6 わんこのおんがえし

俺はぽかんとして、その箱のような物体を見つめていた。わあわあとどうにもでかい音が出るその箱は、奇妙に小さな人間が入り込んでいる。こ、これは、一体。なにごとでござる!「わふーん!」「ねえちゃん、ろくもんがテレビに喧嘩売ってるー!」「そういう年頃なんだからスルーしてあげなさい」

わふわふ、わふわふ? と俺はその、てれび、という奇妙な物体の前を左右に行ったりきたりを繰り返していると、「ろくもん邪魔!」とに怒られ、端によけられる。それは失敬。
そしてこれまた小さな、まるで羊羹のような四角い何かをてれびに向けると、「ピッ」という軽い音ともに、ぐるんと景色が変わってしまった。何度見ても理解ができぬ。

まったく、まったく、と俺が頷いていると、ぴ、ぴ、ぴ、とどんどん変わってゆく。「あ、これにしよー」とが呟いた目の前には、見慣れた戦場であった。「わおおおおん!?」 

なるほどここが入り口であったか。俺はここから迷い込んだに違いない。いざっゆかんっ


「きゅ〜ん……」
「姉ちゃんろくもんがテレビに頭ぶつけてもだえてるー」
「もうしないように叱っときなさい」


ろくもん、メッ、だぞ! と幼子に叱られる心情はいかがなものか。俺はしょぼくれながら、そうか、違うのか。ここは入り口ではなかったのだな、なんという……と尻尾までたらりと垂らしながらしょんぼりしていると、はまあまあ、気にするな、とでもいいたげに、俺の頭をもふもふ撫でた。よ、お前はいいやつだ。よい男となるであろう。わふん、と顔を見上げると俺が見たものは、「あー、ろくもんの所為で全然見てない」と言いながら去っていく背中であった。多少寂しいだわん。


とりあえず、俺もの隣におすわりしつつ画面を見つめていると、何やら刀を持った武士たちが集まり、屋敷の中で頭をたれている。ふむ、主はさぞかし位の高い男なのであろう、とふむふむ頷いていると、「ろくもん何頷いてんの?」と生ぬるい目線をこちらに向けてきた。うむ。『信玄様!』 てれびの向こう側で、武士の一人が頭をさげ、ヒゲの武将に声をかける。む、なんだと。

聞き間違いか、と俺はパチリと瞬いたが、どうやらそうではないらしい。『信玄様のお言葉、まことありがたく……』 なんということであるか!
こやつは親方様の名を語るふとどきものである。いかん、これはいかんぞ。と俺が尻尾をぶるぶる太くしていたとき、ふと通りがかった殿が呟いた。「あ、武田信玄の俳優さん、かっこいー」「わふん、わふわふわふわふわふー!!!」「え、ちょ、なんなのろくもん!?」

だまされてはいけませぬ、殿、騙されてはいけませぬぞー!!「わふわふ、わふーん! わふおーん!!」「え、ちょ、う、うるさ、なんなのー!?」






  

2011.09.27