あくびをした。寂れた宿屋は暇で暇で仕方ない。客が来ないものだから、だいたい食堂の方が繁盛していて、ときおり帳簿を確認することも忘れる。なのに今日は違った。ドアの鈴の音をきいて、はいさはいさと向かってみれば、黒髪のイケメンだった。緑と紫のバンダナをしていて、若い男に縁がない女としては、「はわあ」と思わず眼孔を覆った。そして何をしているのかと気づいて、「いらっしゃいませ」と出迎える。
彼は数日滞在した。何らかの進展があることを期待したけれど、もちろん何もなかった。でも、「ご飯がおいしかったよ、ありがとう」と微笑んでくれたのでよしとする。そうしてお会計をしているときに、手紙を渡された。まさかの可能性に思わず跳ね上がったのだけれど、
「もし、俺を探している男がいたら、渡してほしい」
とのことだった。ラブロマンスではなかった。普通なら断るところなのに、イケメンなので、うっかり引き受けてしまった。いつその男が来るかもわからないのに。
でも案外早く、男はやってきた。数日後のことだ。少年よりも年が上で、見てくれは二十歳を越えているかどうかというところだろう。背中に弓を抱えて、旅慣れている様子だ。まあ少年ほどのイケメンではないが、これもこれで目に毒だ。ここは若い男が少ない村なのだ。彼は、以前にやってきた少年の特徴通りの人間を探している、と言っていたから、預かっていた手紙を渡すと、あらん限りに目を見開いて、わなわなと震え始めた。「だれがじいちゃんだ、このやろう!!!」と叫んで手紙を放り投げた。一体何が書かれていたのか。
そうしておじいちゃんと呼ばれた少年は泊まりもせずに、さっさと消えてしまった。
それからまた数日後のこと。うちは暇で仕方がない店なはずなのに、これほどまでに客は来ることは珍しい。今度は一体誰なんだとドアの鈴の音によっこいしょ、と腰をあげると、女の子だった。肩口まで伸ばしたさらさらの髪の毛で、初めに来た少年と同じくらいの年の頃だろう。彼女は私を見ると、にっこり笑った。可愛らしい女の子だ。
そして彼女も、少年と、男を探しているらしい。
彼らの経緯を説明すると、ため息をついていたが、それほど落胆した様子もなく、「まあ、いないものは仕方ありませんね」とほっぺに片手を置いて、「それじゃあ泊まりはできないのですが、食事を注文させていただいても?」 もちろん大歓迎だ。なんたってうちは宿屋よりも、こちらの方が繁盛している。客のシーツを洗うのも面倒だ。
少年と男よりも、彼女の方が喋りやすい。気になって、気になって仕方がなかったのだ。「ねえ、あなたとあの人達って、どんな関係なの?」 彼女は口元のミートソースを拭いながら、ちょっと照れたように笑った。
「あの人は、私が好きな人なんです」
だから探してます、と笑う彼女に、それってどっち? と聞こうとしたけど、彼女はおいしそうに私のスパゲッティを食べるから、聞けなかった。
見つかったらいいね、と告げると、やっぱり少女は可愛らしく笑っていて、思わずおかわりを持ってきてしまった。おいしく食べていただけるとありがたいな。
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2019-10-25