| 「Fried rice, razaria, an omelet containing fried rice, gazpacho, salad,
pancake, sushi, curry, cheese cream, cookie, tiramisu, and...」 「ちゃ、ちゃーはん、らざりあ、お、おむらいす、がすぱちょ、さらだ、ぱんけーき、おすし、かれー、くりーむちーず、くっきー、てぃらみす、そ、それと、」 ぐう、と私は目の前の、白い髪の男の子を睨んだ。彼も真剣な目つきで、こちらをみる。ごくり。飲み込んだ唾が殿を通り、胃へと伝った。 ぱくり、男の子の口が開いたその瞬間。 「「みたらしだんご、二十本!!」」 綺麗に重なった声に、二人でぱっと目を合わせ、一瞬の静寂の後にわぁ! と両手をパチン! と合わせた。白い髪の男の子は、「やりましたね!」と嬉しそうに微笑んでいて、私も、「うん、やった、です!」 ニコニコと、鉄格子のカウンター越しに、手を握ったまま、お互い何をいっているのかも分からないくらい早口で掛け合っていると、かこんっと後ろに誰かに頭を叩かれてしまった。う、と振り返れば、コックさんが、お玉を持って、「仕事」 私と彼はおお! と手を放し、繰り返した言葉を、厨房に向かって、大きく叫んだ。 「ちゃーはん、らざりあ、おむらいす、がすぱちょ、さらだ、ぱんけーき、おすし、かれー、くりーむちーず、くっきー、てぃらみす、みたらしだんご、20ぽん!」 頭に白いバンダナを巻いた男の人が、「オウ!」と肩を上げる。おう! やっと、彼の注文を、全部いえるようになったのだ。思わずにいい、と勝手に動いてしまう口元を、手のひらで押さえつけると、不思議そうな顔をしたジェリーさんが、「アラん、休憩していいわよーん、ちゃん」 私はうっうっ、と何度か頷いて、先ほどのバンダナの人の隣を通り過ぎようとしたときに、ぽい、と胸のうちに何かが投げ込まれた。 四角いパンに、表面に付いた茶色い食欲をそそりそうなお焦げ。ちょろちょろとはみ出したみずみずしいレタスとトマトを見ると、空きっ腹ではじゅるりと唾が溢れてきそうだ。 それを何とか飲み込んで、ぶるぶると首を横に振る。 つい、とコメカミに汗を垂らしながらフライパンを振り回すお兄さんを見上げて、「どこに、もっていく、ですか」 ちょろりと見上げれば、ジロリと厳つい顔で目の端で睨まれた。う、と肩を小さくさせれば、「やる」 てんてんてん、と考えた後に、手の中のサンドイッチのお皿と、彼を見比べて、うわぁ、と嬉しくなる。頭をさげながら、「ありがとう、ございま、す!」 ああ、頭を下げなくてもいいのかなぁ、と考えたけれど、私を無視したまま、さっさ、とフライパンを動かす男の人を見て、もう一回頭を下げた。 いそいそと足を動かし、ドアを開ける。その途端、何故だか食堂の喚声がよく聞こえるようになった気がして、お、と足を止める。 そのとき、小さくパチパチと手を鳴らす拍手の音が聞こえたのだ。 なんだろう? と首を回すと、隣から数メートルの場所で見覚えのある眼帯のオレンジさん。、すごいさ、とぱちぱち。ぱちぱち。 一瞬何が起こっているのか理解できなくて、彼の動く手のひらと一緒に、私の瞼も同じようにパチパチと動いてしまった。 一瞬緩くなった涙腺を我慢するように、ぐっと唾を飲み込んで、「ら、ラビ、さん」 ちょっと前まで、頭の中にいた、『あー、とかやっぱり面倒くさいから、もう相手にするのやめとうこう』と頭をポリポリとひっかいていた彼の幻影が、ぱーっといなくなった。 それなら、しょうがないなぁ、と考えていたのに、我慢していたはずの視界がぐずぐずと曇っていく。 「おわっ」 ラビさんが、どーしたん、と首を傾げているのが分かる。私は彼にさっとサンドイッチをかざすような形で手を前に出し、顔を下にむけた。どうしたらいいか分からなくて、ぐしゃりと崩れてしまった表情を、やっぱり彼に見せるのが恥ずかしくて、そんなポーズをしてしまった。 端から見れば、プレゼントをしているように見えるのかもしれない。ラビさんは案の定「え、くれんの、それ」 違う。でも声を上げてしまったら、ボロボロと際限なく流れてしまうようで、私はぎゅう、と唇を噛みしめた。 鼻をすする音が、短く響く。 「んじゃあいただきます」 持つ重さが、ひょいと軽くなったかと思うと、ラビさんが口元に、美味しそうなサンドイッチを放り込んだ。「う」 もぐもぐもぐ。彼はにこーっと笑う。「うまいさー」「うう、ち、ちが」 あ、声出しちゃった。 予想通りにボロボロと涙腺が壊れて、うう、と手の甲で涙をぬぐった。子どものように喉を痙攣させて、けれどもやっぱり彼に見られるのが恥ずかしくて、片手でぬぐう。 ラビさんがもぐもぐしたままで、うおおお、と奇天烈な声を出し、「た、食べちゃだめならそういってくんないとー!」 ち、ちがう。けれども脳みそがドロドロに溶けてしまって、そろそろ私は、自分が何に泣けてきているのかも分からなくなってきた。一人でボロボロと泣いていたときよりも、今はずっと安心していて、じゃあ悲しくないのになんで涙がこぼれるんだろうとひくっ、と喉を動かして、「ら、らびさんが、さんどいっち、わた、わたし、の、たべます」 自分でも何をいっているのか分からないもんだから、ラビさんの方が、きっともっと分からないに違いない。うぎゃあ、と泣き出した私の右手を彼はほんの少し慌てたようにぐいと掴んで、「ああもう、大丈夫だって、ほらほら頼んだらすぐ来るからさー!」 おにーさんサンドイッチ一丁! しゅぱっと彼は縦に手を伸ばし、それに反応するように、白いバンダナのお兄さんが変わらずに「オウ!」と返事をした。 BACK HOME NEXT 2008.11,02 |