| ラビさんがいなくなって、私は一日に一言も言葉を発する事無く終わる、なんて事がしばしば起きた。これじゃあいかん、と自分で思っても、中々言葉を発するタイミングが見つからない。ジェリーさんとお話しよう、と思っても、彼女の発音は所々語尾が巻いていて、なんとなく分かりづらいのだ。それに彼女もとっても忙しい。私なんかに構っている暇もない。 一人空しく寝所で「あー、あー」と声が出る出ると確認している日々を過ごし、せっかく鍛えた、元々ない英語力(といえばいいのかな)がするすると服の間から糸を落とすように消えていくのを実感した。 ぬ、どうしよう。 そんなときだった。ジェリーさんが、私に新しいお仕事をくれたのだ。 「Roast Beef」 「ろー、ろーすとびーふ!」 鉄格子のようなカウンターからちょいと顔を出して、くるくると変わる人混みの中で告げられる言葉を、厨房に向かい、大声で叫ぶ。私の声に会わせて「ヘイ!」と料理人の人の誰かが叫ぶから、ちゃんと聞き取れているんだろう、と思うけれども、これは結構ドッキリだった。 所謂ウェイトレスさん注文聞くだけバージョンなのだけれども、間違った注文しちゃったらどうしよう、ドキドキだ。 それでもやっぱり、久しぶりに喉から空気を通すのは気持ちよくて、自然と笑顔になってしまう。 (………ラビさんの注文、ちゃんと頑張って、いえるのになぁ) それでもやっぱり彼は、この食堂へと来る事はなかった。 しょんぼりとしてしまった気分を奮い立たせ、ちょうど頭の上へとふいと影がかかった瞬間、彼を見た。 白色の髪の毛に、一瞬うわぁ、おじいさんかな、と思ったけれど、私と同じくらいの年齢に見える。左の頬に入った、ち、と書かれているみたいな文字はなんだろう、タトゥーってヤツなんだろうか。ちょっと痛そう。 マジマジと見ているのはとっても失礼だと思ったので、覚えたての、言葉で、「ごちゅうもんは、なんですか」とにっこり笑顔で聞いた。 すると彼は、ううんと、と人差し指を顎辺りへとちょこんとおき、口を開く。 「Sandwich, corn soup, coffee, french fries, fried rice, chaozu, scone, pizza, aglio e olio pepperoncino, chili prawns, and apple pie, Mitarashidango.」 「え、え、えと、も、もういっかいおねがいしま、ふ」 「Sandwich, corn soup, coffee, french fries, fried rice, chaozu, scone, pizza, aglio e olio pepperoncino, chili prawns, and apple pie, Mitarashidango.」 「サ、さんどいっち、こーんすーぷ、あ、あう」 お、多すぎて分からない! と頭がパンクしそうになったとき、白髪の男の子は、カッ! と目を見開き、「Without forgetting! Mitarashidango!」 み、みたらし団子はそれほど大事なのか……! ら、ラビさん助けてー! と思いっきり胸中で叫びながら、彼の台詞を頑張って繰り返した。 「み、みたらしだんごは、忘れちゃ、だめ………!」 BACK HOME NEXT 2008.10.16 |