「おー」
mother story
つまりは紙一枚な訳だ。
「そうなのです。この紙一枚で、の名字は変わっちゃう訳ですね。ハイハイビックリ」
パチパチと佐助くんは拍手を送りながら、マジマジと見詰めている私の頭の上へとぽこんと顎を置く。ちょっとそれは重いなぁ、と無言の訴えを送ると、「ごめんごめん」と彼は朗らかに笑いながら、ぐいっと私の腰へと手を回して、そのままぼふりとソファーへと座り込んだ。「うわー」
ひょい、と身体がうくような感覚に慌てながら、その紙を握って、身体をよじるようにしながら「こらこら」と佐助くんの頭をひっぱたく。
ごめんごめん、とあんまりにも誠意のない謝り方で、まぁいいかと思いつつ皺にならないようにと、とっても丁寧にテーブルへと紙を置いた。
「うーん、不思議だなぁ」
「不思議ですねー」
「ほんとにそう思ってる?」
「いや全然」
「………もういいや」
隣の家の少年は、いつの間にか大学生になっていて、またまたいつからかお母さんになっていた。そしてまたまた、お母さんを廃業して、すっかりと男の人に変わってしまっていた。
もしかしたら初めからだったのかもしれないけれども、どうなんだろうなぁ、と私は腰へと置かれた佐助くんの大きな手のひらをその上からぎゅーっと握りしめる。
「うーん」
「これでもうお母さんとはいえませんね」
「いいませんよ」
「はい今更ですか」
「今更な訳です」
そうかそうか、とくっくと佐助くんは含み笑いに、私の肩へと顎を乗せて、背中へと体重をぐぐぐっと押しつけながら、前のめりになる形のように抱きしめられる。これは重い。重いよ佐助くん、と泣きそうになった私の声へと隠れるように、「それじゃあなっちゃいますか」と楽しそうな声が聞こえた。
「なにに?」
「お母さんに」
「佐助くんが?」
「そんなまさか」
彼はにこにこと幸せそうに笑って、私の鼻をちょん、と押さえた。「ん?」と首を傾げれば、「んん、そりゃまだ早いか」と一人で納得したかのように頷いて、「まぁまぁそのうち」とほっぺたをぺちぺちと柔らかく叩かれる。
「うあ」
「んん?」
「ヤバイですサン」
「どうしましたか佐助くん」
よしよし、と頭を撫でる手は、ずっと変わらなくて
「幸せすぎて、俺様死んじゃう」
くすり、と思わず笑ってしまった。
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1000のお題 【456 10年砂時計】
2008.12.21