* 4月1日ってつまり何しても許される日ですよね
* 短編にもならない、出だしだけのネタ出しても怒られませんよね
* 細かいツッコミはしない。それが優しさ






ブログが炎上した。

炎上した。
コメント欄が荒れた。


     ヒーローなんだから、見切れてないで人助けしろよ!!


「はあ……」

正論だ。本当に、正論だ。手の中の液晶画面を見つめて、長いため息をついた。「僕、何やってんだろ……」 さわさわと流れる風がどうにも辛くてベンチの上で丸まった。なんで僕、ヒーローなんだろ。こんな風に考えちゃだめだ、と首を振って、懐からごそごそとまきびしを取り出した。へへへ、と笑いながら、きゅっきゅと突き刺さらないように気をつけて、ハンカチでまきびしを拭く。いつか本物の忍者に会いたいな、とにこにこ笑って巾着の中にまきびしをしまい込み、今度はと手裏剣を取り出してふきふきした。

陽光の中でぽかぽかと笑って、ベンチから足を放り出した。そうしていると、またふとコメント欄の言葉を思い出した。お前、ほんとにヒーローなの? 見切れてばっかじゃん。ロゴアピばっかしてんじゃねーよー
また体育座りをした。
なんでこんなに凹んでいるかというと、正論だからだ。正しすぎるから、グサッと心の中に突き刺さって、ため息ばかりが出てきた。

ヒーロー養成学校に通って、運良くスポンサーを見つけることができて、「今日も見切れてるね!最高だ!」と、時々優しい声をかけてくれる人がいると、嬉しくて、にこにこしてしまう。けれどもニンニン忍者ヒーローの仮面を取れば、僕は何を調子に乗っているんだ、とじっとりと心が沈んでいく。いつものことだ。

(そもそも、僕がヒーローになるべきじゃなかったんだ)

今でもときどき思い出す。パンッと響いた銃声が頭の中に聞こえる。瞳を見開き、ガタガタと指を震わせる友人の顔が、ぐるぐると頭の中で回る。わっ、と布団から飛び起きることもあった。思い出すと心臓がいたくて、ドキドキと苦しい。ぎゅっとジャンパーを握りしめて、長く長く、息を吐き出した。まるで息ができない、高い空の上にいるみたいで、足元がふらついた。自分はただのベンチの上にいて、ただの忍者もどきで、折紙サイクロンではなく、ただのイワンなんだと気づいたら今度はズキズキと頭が痛くなった。

(なんであのとき、僕はあいつを助けなかったんだろう) 彼は、多分僕を恨んでいる。きっと今でも。確認することが怖くて、僕は逃げ出した。最低だな、と思う。ランキングでは毎回最下位だし、新しくやってきたバーナビーくんなんて、どんどんスコアを伸ばしていってる。そもそも、僕はランキングを上げようとか、そんなことは考えていないのだ。とにかく、このまま見切れ職人を続けて、ロゴをテレビに見せて、スポンサーにアピールして、「よくやったな折紙くん、これからもよろしく頼むぞ!」とほめられて、「任せるでござるッ!」と自信気に胸を張って、ハハハッと笑うそぶりを見せる。それだけだ。
高いテンションを続けると、素にもどったとき重くなる。いや、もともとネガティブなんだけど。


ふと、ぱたぱたと尻尾を振る大きな犬が見えた。小柄な、僕と同じ年頃くらいの女の子がリードを引っ張って、てこてこと道を歩いて行く。     僕って犬みたいだ。そう思った。
パタパタ尻尾を振って、これでいいでござるか、なんて無理なキャラ作りをして、ヒーローのくせに人助けをする訳じゃない。こんなの、犬と一緒にする方が失礼かも。

ごめんね、と目の前を通りすぎようとする犬に、心の中で謝った。僕は駄目なやつだ。能力だって、全然ヒーロー向きじゃないし、性格だって、地味だし暗いし。ため息をついた。

それにしても、大きな犬だ。ふわふわだし、もこもこしてる。ちょっとだけ触りたい。
ふと、女の子がこちらを向いた。あんまりにも凝視しすぎたのかもしれない。僕は思わず視線を逃がして、見ていませんよ、とアピールするように遠くの道路を見つめた。

「でも、ヒーロー、やめなかったんでしょ」 
今も頑張ってるんでしょ。

一瞬、自分が声を掛けられたとわからなかった。思わず振り向くと、彼女は自分の口元を押さえるようにして、ぶるぶると首を振った。そして、「ごめんなさい」と頭を下げて、そのまま犬のリードをひっぱりながら去っていった。僕はぼんやりとして、彼女のセリフを思い出した。
     でも、ヒーロー、やめなかったんでしょ

なんで、と眉を顰めて、こめかみに指を置いた。彼女を追いかけよう。そう思った。けれどもやっぱりやめておいた。すでに彼女の背は小さくなっていたし、こんな僕に追いかけられて、ビックリさせてしまっては可哀想だと思ったのだ。
ただの聞き間違いだろうか、と考えて、そうじゃないな、と首を振った。声ははっきりと聞こえた。けれども僕は、聞き間違いと思うことにした。それ意外の回答が思いつかなかったから、自分の中でそう誤魔化すことにした。
結局僕は、いつだってこうなのだ。



   ***



声が聞こえた。
自分なんて、ヒーローになるべきじゃなかった。力だってないのに、ヒーローになってしまった。本当は僕じゃなくて、他の誰かがなるべきだったのに。あのとき、僕は逃げてしまったのに。

ぼんやりと聞こえた声はいつものことだ。ぎゅっと唇を噛んで、全然知らない振りをして通りすぎようとした。けれども唐突に、彼はこっちに声をかけたのだ。いや、彼からすればそうではなかったのだろうけれど、ぴくり、と私は瞬いた。(ごめんね)

そう聞こえた声に、目を合わせてしまった。彼はぼんやりと下がった青い瞳をきょとんとさせて、慌てた“声”を出しながら、顔を背けた。そんな彼を見ていたら、思わず勝手に口が動いてしまったのだ。ぼんやりと流れてきた“声”を聞いて、変だな、と思っていたことを言ってしまった。


こんなこと、久しぶりだ。
自分でもびっくりして、耳が熱くなった。大丈夫? とでも問いかけるようにこっちに顔を向ける彼の首元に抱きつくようにして撫でた。柔らかい毛が暖かくて、私は長くため息を漏らしながらもう一度、よしよし、と彼の耳の端を撫でるようにひっかいた。


ぴんぽん、とインターホンを押す。
いつもなら鍵を開けて、誰もいない家にただいま、と言うのだけれど、今日はそんなことはない。バタン、とすぐさま扉が開いた。「おおっ、。ジョンの散歩は終わったか!」 うん、と私は頷いて、パタパタ尻尾を振るションの背中を撫でた。

「悪いやつには会わなかったか? そんなときはすぐに叫ぶんだぞ! すぐに私が駆けつけて、いや、やっぱり私も一緒に散歩に」
そのままするすると続きそうなセリフを止めるように、何言ってるの、と私はくすくすと笑ってジョンと一緒に扉をくぐる。少しだけ、NEXTを発動してしまった。そんなことは、こっそりと自分の胸の中にひっこめた。今まで心配なんて、させすぎたくらいなのだ。ちょっとくらい、秘密にしておいた方がいい。

だから私は、ジョンのリードを外して、すぐにパパッと立ち上がった。「お兄ちゃん、朝ごはんまだだよね。ちょっと待ってね」と言って、冷蔵庫の卵の個数を思い出した。


2012-04-01
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どこぞのジェイクさんとNEXTかぶってんじゃねえかってツッコミはなしで