広い空とはどういう事だろう。




海岸にぴたりと足をつけて真っ直ぐ立っていた。立つたびに足下の砂がさらさらと抜けていって、ふらりと体のバランスが崩れる。「お、っと、と」
パタパタと髪を揺らす風は、じっとりと塩を含んでいて、頬にべたついた。

先を見詰めると、遠くになればなるほど、青く透き通った海は、何度見ても飽きないなぁ、と私は思う。


「………あら」

ふいに背中で声が聞こえた。なんだろうと振り返ると穏やかな顔をし、ゆったりとした髪に紫色の服を着込んだ老婦人が、なにやら面白いものを見つけたといいたそうに口元をにんまりとあげた。「………こんにちは」
どうしようかと私は考えながら彼女へとぺこりと頭を下ろすと、彼女も「ええ、こんにちは」としゃんと立てた背筋を微かに曲げる。首もとへと小さく下げられた真珠のネックレスが、揺れる。


「あなたは、何故こんなところにいるのかしら」
「何故?」
「ええ、何故かしら」


私は彼女の微笑みを見詰めながら、大きな船が港へと着く様を目の端で捕らえた。「あなたは、もっと近くにいなきゃいけないんじゃあないかしら」
ゆっくりゆっくりと、船は動きを止め、青い地面への軌跡を残す。

「………そうなんですよねぇ」

やっぱりもっと近くないとだめなのか、と何度もの繰り返しの中でのちょっとした実験は、簡単に崩れてしまった。
老婦人は、あらあらと微笑みを崩さずに、「あなたは、きっと難儀な人なのね」

そうでしょうかね、と私は頷いた。

「私はなんだかあの船に乗るような気がするわ。あなたはどうかしら」
「ええ、私も」


微かに瞳に映る、星の輝きに、うっすらと瞳を閉じた。
(耳には波のぶつかる音だけが響く)


2008.08.27