ある種の運命なのかもしれません。



第34話  地味に再会







ぼふり。そんな効果音とともに、自分のお鼻が少々ぺっちゃんこになったその瞬間。曲がり角にて、あららごめんなさいすみません、と頭を下げようとしたのだけれど、相手の人からの、「いやいや、僕の方がぼうっとしてたから、ごめんね」と爽やかな声が聞こえてしまったのです。

「いえいえいえ、私がもうちょっと確認していれば」
「気にしない気にしない」

ぴっと電源を切る音は、ケータイか何かなんでしょうか。とりあえず自分は頭をぺこりと下げたまま、彼の足元をじっと見つめていると、「頭を上げて、ね?」とまるで頭を下げているこっちの方に罪悪感が降り積もるような声に、ふいっと頭を上げてしまったことが勝敗でした。アウトでした。


「「あ」」


お互いぴったり重なった声に、相手の人はどこか嬉しそうににんまりと笑って、自分はもそりと一歩後ずさり。「久しぶりだね」と必要以上に輝く彼の表情を見て、「自分はまったく覚えてませんごめんなさいさようなら!」「あれ、ちょっと、ちょっと、逃げないでよ」「逃げますグッバイ!」


名前を教えてくれと執拗に迫られた記憶は未だに抜けず、たらりと頬に伝う汗を、ぬぐいつつ、彼の間をするりと通り抜けるように、まっすぐだだだだだ!
あと一歩でマンションだという距離まで力強く足を駆け抜ける! ふんぬう!


予想外にものんびりペースな青年の動きに、ほんの少しほっとした後、指をくるくると滑らせて、マンションのパスワードを押しながら、手持ちのカギをぐるりと回す。
これでもう追ってこれないでしょうはっはっは! そんな気持ちと共に、るんるん気分でポストを確認している最中、背後から、ガガガガガー、と聞きなれた扉が開く音がひとつ。「あれ」

振り返ったそこには、てっきり振り切ったとばかりに考えていたお兄さんが一人、柔らかい笑みのまま、クスクスと自分へと手のひらを振り、「あ、ここの住人だったんだね」「いえ、違います」「うん、そうだよね」「違います」

ゴトン。 
そんな音が頭の上で聞こえるなと振り返れば、そのお兄さんは、自分が確認していたはずのポストの列の一つへと、指を伸ばしていたことが分かった。なんとなく、びくりと肩を震わせてしまった自分が少々情けないなと思いつつ、じりじり。逃げ。じりじり。逃げ。


「これ」
「これ?」
「うん、これ、僕の名前」

神城綾人っていうんだ。


これからよろしくね、とにっこり笑ったその人に、なんとなく、一歩後ずさりしてしまいました。ごくり。





  


20090207
えーと、9話かな?