだよ、美神さん、と彼女の背中にぐるりと回りこんで、ランドセルを押した。ひのめちゃんは、ちょっとだけ不思議そうな顔をしていたのだけれど、まあいいか、と言う風に、僕の隣に並んだ。僕は思わずホッとして、一瞬だけ振り返った。(……あっちの道は、よくないんだよなぁ……)

ぞくりと嫌な雰囲気が、こちらまでやってくる。
僕には霊力がある。だから、他の人にはわからないことが、少しだけたくさん分かるのだ。あっちはよくない何かがいる。僕がなんとかすることができたらいいのだけれど、所詮僕はただの小学生で、そこいらの低級霊の相手がやっとなのだ。あんな大物、相手にできる訳がない。
(……でも、なんとかしなくちゃ)

ここはひのめちゃんだって通るのだ。他の人だって、何気なく通ってしまう道だろう。もし誰かが怪我をしたら、と考えると、思わず難しい顔になった。ふと、ひのめちゃんが僕を見ている。「……どうしたの? 美神さん」「くん」 神妙な声に、ぎくりと肩を震わせた。「近道、どこ? 遅刻しちゃう」「…………こっちです」

遅刻はだめだね、うん遅刻はね……と頷きながら、僕とひのめちゃんは学校の校門をくぐった。






「やあ、可愛いレディ、私と一緒に素敵な時間を過ごさないかい……?」



この道を通ると、毎回出現する変な男の人である。俗に言うナンパらしい。別に僕にという訳ではなく、丁度近くの女子高からの帰宅途中の女性を狙って、キラキラ薔薇を片手に大人な男を演出しようとしているらしいが、毎回ほっぺたをひっぱたかれて、とぼとぼ撃沈してる。「こんちくしょー!! 人が下手出てりゃーこのやろー!!」 恨み言まで叫んでる。

あんな大人にはなりたくないなぁ、と僕は家に帰宅した。今日はひのめちゃんと一緒に学校に行けた。嬉しいなぁ、とパタパタ走って、ふと、あのときの悪霊のことを思い出した。道の端っこにぽつんと立っている、骸骨のような顔をした悪霊だ。ちらりと顔を見ただけだけれど、僕はガタガタ震えが止まらなくて、急いで背中を向けて逃げてしまったのは苦い思い出だ。
(ゴーストスイーパーに頼む、とか……) 無理な気がする。少なくとも、僕みたいな小学生のお小遣いじゃ、とうていお願いはできないだろう。だったらオカルトGメン、とも思ったけれど、こっちも同じだろうか。ゴーストスイーパーに比べたら、ずっとお安くなるに違いないけれど、どっちにしろというお話だ。

だったら自分でなんとかするしかない。せっかく僕には霊力があるんだから、ご近所の平和を守るために立ち上がる他ないのだ。せっかくなのだから、これが僕の本気のデビュー戦ということになる。
わくわくとドキドキと、ついでにビクビクをおりまぜて、僕は悪霊の退治方法を調べることにした。図書館の本で見てみると、つまりは破魔札を使って悪霊を弱まらせて、護符に悪霊を封じ込めるのが一般的な仕方らしい。なるほどなるほど、と僕は頷いて、すぐさま御札を売っているというお店に向かったのだけれど、「ガキが来るところじゃないアル」とちびひげのおっちゃんにつまみ出された。なんてことだ。

この頃はネットで破魔札が売っているみたいだけど、うそものも多いというし、さてどうしよう、と僕は図書館の本を見て、自分で御札を作ることにした。実は半分やけくそだったのだけれど、中々上手にできたじゃないか、とニヤニヤしながら、破魔札(偽)をチェックした。美術の成績は得意なのだ。試しに近くの低級霊にビシッと貼りつけて、吸印してみた。スライムみたいな低級霊は、「うほほほほほ」と変な声を出しながら、ぴしゅっと紙の中にすいこまれてしまった。なんてことだ。

うわー、すごーい、と僕は道の端っこに座り込んで、さきほど低級霊を吸い込んだ護符を見つめた。たしかこれ、このまま捨てちゃだめなんだっけ。霊的産業廃棄物とかいうのに出さないと、復活しちゃうんだっけ。めんどくさい。「あれ、これ僕のデビュー戦になっちゃった?」 えっ、しょぼい。

いやいや、これは本番に向けての予行練習である。いわゆる練習試合である。本番はもっと怖くて強くて、ちびっちゃうようなやつが相手なのだ。「よし行くぞ!」 僕はパチンッとほっぺを叩いた。破魔札(偽)十分、護符(偽)も十二分。いざ出陣と飛び出した。けれども一歩近づくごとにびくびくじわじわして、嫌な汗が飛び出てくる。こわい。無理だ。近づきたくない。


ふと、あの少女のことを思い出した。ひのめでいいよ、と言って、かわいくって、ぼんやり顔の女の子。僕が今、この道を進まなかったら、彼女がひどい目に遭ってしまうかもしれない。そうしたら、僕は後悔してもしきれない。ごくっと唾を飲み込んだ。
こんなところで僕ががんばろうが、頑張るまいが、そんなの誰も知るわけない。けれどもそんなこと、関係ないのだ。僕がひのめちゃんを守るんだ。


いつの間にか、僕はそう考えていた。けれどもそれは、何も間違いではないような気がした。ずっと怖いと避けてきた道を、こうして進もうとしているのは彼女がいたからだ。ふう、と僕は息を吐き出した。夜になる前に、日が暮れてしまう前になんとかしてしまわなければならない。

足を踏み出す、一歩を進む。重っ苦しい霊圧に、息を飲み込んだ。押し付けられて、また一歩戻って、けれどもと進んだ。進んだ。進みまくった。
瞬間、全てが四散した。


「……え、あ、あれ、え?」 僕をぎゅっと押し付けていたあの空気はどこぞに消え失せて、唐突に軽くなってしまった体をふらりとふらつかせた。両手を見つめる。何度も両目をキョロキョロさせる。「え、え、ええー?」 


何も変わらない。全然変わらない。なのに、まったく違ってる。
何度もパチパチビックリして、ふと僕は、目の前を見つめた。小さな女の子の影がある。僕はパクリと口を動かした。

僕が彼女の声を出す前に、彼女はふと瞬いた。「くん?」「ひ、ひのめちゃん……」 あ、また間違えて、名前で呼んじゃった。「あ、え、美神さん?」 慌てて僕が言い直すと、特に何を気にしている訳でもないらしいひのめちゃんは、ふと首を傾げた。「くん、また学校に行くの?」

どういう意味だろう、と考えて、そういえばここは学校までの通学路だったのだと思いだした。ついでに言えば、御札や破魔札を何に入れればいいのかわからなくって、ランドセルの中にそれを詰め込んだのだ。「あ、あははは、いや、ちがうよー」と僕は慌てて笑って、両手を動かした。ひのめちゃんは自分で訊いたのに、どうでもよさそうな顔をして、「そう」とだけ頷いた。

僕はなんだか恥ずかしくなって、ほっぺたをひっかいた。けれどもすぐさま自分がここに来た理由を思い出して、ひのめちゃんにくいつくように見つめた。「美神ちゃん、大丈夫だった!?」 なにが? と言う風に、彼女は顔をしかめた。当たり前だ、そんな風に言っても、彼女がわかる訳がない。「え、えっと、あの、そうじゃなくって、何か危ないこととかなかった?」 ひのめちゃんはふるふると首を振った。「別に、何も」

「あ、そっか、何もなかったんなら、えっと、よかったね」
「うん」
「あの、じゃあ、ばいばい」
「うん」

気をつけて帰ってね、と僕が言ったら、ひのめちゃんはまたうんと頷いて、「くんもね」 ばいばい、とお互い手を振った。ひのめちゃんの背中が見えなくなった瞬間、僕は駆けた。思いっきり走った。

つい先ほどまで、苦しいほどの霊圧を放っていたのに、いま見てみれば何もない。ぽつんと伸びる電柱のそこにしがみついていた骸骨はどこにもいない。(吸印、された訳じゃ……ない……?) 半分勘だ。べったりとしみついている霊気は、慌ててすたこらさっさとどこかに逃げていっている。おかしいな、と僕は地面に手のひらをつけた。そのとき、ふと手のひらが汚れていることに気づいた。

「……煤……?」

なんでこんな、アスファルトの地面の上に。
よくよく鼻をひくつかせると、どこか焦げ臭い匂いがする。「なにが……」 何があったんだろう、と僕はたらりと汗を流した。幽霊がいなくなったということは、いいことだ。ありがたい。けれどもどうにもはっきしりしない気持ちを抱えて、丁度のそのそ隣を通った低級霊の頭に、ぺしりと破魔札を叩きつけた。







2012.02.29
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用語が間違ってたら申し訳ない