取りあえず、空は青かった。
第31話 それは最後の事でした
「うーあーあー」
私の獣ともなんともいえないような叫び声が、ざわついた教室の中に吸い込まれてしまった。べろん、とまるで溶けたアイスみたいに机にへばりついてみると、呆れた顔で、海堂くんが、仁王立ち。………なんだよチクショウ、恐くなんて、ないもんねー!
「ちょっと、人の机で溶けないでよ」
「あああ、いま、ちょこっと、かんがえ、事を、」
「そんな事はどうでもいいからさっさとどいて」
せっかくひえひえデスクで体力を回復してたっていうのに海堂くんったら! 「ひーどーいー」「語尾を伸ばすな」
しょうがねぇなベラボウメ! なんて思ってるけど、口には出さない。だってそんな事をしたら、くわっ! とあのお目々で睨まれてしまうからだ。いいま千円お口にチャーック!
「で、考え事?」
机さんは元のあるべき住人に占拠されてしまった。しょうがないので、私は隣の席のイスをガタガタとひいてきて、よくぞ聞いてくれました、と茶色い机上へ、肘をつく。
「………うむ。なぜ人は、忘れてしまうのかと」
「それは、随分哲学的な」
「だよねー。あああ、こう、見たこととか、いっしょー忘れないよーになりたいなー」
どらえもーん! のび太くんがうらやましー! なんていいながら青空へと手を伸ばしてみた(実際は曇った電気がピカピカ光ってただけだった)そんな隣で、海堂くんは、ぼそり。「やだよ、そんなの」
なんで、という前に、海堂くんは、ものすごーく苦いような、つまりこれが苦虫を噛んだみたいというような顔をして、眉をひそめる。「今日俺は、宿題を忘れたんだ」 なんだそれは、珍しい。「それでたまたま、タイミングが悪くて、立たされた」
「あんなの、さっさと忘れたいね」
そんなもんだろうか、と思って、やっぱりのび太くんが羨ましいなぁ、と思ったとき、イスが、ガタン! 慣れたような感覚に、思いっきり足下を蹴ってくれた銀髪の少年を、じろっ、と見詰めた「なにすんのさ柚太ー!」「あ、鳳」 ちなみに二言目は海堂くん。
柚太は特に悪びれもない顔をして、ぐいっと机の上に、三人目の顔をのせた。
「なぁ、今度の土日、俺の兄ちゃんのテニスの試合があんだけどさ、お前ら見にこないか」
「あれ柚太兄ちゃんいるの」
「いや、イトコ」
ふうん、と暇なら行ってもいいかな、と海堂くんと頷いて、テニスという単語に、ふと思った。銀色、銀髪、おっきなひと。 似ても似つかないような柚太を見て(だってちっちゃい) 今度会えたとき、もう一度しっかりとお礼をいって、名前を聞きたいな、と思ったのだった。 (ユーシは侑士で、ちゃんと、いいたかった事がいえましたって)
ほんの一瞬。青い空の向こう側に、虹が見えた気がした。

2008.06.14
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