パシャリ、とシャッター音が聞こえる。私は無言で彼を見つめた。パシャリ。また聞こえる。
「あの……、さ」
彼氏だ。彼は私の彼氏だ。口元を嬉しげにさせて、メガネの奥の瞳をキラキラとさせている。「一郎?」 パシャリ。

「いやー、いつ見ても、宮村くんはいいなあ……」
「…………」

なぜ彼氏彼女そろって、男の盗撮をしなければいけないのか。









昔は普通だった。それが気づいたらこんなことに。
持っていた写真はガラケーくらいなものだったはずなのに、いつの間にあんなハイテクな男になってしまったんだろう。
、ちょっと待って」と言われ、何を待てばいいのかと考えた瞬間、シャッター音が聞こえた。カシャーン……。目の前では、非常に顔を歪めた少年がこちらを見つめていた。一郎はひたすら嬉しそうに背景に花を飛ばしている。宮村くんは、可哀想なくらいに顔を歪め、かつそれに気づかせないと笑っていた。目が合った。

「…………」
「…………」
(カップルで、盗撮していると、思われた……!!)


とりあえず顔面を両手で覆って、打ち震えた。



***



今日はちょっと、新しい宮村くんがとれそうだから、待っといてね、と言われて、一人寂しく教室の窓から外を眺めた。みかん色の空がとろりとこぼれて、大きな机の影が壁までのぼっていく。
(私、なんで一郎と付き合ってるんだったかなあ……)
特に大きな話も、山場があったわけではない。なんで宮村くんが好きなの、ときいてみたことがある。宮村くんだからねえ、とよくわからない言葉を述べられた。

渡部って、神出鬼没なのに、よく付き合えるよな、と最近言われたことを、ふと思い出した。気づいたら目の前に居て、気づいたらひゅんっと消えているんだよ、と震えながら両手を見つめる紫のことを考えていると、ひゅんっと目の前にメガネがいた。「終わったよー」 ひゅんっ。

「……いい宮村くんはとれた?」
「うん、撮れた」

今発音が生々しかった気がした。リュックを背負って、よっこらせと立ち上がる。「日が落ちるのも、はやくなったね」と一郎は普通なコメントを残した。「……私と宮村くんと、どっちが大切?」「うーん」 どっちも、とほざかれるのだろうか。「宮村くん」 ううん、と頭をかかえる。「は、違うからなあ……」 ちゃんと言葉が続いた。よかった。

も好きだよ」
「とりあえずよかった、ありがとう」















「えっ、渡部って付き合ってんの?」
まじで? と繰り返す言葉に、まあな、と紫は頷いた。「え、いや」 堀の困惑もわかる。なぜなら彼女の彼氏は、さんざん彼に付きまとわれているのだから。「中学からだったかなあ。気づいたらってかんじ」 たまに冷やかすように話が浮き上がったから、なんとなく知っている。それに二人して困ったような顔をしていた。けれども、別れたという話もきかない。

「……男?」
「なんでそうなる」

いや気持ちは分かるが。「だったらこう……」 わきわき、と彼女は何やら苦しげに両手を揉むように動かす。なんのイメージをしているのか。「……その子には、特殊な性癖が?」「……それは知らんけど」 おはよう、石川、と片手を上げる彼女が下の名前で呼ぶ男を、渡部以外に彼は知らない。

「っていうか誰よ。うちのクラスじゃないわよね。なんであんた知ってんのよ」
「渡部と同じ中学だったって言ってるだろうよ……。隣のクラス」

丁度、窓の下で体操服の女生徒たちがくるくると校庭を回っている。早くもなく、遅くもなく。そんな位置合いでひいこら走っている彼女を見て、そういえばと口にしたのだ。「あれ、あの子」「ううん……?」 走り終えて、嬉しげに周りの友人達と手のひらを叩いている。「……普通じゃん!」「うん……」

「普通じゃん、石川!」
「なんで二度言った」
「本妻がいながらなんでうちの宮村と! まったく! とっちめてやるしかないわ! 出てこい渡部!」
「出てこねーよ……」
「宮村! ちょっと渡部呼んで! あんたが呼んだら来るから!」
「えっ、今宮村くんに呼ばれた!? なになに!」
「まだ呼んでねえ!」





2016-11-23
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昔ホリミヤ企画というものを開催したことがあってですね……そのときのネタがネタ帳に埋まっておりましてですね……(言い訳を静かに呟く)