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真っ暗な空に、ぽつりぽつり。小さな星がこちらに手のひらを振っている。
「、真っ暗だねえ」
「そうでもないよ」
「明日のご飯はなにかな」
「会話の流れにまったく持って沿っていないね」
とても唐突だったね、と言いながら、お互いプラプラ両手を振って細い道を歩いて行く。道の端に、ほたほたと小さな花がこぼれていた。ときおり風が拭いて、流れて、去って、散っていく。背負う荷物は少しばかり少なくなった。自分よりも非力で小さいから、ほんの少しだけしか持てないけれども、買った新しい靴をすっかり土まみれにさせて、彼女はくるりとの前を回った。
「危ないから」「ぬふっ」「変な声も出さなくていいから」 通り過ぎる行商人に頭を下げた。馬が土を蹴る音が聞こえる。手綱を握った男は、苦笑している。「ほら笑われた」「そんなことは」 あるかもしれない、と言いながら、ふと小さな風が吹いた。
「おおっと」
「今なんで君、必死にスカートを押さえたの。まさかまた履いてないの」
「…………そんなことは?」
「なんでこっちに聞いてくるの」
いっそのこと、スボンを履かせるべきなのだろうか。そうするべきだ。「カサネ。次の街で、買うからね。パンツとズボン」「ズボンは少し、動きづらさが……カサネ?」
なにそれ、と改めて言われると、少し声がでなくなる。相棒ではない。彼女は自身だ。苦しいと、そう思うとき彼女が一番に知っている。
「君の名前だよ」
***
仲がいい男女が通った。そう思った。家族だろうか、恋人だろうか。
ぱかり、ぱかり、と馬に歩を進ませて、空を見上げた。気づけばとっぷりと日が暮れている。もう少しで街に着く。すっかりと時間を間違えてしまった。途中で泥道に足を救われたことがいけなかったのかもしれない。
城門が閉まってしまう。それ以上に、暮れた日の中で馬と荷を歩かせ続けるのは阿呆の極みだ。(……彼らは、大丈夫なのだろうか) おそらく、あれは街から旅立ったのだろう。こんな夜更けに?
よっぽど腕に自信があるのだろうか。とはいっても、若い男女だった。とてもそうとは思えない。「おおい」 一回声を掛けてみようか。
ふと小さな親切心がくすぶった。よければ、一緒に街に戻らないかと。
ポクポクポク、と馬の足音が聞こえる。「あれ」 確かに男女だった。楽しげに笑っていた。そのはずなのに、今は一人しか見えない。立ち止まって、目をこすった。そうする間に、すっかりと姿が消えてしまう。もっと早くに声をかけるべきだった。とは言っても、もう遅い。
まあこんな夜更けに歩くくらいだ。旅慣れをしているか、もしくは近くに人がいるのだろう。気にしても仕方がない。大切な馬だ。早く休ませてやりたい。
申し訳ないねと馬の頭を撫でて、商人はそのまま街へ向かった。まあおそらく、気のせいだったんだろう。どちらが気のせいだったのかは、もうわかりはしないが。