7 わんこのおんがえし

ばしーん、ばしーん。紐をひっぱり、うひひ、と私は口元をにやつかせる。「姉ちゃん、こわい……」「怖くないです」 ばしーん、ばしーん。友人からもらったマル秘アイテムを所持しながら、部屋の端っこでぷるぷる震えるわんこに、ぐわばっ、と襲いかかった。「ええい、神妙にお縄につけー!」「わふおーん!!」「姉ちゃんお縄じゃなくて、リードだよー!」


レッツ、お散歩である。



わんこの首につけた、赤い首輪に、「うふーん、わほーん……」とろくもんはしょんぼりしながらぐるぐると同じ場所を回っている。そしてどうにも気になるのか、必死で首元をかしかしひっかいて、まるで人間のように苦悶した表情で寂しくないている。がそんなろくもんの首輪を見つめ、「姉ちゃん、かわいそうだよう、外してあげようよう」とびしびし指を差しているのだけれど、「これを乗り越えてこそ、ろくもんはまた一つ大きくなるのです」と言って、かちん、と首輪にリードをひっかけた。「姉ちゃんまた適当なこと言ってる!」


のしのし外を歩くろくもんは、なんだなんだ、これはなんだ。こっちはなんだ。はふはふ、はふはふ、さんぽでござる! と言うふうにぐるぐる周りまくって、ついでに言うとまっすぐ走りだしたり唐突に止まったり、どうにも体力が続かない。、パス! と言いたいところだけれど、自分よりも小さな体の弟に任せられる訳もない。

「ろ、ろくもんさん、ちょっと落ち着いてください……!」
「わふっ、わふわふわふー!」

バタバタ暴れるわんこに、うおおお、と両手でリードを引っ張ってみても、力の限り引きずられる。が不安そうに私の隣を早歩きし、「そうだ!」と手のひらを合わせた。ど、どうした弟。助けてたもれ、と足をすらしていると、は早々と私の隣を駆け抜け、ろくもんに向かった。「合体!」 ジャキィイイイン。

ろくもんの背中に自信気に乗った小学生を見ながら、一体それに何の意味が、そしてちょっぴり羨ましいよー。と私はずるずるリードをひっぱった。



***


まったく、俺は犬ではないぞ! 犬だが。

あんまりにも息苦しいわん、とガリガリ首輪をひっかいていると、ずるずる殿にひっぱられ、俺は外の世界を堪能した。まったく、なんと不思議なことか。「ろくもん、ちょっと、お、おちつい……!」 なんとなんと、不思議な光景であるか! 「ろくもーん! こらぁー!」 わふわふ、わっふーん! 

俺は飛び出した。しゅぱしゅぱ両足を動かし、尻尾をはたはた、ついでに言うと殿の周りをぐるぐる回る。なんとなんと、これはなんと、殿あれは何でござるか!? 、あっちのちかちか光る赤や青のものは何でござろう! お答えくだされお答えくだされ!

伊達殿で言う、はいてんしょんな状況であったのだが、に背中に乗られ、馬と化した俺は、さすがにそのまま暴れることもできず、しょんぼり頭をたらしつつトテトテと歩いたのだが、殿いわく、こうえん、という場所についた瞬間、再び俺の中で、胸滾るものがあった。
短い草が一面に生え、周りでは同じく犬達が遊びまわっている。このこうえんとは、原っぱのことでござろうか? と彼女を見上げると、「芝生が緑で気持ちがいいねぇ」とニコニコと微笑んでいた。なるほどこれは、しばふと言うらしい。

「それじゃあろくもん、ボール投げしてみようかー」

ぼ、ぼーるなげ。
何でござるか何でござるか、その魅惑な響きは! はたはたはちきれんばかりに俺は尻尾を振り、自由になった体をしゅぱっと飛び出し、が投げた丸い何かを、俺は追った。追った。力の限り追って、「わふうううん!!!」 ごろごろごろごろごろ! 芝生ごろごろ! 気持ちいいごろごろ!

「「ボールをとれー!!!」」



恐ろしい。芝生というものはなんと恐ろしい怪物か。それを見つめるだけで、俺の中の欲望は踊り狂い、体をごろごろしたくなる。悪気はない。悪気はないのだ。ですから殿。「わふっ わふふっ(許してくだされー!)」

「ええい、風呂じゃ風呂じゃ、こんなにどろんこになりおって!」「風呂じゃ風呂じゃー!」

俺は姉弟二人にしっかりがっちり捕まえられ、風呂場に連れ込まれた。「ついでに私たちも入っちゃおうかー」「おうかー」とすぽーん、と服を脱ぐ彼らを見て、俺は鼻から血が出るかと思った。

「わお、わおわお、わおおおおおー!!!(婦女子がそのように、みだらに肌を、だだだだ、出すなどォー!!!)」
「姉ちゃんろくもんがなんかまた主張してるー」
「相手しといてあげなさい」

するする服を脱ぐ殿から目を逸らしつつ、俺は一体何をやっているのだ、まさかこんな、、姉を止めてくれ!「おませなわんこだねぇ」 よしよし。 
すべての主張は、彼らの耳に届くことはなかった。俺はこの日、何かを失い、何かを得た。


「わうん……わう、くぅーん(殿、この責任は必ずや果たしてみせましょうぞ)」
「え、ろくもん、なんでそんなに殊勝な顔してるの?」





  

2011.09.28
これは、幸村がわんこになって、逆トリップ……もどきなお話です。
もどきです。