たすけて





これはまずい。
さすがの私でもこれくらい分かる。まずすぎる。私は私の口にガムテープをはって、ついでにぐるぐる目隠し状態のまま、「どーすんだこのガキ」「さっき母親が外に行ったもんだから誰もいないと思ってたのに」「ちゃんと調べとけボケ」「うるせぇな」なんて仲間割れをし始めた男連中の中、じっと体育ずわりをした。

けれども両手もガムテープでぐるぐる巻きで、手のひらはぐーにしたまんまだ。いやあまずい。
この人達はおそらく私の家に泥棒に来たんだ。そして私がいるもんだからビックリして、そして思わずさらって来てしまったんだろう。そのことについてまたもめている。ノリで誘拐ってどういうことだ。(……やばやばですよー) 本当に。こんなの初めてだ。「こうなったら腹くくれ!」と男の人の一人が叫んだ。

「おいガキ、家の電話番号を教えろ。がっぽり儲けてやるかんな! ほら言え!」

口のガムテープが邪魔でしゃべれないものだから、私は声をする方に向かって顔を向けて、そのままぼんやりとしていた。すると男の人は「しゃべれ!」と怒る。えええ、無茶言うなー。もごもごすると、他の男の人がぽそりと呟いた。「口ふさいだまんまじゃしゃべれねぇだろ……」「お。そうか」

どうしよう。この人達、予想以上におバカさんだ。これはある意味怖い。
忍者さんヘルプミー!





嫌な予感がした。いつも通り学校に行くべきなのに、昨日のありえない事故の遭遇っぷりを思い出して、俺は一端の家へと向かった。まだ登校時間からは間がある。もう一度の顔を見ようと思ったのだ。ピンポン。インターホンを押した。誰も出ない。「ー?」 とんとんとん。ドアを叩いてみる。反応がない。

家の中で、プルルルル……と電話が鳴っている音が聞こえる。しばらくなっていると思ったら、諦めたのか切れてしまった。けれどもまた電話がなる。そんなものが三度も続いたとき、今、家に誰もいないのだろうか、と思った。いや、寝ているのかもしれない。四度目の電話が鳴り始める。(……なんだ?) 嫌な予感がする。

俺は失礼を承知でドアを開けた。鍵がかかっていない。いや、違う。壊れている。玄関の靴が踏み荒らされて、花瓶が一つ廊下に落ちていた。俺は靴を脱ぐことも忘れて電話に向かった。そうしている間に電話が切れ、またしばらくすると五回目のコールが鳴り始めた。

「……はい、です」
『お前の家の娘を誘拐した』
「…………え?」


さすがの忍者でも、こんな状況は初めてだ。






「お前の家の娘を誘拐した」
『うちに娘はいません』

ガチャン。切られた。電話口から聞こえる男の子に声に、私はしばらく唖然とした。「え? ま、マジで……?」 おそるおそるというように誘拐犯の人がこちらを見てくる。「小学生くらいの男の子の声だったんだけど、お前兄弟とかいる?」 私はふるふると首を振った。
「あ、間違い電話かー」と男の一人がぱしこん、と頭を手のひらで打った。やあやあ、と言いながら新しく番号をプッシュしようとする。そうしたところで、部屋の端に座っていた男の人の一人が「ああ!」と声をあげた。

番号プッシュの人が受話器を片手に振りむいた。青ざめた顔のまま、男の人は周りの彼らを見渡した。

「……番号、非通知にしたっけ、俺ら」
「…………あっ」
「いや、別によくない?」
「よくないだろ」


複数人の男たちが集まり、あーだこーだと言いながら電話の非通知設定をいじる。ああこの人達、やっぱりおバカなんだなぁ……と私の口にガムテープをつけることやら、目隠しをすることすら忘れた彼らを見ながら、若干苦笑した。いやいや、そんな場合じゃないんだけど。駄目な大人たちだ。





  


1000のお題 【682 行き先不明】

2010.12.17