あの後光速でお買い物へと繰り出し、炊事、洗濯、どんとこい!
第20話 ダメですからね
「……つかれ、た」
がくり、と力なく落ちた自分の手が、今日一日、どれくらい疲労満点な一日だったかって事がよく分かる。あれは、疲れた。途方もなく、疲れた(思い返せばとても充実しすぎた一日でした)
丁度晩ご飯の準備も終了し、後はご主人様のお帰りを待つだけだ、と自分で自分を褒めてやりたいくらいです。
いや、それはいいんですが、
ガチャリ、と音と共に「……帰った」とぶっきらぼうに呟く声は、まちがいなく
「おかえりなさいませー!」
さあ気合いを込めるのだ! と体にムチを打ちつつも、ご主人様のご帰還(ちょっと大袈裟?)に玄関まで飛び出す。さあ待ってました、といわんばかりに。
「初日なのに、随分遅かったんですねー」
「…おう」
「ご主人様? なんでこっち向かないんですか?」
「…いや、まあ、いろいろと」
いや、色々じゃわかんないです。と帰ったばっかだってのに、ドアの方をじーっと見つめるご主人様になんだかツッコミを入れたい気がするけど、どこかそわそわとした彼に、ツッコンで良いものか、ちょっと考える(まずご主人っていっても何もいわないのが変ですよね)(あ、自分でいっててそれどうよ)
「ちょっと、ご主人様」
「いや、今日は俺メシはいい」
「こっち向きやがれでございませ、ご主人様!」
「嫌だっつってんだろうが!」
ち、と軽くした舌打ちに、おっと、と自分で自制をかける。けれどもその間にスタスタと自分の間を通り抜けて、お部屋の中に入ろうとしたご主人の肩に手をかけて、「ちょっと、もう、何かんがえて ギャア! なななななんですかそのお顔の傷はぁあああぁ!」「うるさい、近所迷惑だ」「ちょ、そんな問題じゃないですから!」
明らかにぽっこりと顔にある(朝出た時はこんなものありませんでした!)青いアザに、ぐらり、と一瞬遠くに行きかけた意識をなんとか持ち直す。ケンカ、もしかしなくともケンカですか、とハハハ、年頃の男の子にはよく有る行動さ! なんて笑い飛ばせないこの状況がとっても気に入りません。
「もう、ちょっとソコで待ってて下さいよね!」といって、手早くタオルと氷が入ったビニール袋を無理矢理座らせたご主人様のお顔にピッタリと当てる(そういえば、忘れてたけどこの人のご実家は極道でした)(こんなこと、日常茶飯事なのかも)(………先輩とかに目をつけられそうですし)
「何でさっさと帰ってこなかったんですか」
そしたら、さっさと冷やせたのに、と言葉の裏で彼を責め立ててみる。反論なんて、させませんよ、と。
「……お前に、なんかいわれそうだったから」
「自分の反応が恐かったんですか?」
躊躇いがちに開かれた口から聞こえた言葉は、なんとも可愛らしいソレで。ぷっ、とはからずして自然と洩れた声に、ふん、と目をそらされてしまった。
「今度は、ちゃんと、すぐ帰ってきて下さいね」
(その今度が来なかったらいいんですけど)
一瞬だけ小さく聞こえた彼の声に、また笑いたい気持ちになった。

2007.02.11
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