エピローグ 俺の学校には、恐ろしい先輩がいる。 沢田綱吉。あだ名はツナ、中一。ボンゴレだかなんだか、よくわかんないけど、不思議な赤ん坊にマフィアのボスになれだと追いかけまわされまくってちょっと泣きそう。結構泣いてる。「十代目ぇえええおっはようございまぁす!」 やめて獄寺くん恥ずかしいです十代目ってなんですか! 「よおツナ」とオレの肩へと、ぽんと手を置いてきたのはクラスメートの山本だった。いつも通りの爽やかな笑みに、オレもつられて笑ってみたけど、顔が引きつっているかもしれない。爽やかなんて無理。 その隣では十代目になれなれしくするんじゃねぇよオラオラと爆竹を取り出す獄寺んに、いやあ今日も元気だなぁ、と山本はにこにこしていた。ぱひゅんっ! そんな俺の額へと、何かがぶつかる。便所掃除の道具を思い出す吸盤が俺の額へと張りついていて、思わずひっぺがすと、「まだまだだな」とどこからともなく聞こえる声をともに、出てきた赤ん坊に、なんだか辟易とした。やってられないよ。 「いつでもどこでも気を抜くことなく、だぞ」 ばっきゅん。なんてポーズをとっている。 「リボーン……」なんて力なく俺は手の中の吸盤をぽきゅっと壁にひっつけてみた。 「だから挑戦状を送っておいた」 「え、誰に」 「咬み殺す」 廊下の端から飛び出た影に、オレはヒッと息をのむ。え、何してんのリボーン、なんて考えている間に、リボーンはどこかへと消え失せていて、ぽつんと残った俺と獄寺くんと山本はお互いパチパチと瞬きをするばかりで、「なんだい、一体だれのだか知らないけれども、誕生日パーティーだって? よくもそんな群れる集まりに僕を呼べるね、そこの草食動物ども咬み殺す」 なんて長いセリフを言っている間、彼、雲雀恭弥、風紀委員の委員長はひゅんひゅんトンファーを振り回しながらニヤリと舌舐めずり。うぎゃあ。 俺はたまらず山本と獄寺くんの腕をつかんで逃げた。獄寺くんが何すんですか十代目! と文句の声をあげて、山本はうははははと何がおかしいのかケラケラ笑ってばっかだったのだけれども、とりあえず無視して走った、頑張った、死ぬ気! それでも相変わらず雲雀さんはこっちへと向かってくるし、気付けば俺の遅い脚は、山本と獄寺くんに引っ張られるようになっていて、なんじゃこりゃあ、と自分自身なさけなくなる。ここどこ? なんて見慣れた学校なのに、息が荒くて頭に酸素がまわらなくて、自分でもぐるぐる。やっとこさ見えた、教室の表示には、二年何組、と書かれたものがずらりと並ぶ。 「ぐー!」 なんて喉の奥から情けない声を上げた。リボーン意味わかんないよ、何したいの。けらけら笑っていたはずの山本が、俺の後ろへとくるりと向かった。その顔は、額にきゅっと皺が入っていて、獄寺くんも慌てたように「おいっ」と声を掛ける。「さき行っといてくれや」と軽い調子の山本に、俺も思わず足をとめた。無茶だ。 そりゃあ殺されはしないだろうけれど。それでも痛いに決まってる。黒いトンファーに向かって直進する山本に、「やまもとっ」なんてせっぱつまった声が出た。けど足が動かない。 だから俺って駄目ツナなんだよ、なんて思ったとき、「まだまだだな」なんていうリボーンの声が聞こえる。なんだか、イラッとして、唇をぎゅぎゅっとかみしめていて、「やまもとっ」もう一回。足が動く。前に進む。進める。 ひゅんっ、と風が切る音がした。山本へと向かうトンファーの音だ。間に合わない、なんて思ったとき、ああ、とまた悲しくなって、「まだまだだな」ともう一回聞こえて、ひゅんっ、ともう一つ、風の音。 雲雀さんのトンファーが、廊下へと落ちていた。ガラン、と重そうな音を立てて落ちたトンファーの隣には、上靴が一つ。「あー……」 男の人の声が聞こえる。 不機嫌そうな顔をした雲雀さんと、トンファーへと構えた格好をしたままの山本と、眉間に皺を入れまくって、今にもたばこを噛みちぎらんばかりの獄寺くんと、俺の間を、その男の人は、けんっけんっと片方だけ足を動かし、ひょいっ、と手を出した。「雀くん、上履き返して」 いや投げたのあなたでしょ? なんてツッコミを入れることができないまま、飄々として、朗らかな表情をしたまま、その人はひょいっと手を出す。 何だかちょっと優しそうなその人は、俺よりもずっと背が高く、なんだかちょっとかっこいいなぁ、とか思ってしまった。 ……っていうか雀くんって誰。 「チッ」 と雲雀さんは舌打ちを一つして、「バカが」と短く呟くと、すばやくトンファーを拾い、その人へと叩きつけた。息をのむほどにビックリして、オレがその光景を見ていると、その人は雲雀さんのトンファーを受け流し、また片方のトンファーを、片手でつかみ上げた。「武器は卑怯じゃね」「さぁね」一瞬、そのまま拮抗した後、唐突に雲雀さんがトンファーを手放した、そして男の人の鳩尾へと一発。「ぎゃっ」なんでだか、オレが叫んでしまいそうなほどに痛そうなそのパンチを、男の人は、軽くかがんだだけで、掴んだトンファーを投げ捨て、雲雀さんの胸へと、頭突きをかます。げほっ、と雲雀さんがせき込んだ。なにこれ。 ぽかん、と見たまんまのオレ達に向かい、男の人は叫んだ。「一年さっさと逃げろって!」 またまた情けないことに。その人のセリフで、はっとしたオレは、またまた二人の手を掴んで、力の限り逃亡した。 何、あの人? 獄寺くんは無言だった。山本は、すげぇなぁ、と頷き、オレはと言えば、あの人なんなんだろう、とそんな疑問符ばっかり頭に浮かぶ。雲雀さんを、雀呼ばわりするなんて、恐ろしすぎる。 「野球部の練習があるから、じゃーな」 と帰っていく山本に手を振って、「ああ今日は火薬が届くんだった、すんません!」 と疾走する獄寺くんへと気にしないでと声をかけ、オレはとぼとぼ一人で帰宅する。一人って久しぶりかもなぁ、と妙な気分をかみしめながら下足場へと向かうと、ひょんなことか、あの男の人が、こっちを驚いた表情で見ていたのだ。「あれっ、まだいたの、さっさと逃げなって」 そんな風にいう男の人の顔半分は真っ赤で、唇からは血が垂れている。「あー! あー! あー!」 失礼なことだけど、オレは思いっきり指をさして、多分涙目になりながら叫んだ。これがオレの未来の姿だったのかも、と思うと思いっきり泣ける。「す、すみません……!」 そしておもいっきり謝った。 男の人は、きょとん、とした表情をして、「ああ」と片頬を押さえる。「いやいや、俺って頑丈だし慣れてるし、気にしないで」とへらへらと彼は笑って、「あいつまた攻撃力あげたなぁ」とぼんやりと呟いた。ごしごしシャツで口元を拭いたものだから、ついた血の色に、やっとこさ気付いたような顔をして「うあー」とその人は変な声を出した。「雀くんめ」 オレは、なんとなく気になってしまって、「あのう」と小さく声を上げた。彼は、人懐っこい感じの笑みで、「何?」と首を傾げ、そんな風だから、喉の奥へとつっかえそうな言葉は、するりと飛び出た。 「雲雀さんと、先輩って?」 「先輩?」と男の人は、自分自身を人差し指でさし、うん、とオレは頷く。名前がわかんなかったから、先輩。ん? と彼は首を傾げ、にかっ、と笑った。 「友達だよ」 結局名前を聞くのは忘れたけど、「さっさと帰りなよ」といいながら去って行った先輩を、オレはなんとなく見送って、ぼけっと下足場に立っている間、ふいに後ろからリボーンが現れた。「中々見どころがあるな、ファミリー候補だ」なんてニヤリと笑うそいつに、オレは「ぜっっっったいダメだ! ダメ! っていうかお前いかげんにしろよ!」 とりあえず、思いっきり否定した。 こいつが、こんなんで諦める訳ないけど。 風のうわさで。 風紀委員の委員長には、ライバルがいる、なんてことを聞いた。恐ろしく頑丈で、屋上から落ちても次の日には学校へ登校していた、なんて逸話もあるらしい。 あの人の名前も知った。 ええっと、確か 「、今日こそ君の骨という骨をたたきつぶしてやるよ」 「ねぇねぇ雀くん、たまにはさぁ、青少年の健全な遊びでもしようよ」 「断る」 「DS持ってきたんだけど。対戦しようって」 「断る」 「あ、あ、あ、俺のDSがぁああぁあ! バキッとか言った! ひでえ!」 「さぁ、咬み殺そうか」 彼は彼を、ボコリマスデス! THE END! BACK TOP 2010.07.02 1000のお題【627 時代の流れ】 |