お父さん、お母さん、ごめんなさい


第0話 あ、死んだ!




そろりと足をつけてみた。どっちかっていうと、あんまり運動は得意な方じゃないけど、やるときはやるってタイプの私は、かなり、死ぬ気で、頑張ってみた。
ガシャガシャガシャ

微妙に響く、鉄の合わさる音に、一瞬ちょっと身震いする。
(…よし)
小さく意気込んで、ぱっ、とそのほんの少し錆びたくさび形から手を放す。
ひゅっと足下に流れる風が、冷たいのか、なんなのか、まったく分からない。

(ここから、飛び降りるのか)

ちょっとチキンハート気味な私は、はは、と出てくる笑みに、なんで自分こんな事してんだ、とかちょっと考える。ざわざわと下の方で蠢く人ゴミの中に、今から私は飛び降りるのだ。


ぶっちゃけいうと、特に理由なんてない。

花の薔薇色の高校生活で、見事難関だっていわれた志望校に受かったんだから成績が悪い方じゃない。寧ろ反対だ。完璧過ぎる程でもないけど、ある程度の優等生だし、顔が破滅的に悪いなんて訳もなく、どっちかっていうとクラスでも上から2、3番目でそこそこ可愛いって事も自負してる。

っていうか、今考えている。私がこんな事してる理由を。
学校からの帰り道、なんとなくビルの方に行ってみたいな、って思って。
なんとなく、上ってみたいな、って思って。
なんとなく、飛び降りたいな、って思った。



(まぁ、敢えていうのならば、この代わり映えのない世界から、おさらばしたいかな)

ちょっと今時の学生みたいに、思ってみる。



ちょっと、足に力をこめて、飛び降りる体勢は万端だ。よし、行くぞ。行くよ、行くよ!
1、2の3! 



ひゅるり、と風が足を通り抜けた。



「やっぱ、やーめた」

別に、このままでも十分満足してるし、こんな幼い命をココで落とす事もない。ホントは始めっから飛び降りる気なんてなかったのだ。やっちゃいけないことをするフリをして、満足したいだけだった。
ふう、バカなことしちゃったよ、と軽くため息をついて、よっこらせ、とフェンスをよじ登ろうとした、その時だった。


「あ」


ぐらり。手に掛けたそのフェンスが、揺れた。
あ、ちょっとヤバい。なんて考えるのも一瞬で、ゆっくりと流れる光景は、一瞬で流れていく。


ひょいっと、とっても簡単に、私の体は宙を浮いた。


(あ、死んだ)







  

                         アトガキ

テニス連載始動。


2007.02.06