俺の名前は
ゾルディック家執事をさせて頂いている。



>>身分違いでも大好きです




ゾルディック家執事の朝は早い。
とはいっても無駄に早いだけで、特に何をするという訳でもなく執事室で延々と待機し、屋敷から連絡があればすぐさま応援へと駆けつける程度だ。
この間「助けてちょうだい誰か!」という奥様の悲痛な叫びに何があったんだ! と心底胸を痛めながら駆けつけたとき、「ちょっとそこのお肉が焦げないうちにひっくり返しといてちょうだいね」といわれたとき、料理してただけかよ! と思わず体中の力が抜けてしまったけれど、別にそれでも全然構わない。

俺はゾルディック家のみなさんを愛しているからだ。ゾルディック家ラブだ。何か勘違いされそうなのでいい直すと、ゾルディック家ライクだ。
その中でも俺は一番、キルア様に愛を捧げていた。


ー!」
「キルア様!」

いつでもどこからともなくやってくるキルア様。天空闘技場とかいう意味の分からん場所にぶっこまれてしまったときの俺は、本気で涙で枕をぬらす勢いだったが、やっとこさ帰られた彼は、最後に見たときよりもまたすくすくと大きくなり、「やっぱ俺キルア様らーぶ!」とかいっちゃいたい。

キルア様はどこかいたずらっ子のような表情でえへへと俺に近づき、もう一度ー! と語尾を伸ばしながら俺の懐へと飛びついた。
やっべこの子超かわいい、と俺もキル様ー、とその背中を抱きしめようとしたとき、脇腹あたりに妙な感覚がぐちゃぐさり。

「おっし成功!」

何がですかキルア様といおうとしたとき、俺の脇腹から引き抜かれた彼の両手は真っ赤に染まっていた。

ただ今キルア様は、執事の不意打ちグッサリを狙ってしまうのが、マイブームらしい。






てへへとでも言いたげな、にゃんこのような瞳を思い出して、俺は小さなコップに入れられた氷をカラカラと振り回した。腹の周りにぐるぐると巻いた包帯が少し動きづらいが、別に気にする程でもない。
隣では死んだ魚のような瞳をしたゴトーさんがメガネをずらす程必死に酒をあおいでいた。

「………キルア様、この間まではお可愛らしかったのに」
「あれッスかねぇゴトーさん。天空闘技場なんてトコに行ってから、キル様激しくなっちゃってもう」


足の指先あたりをちょん切られたゴトーさんは、ちゃんとくっついたのか今ではイスに座りながら、「くぅっ」とでっかい声を上げてマジ泣きしてた。ゴトーさんちょっとこわい。
周りを見てみれば、そこら中に包帯を巻いているものだらけだ。流石キルア様すげえなぁ、と思いつつ、そんな事いってる場合じゃないのも分かってる。
そんな呻く男達の中を、唯一無事であるカナリアが急がしそうに駆け回っている。あれかなキル様流石に自分と同じサイズの女の子はやっちゃう気にならなかったのかな。

「ミルキ様はヒッキーだし」
「お生まれになったばかりのアルカ様やカルト様は奥様にべったりだし」
「イルミ様もよく分からんしで、キルア様は俺たちの明星だったんスけどねぇ」

やっぱすげぇわゾルディック。
俺キル様くらいのとき人様からメシ盗んで生活しかできなかったもん。

「まぁそれでも俺はキル様愛してますよ」
とゴトーさんにいいきってみせると、「執事は雇用主に対して特別な感情を持ち合わせるべきではない」とお目々真っ赤にしながらそういってた。
ゴトーさんは酒が入ると泣き上戸になるのだ。

「やだなぁゴトーさんは固いなァ」
「固くない。お前の頭が豆腐すぎるだけだ」
「しょうがないじゃないですか。好きなもんは好きなんですもん」

例え内臓が飛び出すくらいなっがい爪でぶっさされたって、大好きなもんはしょうがない。寧ろこのキル様に付けられたでっかい傷が俺に一生残っちゃえばいいと本気で思った。別に残ってしまった傷跡に嘆く程女々しくないし、キル様に付けられたものなんだと考えると俺様ちょっとゾクゾクしちゃうね。

「お前は変態だよ」

と俺の顔をじっと見詰めながらゴトーさんにいわれてしまったけど、自分に素直なだけですよと苦い笑みを交わした。





後日、なんともなさげに「親父に流石に使用人やるのはやめろっていわれたよ。ごめんなー」と超軽いテンションで謝られたので、「俺は全然構わないんですけど、ゴトーさんマジ泣きしてたんでそっちにフォローお願いしますね」といっておいた。



1000のお題 【759 大暴走】



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2008/08/10