5 story
買い物ペンギン仲良くなる
「これがいい」
「ダウト」
「なんだよダウトって」
カー! と怒りながら、私はテッドの手から服を取り上げた。さっきからこの子、安さばかりで服を選んでやがります。「いいかテッド! 値段は確かに重要だけど、なんでも安けりゃいーってもんじゃない!」 っていうか今回はテオ様からお金も貰ってる訳だし、もうそんなとこ気にせず自分の気に入るものを買えばいいのだ!
「いや別に俺はこれでいーっつーか。テオ様からポッチをもらってるってってもさー、こういうのは使う量をなるべく減らして返すのが礼儀な気がするっつーか、なんつーか?」
「ええい! 意外とそういうところを気にしちゃう男の子め!」
「お、男の子って言っとくが俺はお前より年上でさんびゃく」
「うっがー!」
お決まりの台詞を言おうとしたテッドの口を思わずむがっとふさいでしまった。というかこんな簡単に言っちゃだめだろうテッド! こんなところで実は真の紋章持ちで、三百歳ですなんてカミングアウトをされては困る。ものすごく困る。
よくこんな調子で今まで旅を続けて来れたよなぁ……と変な感慨を持ちながら手を放すと、明らかに不自然だった私の行動に、彼は気にすることなく……というか、言ってはいけないことを言いそうになったけどセーフ! 俺セーフ! と言った表情で彼はほーっとため息をついていた。「と、とにかくテッド!」「お、おう!」 そして二人でとても不自然に拳を握る。
「お金うんぬんのところは私がテッドに使わせたってテオ様に言うし、それに使えって言ってるものを使わないのは寧ろ失礼なんじゃないかな?」
「え、う、うーん」
テッドはぽりぽり頬を親指でひっかきながら、茶色い眉をひそめて、口をへの字に曲げた。「そ、……うだよなぁ……」「そうそう」 本人もうすうす考えていたことらしく、苦しげに返答した。
まあとりあえず本人の了承を得ましたということで、再び私は拳を握ってテッドを引き連れることにした。
取りあえず服だ、服だ、と思ってはみたものの、いうなれば私、ファッションセンスなどわからない。もちろん現代の格好なら多少は分かるが、今は幻想水滸伝な世界であって、私の中のセンスなど、ふーっと息をしてしまえばどこぞに飛んでいくレベルに通用しない。布の良しあしくらいなら分かるかもしれないけれども、ここはやっぱり年の甲より亀の甲、ということでテッドお兄さんにお任せした方がいいかなぁ、私は財布の中のポッチを数える係に専念しようかなぁ、とパチパチガマ口財布を開けたり閉めたり繰り返していると、ふとテッドがどこかを見つめていることに気付いた。
「テッド、気になるものでもあった?」
「え、あ、あ? なんでもねー」
「うん?」
絶対に何かを気にしていた。ショーウィンドウやらマネキンなんてものはありはしないけれど、棚の中に折りたたまれた服や、ハンガーのようなものがでっぱりにひっかけられたりと整理されている。うーむ、どれだと「なんでもないって」と私を制止するテッドの声は聞こえないふりをしてじっと商品を見つめる。「うむ」 わからん!
どれもこれも似たようなものばっかりだ。というか個性的すぎて私には理解不能だ。「テッドー、どれ?」「だからなんでもないって」というテッドの態度がなんだか悔しくて、もう一回目を皿にして考えてみる。そしてあっと気づいた。
「テッド、これ?」
青い色を基準としていて、首元にスカーフともマフラーとも言い難い布がセットになっている。下についている服はクリーム色で袖がちょっとぼわぼわしてた。簡単に言うのならば、彼が原作で着ていたあの服だ。
テッドは一瞬うぐっとしたような顔をして、「ち、ちがうしぃー」とわざとらしく目線を逸らした。なるほどこれだ。「おねえさーん、これくださーい」「う、うおおおおさんちょっと違いますってぇー!」「おねえさーん、この人ここで着ていくそうでーす」「うっしゃあああ人の話をききやがれー!」
はいはいどうぞどうぞ、とクリーム色の簡単なカーテンに包まれた着替え室へとテッドを放り込んだ。「まあまあ遠慮しないでよ」「だから違うっつーの! だああ俺人前で裸になるのは無理だって言ってたろー!」「その中ならだれも見ないって」
それでも中でごそごそと着替える音を聞いて苦笑したあと、先にお会計を済ませてもらう。もう買っちゃったよ、なんて言えばさすがのテッドも口を閉ざさずを得ないだろう。よしよし。「テッドまだー?」「まだだよこのせっかちくんめ!」「せっかちちゃんの方がいいな」「どっちでもええわー!」
ふんがー! と叫び声をあげながらカーテンの隙間からテッドは顔を覗かせた。そして思わずじっと彼を見たが、それ以上テッドは出てこようとはしない。そしてのろのろカーテンの中に顔をもどして、またごそごそと動く音がする。なんだろう、恥ずかしくなったのだろうか。
やっとのことでそこやら出てきたテッドを見て、「おおおー!」と私は思わず拍手をしてしまった。
そしてテッドは微妙に頬を赤くしながら、「お前は初孫の晴れ姿を見るおじいちゃんかっ」とやっとのことで台詞を一つ吐きだした。「だからおばあちゃんだって」「そういう問題じゃねー!」
はいはい、お会計も済んだんだから次行くよー、とテッドの背中を無理やり押すと、テッドは頭を腕に抱え込んで、「くつじょくだ……こんな年下に屈辱だ……」と呟いていた。
「いいもの買えてよかったじゃない」
「まあ、そうだなあ」
たしかになあ、とテッドはまんざらでもなさそうに、新しい服をごそごそと手袋をつけた手でいじくった。そういえば、4のテッドも青っぽい服を着ていたから、そういう色が好きなのかもな、と思って、「テッド、青色が好きなの?」と訊いてみた。
するとテッドは少しだけ意外そうな顔をして、自分の服を見てみた。「そうなのかもしれない」 今更気付いた事実のようにパチパチと瞬きを繰り返して、またぺたぺたと服を手で触る。「っつーか、なんかずっと前のこと思いだして、懐かしくなるんだよな」
ほんのり柔らかくなったテッドの表情を思い返しながら、なんのことだろう、と一瞬だけ考えてしまったけれど、もしかしなくとも、(まんじゅうずきの海の男の人のことかな)
そうかー、と私は一人で頷いて、まあまあとテッドの背中を押す作業をやめた。おおっと、とバランスを崩したテッドはばたばたと手を動かして、なんとなくその格好が面白かったのでゲラゲラを指をさして笑ってしまった。
「ま、あれですよ、テッドの新しいかっこ見たら、グレミオもきっと喜ぶ」
「あー……なんつーか、くすぐったいっつーか」
「この照れ屋さんめ」
「うるせぇこの強引くんめ」
「せめて強引ちゃんと呼べ」
2011.02.27
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