| ああもうホントに。あの頃の私って、お馬鹿さんだったんです。 ばっきゅー! どがーん! 「くくく、お前に明日はないぜぐはー!!」 目の前でくるくると映る映像に、私は子ども心にキラキラと瞳を輝かせて、一秒たりとも逃すものか! とテレビの前に体育座りをしていた。今チャンネルを変えようものならグレるからね! とその頃意味も分からず使ってたんです(無駄にボキャブラリーだけは多い子どもだったのです) 「おとうさん、カッコイイね、まふぃあって」 保育園に上がってちょっとしていた私にとって、そのテレビに映る世界は初めてのものばかりだった。まふぃあ、何て単語が存在する事を、今初めて知ったし、どっかーん! と激しく炎と煙をまき散らし、自分の命まで散っていくその様が(シャレにならない)、そのマフィアを追っているという正義の主人公よりも、格好良く見えたのだ。 普通、父親ってものは女の子がそんな事いっちゃいけません、というべきものなんだろう。例えそう言う事を、さらりと流してしまう父親だったとしても、母親が叱咤をすべきなのかもしれない。けれども残念ながらうちの家庭は物心ついた時既に父子家庭だったし、うちの父親は普通の感覚とちょびっとずれていた。 「そうか。じゃあの将来は、マフィアになる事かな?」 ボキャブラリーが多かった私にしても、そのマフィアになるって事が、どんな事か想像も付かなかった。けれども取り敢えず、マフィア、という単語にのみ私は反応して、「うん!」と、気がついたら返事をしていた。そしてこのお父さんは、こういったのだ。 「よし、今日からは、キャバッローネのファミリーだ!」 ちなみに、これがホントの事で、実はお父さんってば有給休暇を取って帰ってきていた、立派なキャバッローネのファミリーの一員だったって事を知るのはもう少し。 あれから、7、8年経って。 「よし来い!」 「はい師範!」 私はぐ、と手に力を入れて、目の前の師範へと睨み付けるように見つめた。…む、相変わらず隙がない。けれどもその背負っているオーラが、さぁ来いやぁ! ぶちのめしてやるぜ! といっている。ぶちのめされるのはヤダけど、ここで下がると女が廃ります。って事で、たたっ、と冷たい板目の上を駆け抜けた。 ぱしぃん! と響いた音に、竹刀と竹刀が擦り合う寸前だという事が分かる。私の方が勢いをつけてつっこんだはずなのに、押し返される寸前ってのはどういう事ですか! けれどもそれは顕著に現れる女と男の差って訳で(……このまま今日も、師範から一本も取れずに、終了ですか) ………くやしい。 「あ、 山本くん」 「え! たけしか!」 「すきあり!」 まさかひっかかると思いませんでした! けどラッキーです! 今のうちだうりゃー!! とツッコンだ竹刀の軌道が、ふい、と入り口を向いていたはずの師範の竹刀にとって、見当違いな所に移される。「まだまだだ」ちょろりと聞こえた声が、なんだか情けなかった。 そのまま私は師範の流れるような剣先が、くるりとひっくり返って取っ手の方が私のお腹に向かって飛んだのが分かった。あ、よけれない。 ぽすっとお腹に何かが当たって、思わず筋肉を固めていたがビクリと痙攣した。そしたら師範が、ニヤリ、と口の端っこの方を上げて、「甘い」 (……甘かったです) ありがとうございました、と頭を下げて、「夕飯の用意しときますね」 おう、宜しく頼むよ、と軽く片手を上げた師範に、パタパタと手を振って、そのまま道場を後にした。 ぽてぽてと、道場から山本家へと移動しつつ考える。 記憶を思い返してみると、私ってなんだか無茶苦茶だなぁ、と思う。子どもの頃、マフィアになりたい! と豪語してから(あれ、誘導尋問的だったかも)、父さんはよしマフィアになるには強くならねぇとな! といって、師範に私を預けた。いや、預けたっていっても今でも、あの家に一人で住んでる。修行を任せたって事だ(ちなみに、私の父さんと、師範の関係は私は知らない) けれども、師範はこういったのだ。 『うちの剣の流派は、女子どもに教えられるものじゃねぇ!』 ……大変です、両方ともビンゴ(女だし子どもだ!) けれどももっと大変だったのは、何故だか既に使命感バリバリとなってしまっていた私だった。 『りゅうはなんて教えてもらわなくてもいいもん!(ていうかりゅうはってなに)おじさんより、強くなるんだから!』 近くに転がっていた竹刀を引っ掴んで、師範にえいや! 思わず師範ったら、子どもの戯言なのに、いきなりでビックリしたのか、本気で突き返してしまったのだ。 それから、私と師範は師匠と弟子ではなく、鍛えるものと鍛えられるものとなってしまった。おかげで毎日擦り傷だらけ。ちなみに、見返りとして山本家の家事のお手伝いをさせて頂いている。中学生になった今は、夕食はほとんど私だ(前師範に、お嫁さんは? と訊くと生ぬるい笑みを返された) まぁ兎に角、私はキャバッローネの一員なのだ。 小さな頃の戯言でも、胸の奥にきらっと光る何かが、まだ、ある。例えキャバッローネのボスの顔を、今まで一度たりとも見たことがなかったとしても、時々帰ってくる父から聞かされるその話で、彼への忠誠心はウナギ登りだ。 (……私は、彼に仕える為、剣の腕を磨いている) 「おう、じゃん」 「ひゃあ!」 いきなり右肩にかけられた手に、ビクリと反応して、ひょろひょろひょろ、と腰を抜かしてしまった。…ダメだ、私、こんな事じゃ、ダメダメだ! 後ろをゆっくりと振り返ると、案の定、山本くんが、クククッと笑いをこらえているのが分かる(なんですか!)(爽やかでもゆるさない) 「大丈夫かよ」と声を掛けられて、そのまま腰を抜かした私へと、彼はひょい、と手を出した。その手を取って、「…ありがとうございます」というと、「別にいいってことよ」といわれた。……あなたのせいなんですけど! 「俺んちに行く途中だったのか?」 「はい、お夕食を作りに」 「のメシ、上手いから好きだなー」 「お世辞でも嬉しいです」 「や、お世辞じゃねぇって」 ガシャガシャと、おっきな荷物を背中に背負いながら、にかっと笑う山本くん(多分、野球部の帰りだ)そうですか、といって、そのまま、ぼーっと山本家を目指していると、途端に山本くんに手を掴まれた。 「うわぁっ、何するんですか山本くんっ」 「ほらほら、早く帰んねぇと、日が暮れちまうぜ」 「だからって、その!」 「つーかさ、何度もいうけど敬語やめよーぜ」 「え、す、すみません」 「俺もいつまでも山本くん、ってのはなぁ」 「え、す、すみません山本くんっ」 山本くんは、ちょっと眉毛を下げ気味に笑って「わざとじゃねぇのが不思議だな」といった。え、何がですか、といおうとして、また山本くんの手に、ぎゅ、と力が入って、「ひゃあっ」としかいえなかった自分が、やってられません。 こんな私で、キャバッローネのファミリーです。宜しくお願いします! TOP NEXT 2007.07.20 |