*実家に犬をおいてきたので犬成分が足らなくて書きました。
*最近プレイしたばかりなので、見逃しイベント大量です。原作との差異クルシイ。



しばいぬ×FGO





「さあ! 聖晶石3つの威力を見せてくれーーー!!!」
「先輩たまにはがつっと30個はどうでしょう」
「待てないんだよ! あと確率的に一回も十回もそこまで変わらないからいいんだよ!」

毎日コツコツ、ログインして貯めたんだから! と拳を握りながら、きらり、きらりと溢れる光を凝視する。「ストーリーを進めましょう!?」とツッコむメガネ少女の声は聞こえない。さて、線は一本か。はたまた三本か。できれば三本、そして欲を言えば煌めきがほしい。そう金ピカ。ぐるぐる、ぐるぐる。思わず腕を振り回す。真っ青な光が収縮し、横のラインが一本線。「概念かあ」 どうやらサーヴァントではないらしい。

まあいいか、とこぼれ落ちるはずのカードを覗き込もうと、少年は一歩近づいた。きゅるきゅる。そろそろはじけ飛ぶように、この手の中に滑り込んでくるはずだった。だというのに、いつまで経っても光は小さくならない。どう考えても、カードよりも大きなサイズで形をなしていく。「せ、先輩?」「マシュ、下がって!」 これは、一体。

自分は何を喚び出したのだろう。概念ではなかったのか。青く丸い玉がこつんとぶつかり合った。思わず一瞬、目を閉じた。
慌てて瞳を見開く。小さな、しかしカードの割には大きなシルエットだ。背景は未だぴかぴか光り輝いている。

「わふ」


しっぽふさふさ。賢いおすわり。茶色いお顔に、ぽつんとこぼれた黒いまろまゆが可愛らしい。これは、と少年は息を飲み込む。「せ、先輩? い、犬ですか?」 そうだ。犬だ。そして、彼がよく知っている、そう、日本に馴染み深い     「秋田犬だ!!!」
「ウウウウウウウ!!!!」
「めちゃくちゃ怒ってますよ先輩!?」







「いや、これは柴犬だろう」
「え? 秋田犬じゃなくって?」
「マスター、君は日本人ときいていたんだがね」

いやそうですけど。柴犬と秋田犬との差なんてわかんないし……と腕に抱きかかえた柴犬(仮)を見下ろすと、若干唸っていた。さっきからほんとこんな。
どこに見分ける差が? と思いつつも、ここには図鑑もネットも何もない。調べようにも自分の知識だけである。「見ればわかる。体つきも違うし、顔も違う。とは言っても、慣れていないとわからないかもしれないな」 なぜそっちは慣れている? と疑問に覚えつつもこの白髪、赤服のサーヴァント、和食、洋食なんでもござれなおさんどんサーヴァントである。各国の文化にも色々精通しているところがあるのかもしれない。

エプロンを巻きながらも、今日も今日とて、とんとこ包丁を叩いてこのカルデアに住む多種多様なサーヴァントたちのお母さんである。話しながらも、包丁の進むスピードに遅れはない。後方では、ブーディカが荒ぶるように鍋を振り回している。つまみ食いをしようとそそくさ侵入するネロを一喝しつつ、こちらに手を振ってくれた。振り返しはするものの、青少年にはちょっと刺激が強い服装であるので、少し視線が外れてしまった。あれくらい、ここではザラだが。
わふわふ、と柴犬が腕の中で居づらそうに暴れる。おっとと。

「ところで、その、一応概念礼装(柴犬)なんだけど」
「ふむ」
「ご飯って、食べるのかな……?」

無言であった。召喚には二種類ある。サーヴァント(ほぼ人型)と、概念礼装。このどちらか一つだ。サーヴァントに概念礼装を装備することで、戦力アップに繋がるわけだが、「これ、ほぼサーヴァントじゃ……?」 たまに尻尾はたはたしてるし。あとフォウさんがちょっと敵視してるし。

「まあ、食べるものくらいなら、用意はしてみせるが」

やだ有能。
そこにしびれる憧れる。「エミヤさんッ……!」「それはさておき、その概念礼装、ステータスはいかほどのものなんだ?」「ん」 確認していなかった、というのはうっかりすぎる。「一応星は4なんだけど」「ほほう」 私と同じか、とエミヤはつぶやく。「こんな感じ?」


【しばいぬわんこ】 ★4
クエストクリア時に得られる絆EXPを2%増やす
防御力を5%アップする
あと尻尾がふさふさ


「…………」
「…………」
「……まあ、かなりいいんじゃないか?」
「……うん、性能、2つもあるしね? 絆とかあんまりないし」



最後は、つっこまないでおいた。





やっとこさ降りた地面で、はぐはぐ嬉しそうにご飯を食べる。白いお尻がぷりぷりである。
「なんか、可愛いような……?」 なんかぷりぷりだし。くるんと丸まった尻尾が、食べているとくたりと落ちてくる姿もなんかいい。柴犬の周りでは、フォウさんがとてとて歩きながら、「フォウ……フォウ……」と訝しげにつぶやいている。フォウさん、これ他種族だからね。たぶん。







「……ア?」

これちょっと、無理があるんじゃない? なんて声が聞こえる。本人も多分よくわかってない。濁音をつけたような発音で、「ア? ア? アア??」と繰り返して、右を見て、左を見て、上を見ている。その動きに、必死に柴犬は食らいつく。「先輩……ッ! なんで、こんなことを……ッ!」「だって一応、概念礼装だし……ッ! 装備させる方法がわからなかったけど、これでいいかなって……ッ!」
バーサーカーだし、防御力アップだし、あとなんか仲良くなり辛い気がして、ちょうどいいかなって! と叫ぶ声は、おそらく彼には届いていない。

     クー・フーリン、オルタ。

アイルランドの英雄の、隠された一面である。禍々しい文様を肌に携え、まるで龍のような尻尾を生やす、奇妙な出で立ちだ。その紺のフードに、犬が必死に食らいつく。「わ、わふう……」 若干、苦しそう。いや若干、これはひく。
「こ、子ジカが飼ってる子イヌが、なんだか辛そうだわ……」
「な、なんかキャットは他人事じゃない気がして、ちょっと嫌だぞ……? ワン……」
「次はもっとうまいものが作れそうだからな。さすがにそれは食べてほしいところだしな……」
パーティメンバーにも、概ね不評である。

「いや、俺もさすがに、どうかなって……」

思ってはいた。ほんとに。
わんわん、ちょっとひっこみましょうか、こっちにおいで、と手を振る暇もない。敵勢だ。かっ飛んできた火の玉をくるりとひねりながら、軽やかに交わす。犬は。大丈夫だ。ちょっと頭の毛が焦げて、あと一歩でチビリそうなくらいだ。「……チッ!」 動きづらい、とクー・フーリンは感じた。いや普通に動きづらいと思うが。なんたってワンコが頭にかじりついている。それでも。彼は進む。なぜならバーサーカーであるから。槍を持つ事しか知らない。せめて、せめて、せめて、せめて、討ち滅ぼす。それが彼の王の道である。
歪んでいる。誰がどうあろうと、そういおうと、理解はしている。否定はしない。しかしこれが正しいと認識もしている。

手に持つ槍を回転させ、勢い良く突き立てる。爆風が頬を割く。ついでに柴犬の耳が、バタバタと揺れていた。混戦の中、意地でもしがりつく柴犬は、なかなかの根性であった。
散り散りに吹き飛ばされた敵勢を、一匹、二匹、と仕留める。貫いた槍の向こう側が、すっぽりときれいに楽しめる。
     大丈夫なのか?

かばいに行きたくとも、下手に手を出せば、柴犬に被害が出る。各人のノルマをこなすように襲い来る軍勢を吹き飛ばす。ただ、皆は横目では様子を伺っていた。クー・フーリンは頭は重そうではあるが、振り落とすとまではいかない。大丈夫だ。ところで、防御力アップとは、一体……? 犬ヘルメットだから……? あれで絆がなぜ上がる……? 疑問が絶えない。ところで犬ヘルメットは自分でしておいてなんだか犬に申し訳なくなった。同種(系統)であるフォウさんからの視線が辛い。

あ、と一呼吸の間。

わずかな一瞬。敵の腕がぐんと伸びた。常なら、軽く頭をかわすだけで済むのだろう。クー・フーリンは、苛立たしげに舌を打つ。まさか、と。「クー・フーリン!!!!!」 誰だかわからぬ悲鳴が響く。彼は丸まった。そう、後ろ側に。

アア、と犬が口を半口にしている。さすがの犬も、彼のフードからぽろりと小さなお手てがすっぽぬける。クー・フーリンはまるでバック転の要領で、敵の攻撃をかわしつつ、硬い足先でえぐりぬいた。空中で回転しながら、重苦しい悲鳴を上げながらも沈み込むそれをもう一度足でねじり込む。こぼれ落ちた犬は、首元を捕まれ、クー・フーリンの手元でプラプラしている。

「……もらしてねーだろうな?」
「クウン……」

か、かばうんだ……、と全員の心の声が聞こえた気がした。

「……纏わりついてくるのだけは勘弁してほしいものだ。まあ、お前、味方なんだろう? ならいい」
「わふう!」

どっか別の誰かをパーティーに入れたときのセリフだったような気が!? というツッコミも聞こえる。
そして、少年は、そっと静かに絆が増えた音が聞こえた。

柴犬とクー・フーリン、オルタの。


「って、そっちかーい!!?」
「先輩!? どうしたんですか先輩!?」







日に日に柴犬はカルデアに受け入れられている。「ふむふむ、これが柴犬か。ふさふさじゃな」「ふさふさー。おかーさんみたい」「おかあさんってふさふさなの?」「くっふー! 超毛深い系かの??」とちっちゃな女の子たちがキャッキャしている。和む光景である。

戦闘に出せば、柴犬を守らんとするため、みんな自然と防御力(正確には回避力)が上がるのだ。かわいいかわいい、とおとぎ話が大好きな少女たちはしきりに柴犬を連れていきたいとせがむが、たまに柴犬が冷静な表情のまま、おしっこをちびらせていることを彼はしっている。やっぱりちょっと怖いらしい。そりゃな?

「フォウ……フォウ……」
そしてカルデアのもう一人のマスコットが、訝しげに柴犬をふんふんする。「……フォウさん、もしかしてライバル視してない……?」「まさか。先輩として色々享受してるんですよ」「……ほんとに?」
カルデアのマスコットの座、賭けて戦ったりしてない?

「フォウ!」

そう言っている間に、フォウさんが器用に片手で柴犬をつつく。先輩という認識があるのだろう。けだるげに伏せをしていた柴犬が、ピンと耳を立ておすわりした。見つめ合う。「フォウ、フォウ、フォーウ」「わふ、わふ、きゅーん?」

「上手に会話してますね」「……ほんとに? お互い適当に吠えあってるだけじゃない?」

「フォウ!」
「ふうん!」

心持ちちょっと似たような掛け声を出して、二人(二匹)は立ち上がった。談話室を通り抜け、どこかに向かおうとしているらしい。一体全体? と少年はマシュと顔を見合わせ、その後ろにくっついていく。少女たちもそれに続いた。廊下を歩くたびに、これはなんの行列だ? と一人ひとり増えていく。「雑種達。我への貢物の相談か?」「なんだなんだ、父上のところにでも行くのか?」「オウ! 楽しそうじゃねえか大将ッ! オレも風になるぜえッ!」 もはや目的が何だかわからなくなってきた。風になんてならないし。


「フォウ!」

ここだ、というように、フォウさんが扉の前でおすわりする。この部屋は、と疑問に思う前に、さっさと開けろと指示するものだから、ゆっくりと扉を開けた。アッ、と上げそうになった声を押さえ込んだ。


重厚感があった。
一体、彼らの何倍の体積があるのだろう。のそりと座り込んでいるだけで、まるで天井が低く感じてしまう。青い毛並みが、彼が息をするだけでかたく、しかしやわらかく揺らめいだ。首なしのライダーは離席しているらしい。そのせいか、いつもよりも圧迫感が溢れる。「フォウ!」

     新宿のアヴェンジャーさんヨオッ! 新入りは挨拶しなァッ!!!

まるでそんな声が聞こえる。
「フォウさん……!?」 焼入れ!? 焼入れなの!? と思わずオロオロする後ろでは、なんだなんだと後ろでは見えないやからが騒いでいる。今そういう場合じゃないから。

というかこれ狼だから。
いや狼とかいうレベルじゃないから。召喚したのは自分ですけど、柴犬と狼はランクが違いますから。
心持ちいつもより柴犬がちょーんと小さくなってますから! なんて心の声をさておき、柴犬はまっすぐに新宿のアヴェンジャーを見つめた。

見比べると、喰われたら終わり感ほんとあるな……と息が溢れる。いやいや。「フォウさん、新入りさんにはそれくらいにして……」 カルデアのマスコットは間違いなく君だから、ね?「わふ」 犬が、一歩進んだ。柴犬!

進む。なんて命知らずな。
新宿のアヴェンジャーが、軽く息を吹き出した。ただそれだけで、柴犬はすっ飛ばされそうになった。それでも向かった。ごくり、と固唾を飲む。手を出した方がいいのだろうか?


「きゅうん」
ちょこん。

柴犬が突き出した真っ黒な鼻先を見つめ、アヴェンジャーも同じく真っ黒はお鼻を、僅かに合わせる。「あ……」 声が震える。「は」 ちょんちょん、と何度も合わせる。ご挨拶を繰り返す。「は、は、は」 おお、と歓声が響いた。「鼻チューだーーーー!!!!」



【今日の日誌】

新宿のアヴェンジャーが、柴犬とめっちゃ鼻チューした



「えっ、これなんのこと!? ねえこれなんのこと!? 僕が知らない間に何してるの!? ねえ、ねえ、なんのことーーーー!!!??」

悲鳴を上げるロマニが数日後、柴犬を秋田犬と声をかけ、激しく噛まれるのは決まりきった未来であった。





2018/01/30
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すみませんとしか言えない。