ぱりーん


くだけたガラス




竹巳と待ち合わせして、丁度私が腕時計を確認したときだ。


変な音が聞こえた。お? なんだろうなぁ、と思って、私は音源を見つめてみた。すると頭の上からガラスが降ってきたのだ。私は呆気にとられたままその光景を見つめる。ビルの屋上からだったと思う。道を歩いていたら、パリーンだ。

私ってなんでこうなんだろうなぁ、とよく思う。ちょっとピンチになることが多い気がするのだ。ガラスがキラキラと光を反射させながらこちらへと向かってくる。ああ、これはちょっとまずいなぁ、とさすがの私でもちょっと思う。

は本当にぼんやりしてるんだからもっとしっかりしなよ!!」と竹巳によく怒られるけれど、私から言えば竹巳がしっかりしすぎているのだ。同い年とは思えない。小学生とは思えぬしっかりさだ。いやそろそろ中学生になるんだけど。

私はそんな中でも、「あー」と思っていた。あーん、と馬鹿みたいに口を開けて、ぼーっとしていた。おっ。死ぬかも。これくらいちょっぴり思う。いやこれは死ぬな。せめて頭をかばうのだ。せーの。なんてしている間にガラスは近づいてくる。「おー」 やっぱり私は馬鹿みたいに口を開けていた。あ、この状況、ちょっと嫌な単語で思いつくぞ。



私、串刺しになっちゃうぜ




しかしそんな美味しそうな状況にはならなかった。ばっ、と目の前に大きな布が開かれたのだ。おお、なんじゃこりゃ。と「おおー」と口をあけている間に、私は布に包まれる。大きな布で私一人を完璧にすっぽりさんである。そうしている間に、私は分厚い布に守られて、地面にガラスがじゃらじゃらじゃらーん! とぶつかる音を布越しに聞いた。

おお、怖い怖い。そろそろいいかな、と思って布から顔を出す。周りはぐっしゃぐしゃのガラスだらけだ。大人たちが、駆けつけて大丈夫怪我はない? とか、その布は一体なんなんだ!? とか口ぐちに訊いてくる。私はとりあえず、「何でですかねぇ」とうんうん頷いた。「いきなり降って来たんですよ」 そんな風に主張してみても、ああん? 何を言っているんだこの子は、と言うようにみんな奇妙な顔をする。

(……うーん、これは、あれだなぁ)

大人たちの向こうから、竹巳が見えた。珍しく息を荒くして、私へと駆けつける。「たーくみー」と私は布を背にかかえながら、パタパタ手を振る。そんなことをしていると、竹巳はもう我慢ならん、という顔をして、「おっまえなぁ!」と一瞬声を荒げた。珍しいなぁ、と思って言葉を待つと、竹巳はいいやと頭を振って、「帰るぞ」と私の手を取った。

どいてください、と二人で大人の間を縫うように帰っていく。私は背中に布を抱えたままだ。大きくて分厚いからちょっと重い。ずるずる、ずるずる、と引っ張って帰る。周りの人から変な目で見られたのは理解していたけど、まぁいっかー、と思った。

「それ、どっかにおいてけよ」
「んー? んんー?」
「嫌なのかよ」
「んんー」

ふと、私は気付いた。気づいてみれば簡単だった。なんでこんなこともわかんなかったのかなぁ、と思う。
この布は、初めての忍者からのプレゼントだ。
お母さんが言っていた。忍者はすぐ近くにいるのよ。ときどき、しゅぴっと空を飛ぶ忍者を見かける。忍者は身近な存在だ。

「竹巳竹巳」
「なに」
「ありがとうって言わないといけないみたいだ」

うん? と竹巳は首を傾げる。私も一緒に首を傾げる。
守ってくれて、ありがとう、と誰か知らない忍者に言わなければならないのだ。



  


1000のお題 【846 生きている実感】

2010.11.30