*主人公名固定です。ものすごく昔に描いたヘタリア国花擬人化連載……が、主人公をしていない。





「さーあ今日の無料ガチャのお時間だよ!」

ぐるぐる回る、連続10個、溜まっているフレンドポイントを打ち込めばまだまだやってくるというもの。つい最近イベントでためにためて、石を引けない苦しみをごまかそうと藤丸は連打した。とりあえず空中を。指でプッシュ。きらきらひかる姿を見つめながらも、若干の違和感に首をかしげる。ひきにひいたガチャガチャさんだ。新しい礼装もサーヴァントも出尽くして     



「あ、あれ? あれれ?」

ちょろ、ちょろろろ……と手に持つじょうろからは水がこぼれている。ヒャウア! ここ防水じゃないよ! とロマニの叫び声が響いた。ちょろろろろ……「あれれれ?」

さらりと溢れた金髪に翠色の瞳だ。真っ白な服装はどう見ても戦闘には適さないが、後方支援だろうか。困惑しながら周囲を見渡す彼女の名前を確認する。サーヴァント、ではないのだろうか。手元のカードには確かに名前が書かれている。『ナルキッソス』




FGO×ヘタリア?





今日も今日とてお花に水をやりながらも、さあご飯はどうですか、おいしいねえもぐもぐだなんてニコニコして空を見上げた瞬間だった。くるくると謎の光に包まれて、今現在ここ。どこ人理崩壊。聖杯戦争。なにそれ別の世界のことじゃありませんかね文字通り、と地面を激しく拳で打った。

「た、戦うとか、どど、どういうことですかーーー!? 武器がじょうろってふざけてませんか!? ふざけてますよね!?」
「お、落ち着いてくれナルキッソス」
「ふ、フルネームで呼ばないでくださいー!」

私のマスター? とだと言う男の人とともに現れたのは、明るい栗色の髪をポニーテールにした男の人だ。軽薄な空気を漂わせているくせに、フレンドリーに右手を出したその人は、ロマニ・アーキマンと名乗った。Dr.ロマンと呼ばれている、とのことで。「ナルシストを彷彿とさせますので、ナルでお願いします、お願いします!」とぺこぺこ頭を下げると、わかった、わかったよ、と彼は両手をぴろぴろさせて、相変わらず説明をしてくれるのだけれども、混乱が止まらない。

だって、サーヴァントって。そんな偉業を為し得た記憶なんてないですし。それどころか「わ、私、そもそも人間ではないんですが……」 パパッと両手を広げてみた。「まあ、そこのところはもちろん。例外はあるけれど、神話に登場するサーヴァントも確かにいるよ」 たまに宇宙から来るし……とボソッと呟く声が聞こえたような気がするのだけれど、気のせいだろうか。

「きみはあれだろう、ナルキッ……いや、ナル。男性というところが定説だから、女性とは驚いたけど。水仙に変わってしまったという」
「いやいやいや」

どちら様のことをおっしゃっていらっしゃるのか。ノウノウ、と片手を振る。「私、ただのナルキッソスです。正確に言うと、イギリス国花です」 ぴたっとドクターは止まって、瞳を瞬いた。

「イギリス……国家?」
「国花」
「国歌?」
「国花」

こっ……か? と静かに響く疑問が、悲しく切なく。おはなじゃん? というツッコミに、いやもう本当に。なんで召喚されたのよ、と相変わらずじょうろをちょろちょろ。「アッ、ここも防水じゃないからねー!!?」







右を見ても英雄。左を見ても英雄。上を見ても……。
ちょろ、ちょろ、ちょろろ……。私ができることと言えば、水を撒くことだけだ。信じられない。もうちょっとまともな武器を持ってくることはできなかったのでしょうか。いや前線に行ったところで何もできませんけれども。行っても仕方ないですけど……と自分が表示されているカードを見つめる。ナルキッソス、悲しいことにもそう書かれていた。武器、じょうろ。やっぱりふざけてる。悲しいことに底辺を這うようなパラメーターはEばかりだ。こんなことってあります?

「マシュさん、なんで私は召喚されたんでしょうか……?」
「ナルさん……」

優しげな少女に、ついつい甘えてしまうように小さな声を出してしまう。廊下の端っこで丸まっていたところに優しく声をかけられてしまって、思わず心情を吐露してしまった。切ない。「ナルさん、あの、私にはなぜ、とかそういった理由はわからないのですが……」 ナルさんのジョウロは素敵ですよ! と伝えてくれる可愛らしい声に、パッと頬を赤くしてしまった。

「そ、そそ、そんな。こんなのちょろっと水を撒くだけで。ほんとに、ちょろっと!」
「でも廊下に水を撒くのはやめておきましょうね」
「あ、す、すみません無意識に」

確かに朝になれば周りのお花にちょろちょろするのが日課だったが、ここまでちょろりんはしなかった気がする。恐ろしい、サーヴァント化の弊害か。「せめてイギ……いえ、アーサーさんがいれば……」 いてもどうにもなるわけではないけれど、心強い。
ここの人たちは、国が人になるものではないらしい。だから彼の人間風の名前を呟いた。「アーサー?」 マシュさんがきょとんとしている。イギリスにはよくある名前だ。

「アーサー、という方でしたらいらっしゃいますよ?」
「あ、ほんとですか?」

他人には違いないけれど、なんとなく会ってみたいな、と思ってしまったりして。






というわけで、会ってみることにした。右にアーサー、セイバーさん。左にアーサー、ランサーさん。真ん中にアーサー、アーチャーさん。あとはメイドのライダーさんにオルタのセイバーさんにオルタのランサーさんにリリィの少女でサンタにXだったり最近はバニーにもなったりして。

「は、はわ、ほ、ほう……」

人外の言葉が出た。恐らく私には対処がしきれない。というわけでイギリスさんがやってきた。たまたま無料のガチャガチャさんから飛び出たカードには、『イギリス』である。多くのイギリス産のサーヴァント達の目玉が飛び出た。同じくイギリス出身の職員たちも。「ナルキッソス!」「フルネームで呼ばないでください!」 と叫びながらも抱きしめられた体は抵抗しない。ちょっと鼻水がずるっとなった。


イギリスさんは相変わらず太い眉毛でふむふむ、とアルトリアさんと向かい合う。今日は獅子王のアルトリアさんだ。ちなみにアルトリアさんとはアーサーさんのローマ風でかつ女性名ヴァージョンである。重たいプラチナのような鎧を脱いで、じっとイギリスさんと向き合った。イギリスさんは私の前にすっと飛び出て片手を出している。いやよく見えませんから。

「まさかイギリスという国が人の形になろうとはな」
「俺が知ってるアーサー王と、お前は違うけどな」

そもそも性別が違うぞ? といつものスーツ姿で眉をしかめるイギリスさんに、獅子王さんは口元だけを笑わせた。「まあ、そういうこともあるだろう」 国が人になるくらいなのだからな、と返答されて、まあそのとおりかもしれない、と二人して頷いた。「男のアーサー王も、もちろんいるだろうよ。たとえ別の異世界だったとしてもな」







男の人のアーサーさんは、まるで王子様のようで、ふらふらと砂漠のシミュレーションルームをぶらついてた。私はよく知らない。彼は過去には国王だったらしく、イギリスさんは頬から流れる汗を拭ってふと、瞳をうるませた。ような気がした。遠巻きに見えるあの姿がこちらに暮れば、ああ、久しぶり、と声をかけてくれるのだろうか。そうしたら、イギリスさんはなんて言うんだろう。
人間風味の名前を名乗る時、なぜイギリスさんが、アーサーと名乗るのか、私は知らない。そこまで古い時代の花ではないから。


「大丈夫ですよイギリスさん、じょうろのお水、飲みますか?」
「飲むわけないだろ。泣いてなんかいないんだからな。ほんとだぞ」
「じゃあ頭からぶっかけますか?」
「ちょっとだけだぞ……ぐすん」




2019-09-30
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いったいなぜこんなことに