船へと乗り込んだ。
私は私の目的というか、しなければならない事というか、まぁそんな感じで船へと忍び込んだ。俗にいう密航というヤツなんじゃないだろうか、と考えて一瞬訳もなくにやりとしてしまったけれど、あんまりノリノリになってはいけない。なぜならこの船はそんじょそこらの船とは違うからだ。なにやらクールークと呼ばれる国と、派手にドンパチを繰り広げている恐るべき船だったりするからだ。
「………さすが」
私が呟いた声は誰に響く事なく空洞の中を駆け抜けた。こんこんこん、と手近にある木材を叩くと、響いた重低音にいい素材使ってるなぁ、とまたまた感動してしまう。
ごうんごうんと船の揺れがダイレクトに伝わり、胃からせり上がるような感覚にごくりと唾を飲み込んだ。
こんなところで吐いてしまえばもうどうする事もできない。
なぜならば今の私は、船の階層と階層の間を体をすり抜けさせて通っているからだ。
しっかりと船を作り込んでいるおかげで、足を踏み出せばバキリと嫌な音が響く事もない。
中腰よりももう少し低い格好でずるずると天井と床の間を歩き回り、排気口なのか、天井へとはめられた鉄格子からもれる明かりが頼りだ。なんの装置かは知らないけれど、甲板から甲板へ、自動で動く装置の隙間を縫えば、好きな階層へと移動する事も可能だ。
私は何度も同じ事を繰り返してきた経験から、中心人物達の接触は得策ではないと学んでいた。あんまり近づきすぎてはならない。なぜなら私が大変だからだ。けれども私は彼らの比較的近くで様子をうかがう必要性があった。どこまで離れていれば問題ないのかと確認をしようにも、やはり本拠地にまぎれこまなければいけないらしい。どこか不思議な老婦人にこの間教えて貰った。
「城とかなら、掃除婦かなにかになればいいのに」
けれどもこの船は海上を移動する為か全てが108の星達で埋まっている。全部が全部関係者なのだ。どうすればいいのか分からない。そう考えた私の得策は、忍び込む、これだけだ。
ぎしぎしぎし、と音を立てながら進む。これ以上に近く、また遠い場所はないだろう。あとはこの船が沈まない事を祈るだけだ。さっさと争いが終われば、私はまたほんの少し解放される。
そのとき、くるる、と私のお腹が情けない音を立てた。明かりが漏れる鉄枠から、どこかふんわりと美味しそうな匂いが漂ってきたからだ。そういえば、この頃あんまりご飯を食べていない。少しくらい抜いても平気だけれどやっぱり三大欲求には逆らえない。
くんくんくん、と美味しそうな匂いが漂う鉄枠へと手を置いて、匂いを嗅いだ。(なんのごはんだろ)
そのときだった。ガゴン! と鉄がすれる音が聞こえたと思えば、体のバランスが崩れる。ぼすん、と顔に柔らかいものがぶつかって、落ちた! と思ったときにはもう遅い。ぺちゃんこになった鼻は、なんとか無事だった。
「い、いたたた……」
妙な体勢で体をくねったのか、ベッドに顔を突っ込んで、シーツを汚してしまったまま、体をあげた。ぺちゃんと女の子座りのまま、きょろきょろと辺りを見渡す。
何もない、質素といえばいいのか綺麗といえばいいのか分からない部屋は、一つの個室だったらしい。部屋の端っこに置かれたランプが、ゆらりと炎を揺らして主張する。
「…………おまえ、何してんだ」
ふいに響いた少年の声と、その少年の手に持つトレーからは暖かそうな湯気がふわりと動く。くんくんくん。思わずまた匂いを嗅いでしまった。
青い服を着た少年は、茶色といえばいいのか、金といえばいいのか分からない髪質で、不機嫌そうに眉を寄せる。
「………えーと、えへへ」
なんだかもう、失敗してしまったらしい。