「ぎゃー、あー、あー、あー…………」
叫び続けて数十秒、なんかようやく頭が冷めてきました。
第19話 裏工作
取り敢えず、目の前でこてんと寝そべる女生徒をなんとかせねば、と考える。うつぶせになったままでは見かけも気持ちも色々と悪いので、ていっと体の半身を持ちながら横に寝かせる(……ところで、さっき全身全霊の力をかけてぴくりと動く程度ってどうですか)
とんとん、と顔をパチパチ叩くと、「うう……」と聞こえたうめき声に、お、生きてますね。とちょっと安心した(ついでにした呼吸確認もバッチリです)(時々鳴り響く彼女のお腹の音は聞かないフリをしてあげましょう)
(にしても、どしたらいいものか……)
さっき軽快に鳴り響いたチャイムは多分、授業の始まりってヤツで。不良と書いてヤンキーと呼ぶ素敵な方々以外、こんな場所を通るとは思えない。
結構力に自信がある自分が、この少女を保健室に運んでみてもいいけど(いっときますがお姫様だっこは無理です)実質不審者といっても過言ではない自分はもの凄く怪しい。
「……しょうがない、奥の手といきましょうか」
ずっと背中に掛けっぱなしだった鞄の中をごそりと漁って、真っ白い紙と一本のペン。さらり、と‘校舎裏’と書いて、よっこらせ、と立ち上がった。
この学校の地理は、頭の中に入ってる(ご主人様の学校ですから)
お腹をぐーぐー鳴らす少女には悪いけど、なるべく早くここから離れたい自分はたたっとそこから駆け出す。ついでに手頃な石を拾っておいて、ぶいん、と一回腕を振り上げながら何本も広がる木々の中にちょいっと投げた。うん、大丈夫、腕は落ちてない(と思う)
「よし!」
力一杯、地面を蹴り上げる。
このニューリーフ学園の保険医こと、若月龍太郎は真っ白な白衣に身をつつみ、ぷかりと大きな煙のわっかを口から吐き出した。自分はどうも考え込む時に大量に吸い込んでしまう癖がある。小さくシャカシャカと音をたてるヘッドホンに耳を傾けて、ああ、と先ほどの事を考えていた。
(なーにが、小食だっての)
聞くだけで気持ち悪くなるような量をぺろりとたいあげ、それでもまだ彼女は足りないという。一応自分の昼にと考えていたマドレーヌを渡したが、あれでもつものなのか(いや、もつわけがない)
正直言うと、アイツはちょっと、ヤバいのではないか、と思う。一種の過食症だ(いや、完璧にそうかもしれない)
ダイエット
頭の中に、その文字が煙と一緒にぷかりと浮かんだ。
ありえない、とかぶりを振った瞬間、いやこのままではアイツが危ない、と考える。
いや、しかし
(子どもの頃についた肉ってのは、落ちネェもんなんだよなぁ……)
こりゃぁ蛇の道だ。とふっと軽く笑いそうになった時だった。
こつん
窓に何かが当たる音がする。
気のせいだろうか。音がなったままのヘッドホンを外して、もう一度耳を澄ませてみる。
こつん
今度ははっきりと聞こえた。気のせいじゃない。
「おい、こら今授業中だろうが何考えて なんだこりゃ」
ガラリと勢いよく開けた窓から、同じく勢いよく飛んできた小さな紙飛行機。器用に作られたそれに、お、すげぇ、と素直に感動していると、その紙飛行機に何か書かれている事が分かった。
「‘校舎裏’……?」
急いで書かれたのか、少しいびつな文字のそれは、確かにそう書かれていた。
(嫌な予感が、する)
保険室のプレートを‘出かけています’と表示させて、たたっとその場から駆けだし、その紙飛行機が指す校舎裏へと足を運んだ。
教員用のスリッパが今はとてももどかしい(走りづらいんだよ!)
ち、と軽く舌打ちをして、スリッパを脱ぎ捨てた。パタパタと直に伝わる廊下の冷たさに一瞬身震いをした。
(嫌な予感がする)
杞憂に終わればいい。この空が実はビー玉で、それが砕けて散ってしまうのではないだろうか、と考えたヤツみたいに。
人っ子一人いない下足場に向かって、通り過ぎて、土の上を走り抜けて。
(嫌な予感が)
目の前に、ぽてりと倒れる、何かの物体を見つけたとき、一瞬血の気が引いた。微かに上下する胸に、呼吸をしている事はしっかりと理解できたし、それよりもさっきから辺りに響く、このグーグーとなる音。おい、お前ふざけんじゃねぇぞ
「……桜川」
起きろ
見たところ外傷がない。あるとすれば、コイツの腹の中だけだ。
「桜川!」
ぐー
腹で返事をされた事に妙にムカついて、その一方で妙に冷静になる自分がいた。
腹が減って倒れる? これはもう、末期症状だ。
「桜川!!」
ぐーぐー
ぱし、と腕を掴んだ。ぶよぶよする。ひっぱってみた。動かない。………お前はいったい、何キロ、あるんだ。
(これは、もう、やらせるしかねぇな)
蛇の道でもなんでもいい、それくらいの覚悟は、必要だ。
あのブラコンの兄に説明する台詞を考えつつ、いったいコイツをどうしよう、と途方に暮れた。
ガサリ。音がする。
真っ直ぐにそびえ立つ、緑緑しい木々の幹の上にひょこりと立って、「おっとと」と情けない声が聞こえる。ぐらり。一瞬揺れたその枝に、若月龍太郎が気づくことはなかったのだった。

2007.02.10
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