子狐、こんこん



目が覚めたら、全部元に戻っていただなんてお約束だ。



俺は南野家にいた。あいかわらずの居候で、「ちゃん、朝よう」なんてかあちゃんの声がして、急いで親父の部屋から飛び出した。テーブルの上には、ほかほかのご飯が並んでいた。親父の弟とか、父親とか、母親がいて、「ねぼすけさんね」なんて笑っている。俺は視線をきょろつかせた。手洗い場で音がする。ちょっとだけ考えて、うん、と肩に力を入れて、俺はぐるりと振り返った。それから、手洗い場の扉を開けた。

ぱちゃぱちゃと、親父が洗面所で顔を洗っている。「お、おやじ」「……ん?」 タオルで顔を拭って、なんてこともない顔をして、親父は俺を見下ろした。それからしばらく、お互い何にも言わなかった。「お、おはよう……」「ああ、おはよう」

それだけの言葉が、ばかみたいに嬉しくて、俺はちょっとだけ耳元を隠した。それから妙に尻尾をパタつかせる俺を見て、親父は少しだけ奇妙な顔をして、ぽんと俺の頭を撫でた。「朝ごはん、行くぞ」「……うんっ!」







みんな、俺が過去にいたことは忘れてしまった。
まあ当たり前だ。俺がいた過去は、ここの過去じゃなくって、きっとどこか別の世界のことだったんだ。
とりあえず、そう思うことにしてる。「あちゅふーっ!」「なんでお前は毎回成長しねーんだ?」 あぶらあげの入ったきつねラーメンを、べえべえ舌をやけどさせて食べる俺を見て、浦飯は面倒臭気にため息をついた。夜の街灯がぽとぽとと道に落っこちる。酔っ払い達が、ときどき楽しげな音頭を口ずさんだ。

「うるしぇえ! 俺は客だぞ! うやまえ!」
「舌まわってねえぞ」

ずるずる、とすすった鼻水はラーメンが熱いからである。別に泣いてない。「あんまり食うと家の飯がはいんなくなるんじゃねーの」「育ち盛りなんだ、まだまだ食うぞ!」「……いやお前チビすぎだろ」 会ったときからまったくもって成長してねーぞ? と頭を鷲掴みにされて、思わず顔面がラーメンの中に入るかと思った。ふんじばってやりたい。

「いっとくけどな! 俺が本気で化ければ、おまえよかでっかくなるし、大人になるし、カッケーんだぞ!」
「へえへえ」
「ほんとだからな、嘘じゃないからな、ホントなんだぞっ!?」
「ほいほい。食わなきゃ伸びんぞ」

ぐう、と俺は半分に折れた、ミニサイズの割り箸を握りしめた。正論だ。口元を尖らせて、ずるずると麺をすすった。「うらめし」「ン?」「温子さん、元気してるか?」「さー? まあ今日も酒瓶あけてんじゃね?」「そーか……」

カウンターに肘をついて、手のひらに頬をのせた浦飯がふと顔をあげた。「お前、おふくろに会ったことあるっけか?」 首を振った。何を答える気もなかった。浦飯は、少しだけ不思議気な顔をしたがそれだけだ。
ずるずる、と麺をすする音が聞こえる。
ちっこい俺用のどんぶりを持ち上げて、んごんご、とだしを飲んだ。ぷは、とどんぶりをカウンターに置いた。

「うめえだろ?」
「まあまあ」
「クソ生意気なガキめ」

ビシッと額にデコピンされた。俺は客だぞ、とまた鼻水をすすった。「お前が俺のラーメン食いたいって言ったんだろうが。味わって食えっての」「な、なんだよ、そんなこと言ってねーよ、腹が減ったからだせっつっただけで」「今日じゃねーよ、もっと前にだな……ん?」

んなことあったっけ? と自分で言い出したくせに、浦飯はガラの悪い顔をしてぺしぺしと頭を叩いて眉をひそめた。こいつは一体何を言ってるんだ。俺はぶふうと鼻の穴をふくらませながら、残りの汁を飲もうとした。そのとき、ふと思い出した。


     俺、うらめしのラーメンくいたい


ずるずると鼻をすすって、浦飯の肩にのっかって、頭にくっついて、俺はボロボロと泣いていた。それは少しだけ昔のことだ。


耳元が、真っ赤になった。それからずるりと鼻水をすすった。ラーメンが熱いのだ。
ぐりぐりと手の甲で目元をぬぐった。それから、どんぶりを持ち上げた。
そうして、残りの汁を飲み込んだ。








(あとがき)
過去に行っちゃった子狐連載、これにて終了です! はじめは短編1話だったのですが、想像以上になんだか楽しくなってこれ続けられるんじゃね!? と調子こいてこうなりました。色々と間をカットアウト的なシリーズ連載だったので、絡んでないキャラやシーンがおおくて、まだまだ夢は膨らみますね! (*´Д`)
プーと狐は中々に相性がよさそうだな……とか、飛影とはほぼ会話がない状態なんだろうな……とか色々楽しい。

とにもかくにも、元ネタのhaluさんありがとうございます! 幽白好きだけどネタがないなーとずっと思っていたんですが、「蔵馬のところに妖狐時代に知らない間にできてた子供が訪ねる話」というネタ頂いて私の妄想魂が炸裂した。とにかくはるさんがいなかったらこの話はできてないぞォ!! ということではるさんありがとうございましたと改めてここでお礼をば!!!! イメージ画合わせて、ありがとうございましたズザーッ!!!(スライディング)