未だに扱い慣れない箸を使ってソルは飯を食べていた。



 語れ少年



「お前さ、別にフォークでいいって」
「いや、これは箸で食べるもんなんだろう」
「妙なトコで意地はるなぁ」

くつくつと笑う笑いは大きなテレビの音量に吸い込まれて、ケラケラと母親が笑う声が聞こえる。けれどもの目の前にうつるソルの手のひらは、時々ふっと透けて、握っている箸がカランと皿の上へと落ちるのだ。

「なんで、トウヤ探してんの」
「なに?」
「トウヤってなんだよ」

ハンバーグを小さく切り裂いて、口の中に放り込んだ。ソースの味ばかりが、口の中に広がる。ほんの少し肉が生焼けだ。

「何って、そうだな、仲間かな」
「なんでだよ。トウヤはこっちの人間なんだろ」
「俺が、俺の父親が、間違って召喚したんだ」

そんな事もあるのか、と返事代わりには肉を咀嚼した。特には何を聞いていた訳ではないが、ソルは言葉を続ける。ゆらゆらと彼の箸がうごめいていた。

「それで、まぁ、色々あって、俺はトウヤと一緒に戦って」
「うん」
「サイジェントってトコで、結構楽しくやってて」
「うん」
「トウヤが、そのうち、エルゴに認められて、エルゴの王になって」
「………うん?」
「結界を、はろうとしたんだ」

言葉の節々に、理解できない単語が混じったが、はおとなしく頷いた。ソルはゆっくりとハンバーグを口にする。彼はみそ汁には驚くが、洋食には驚かないところが少し不思議だとは常々考えていた。

「召喚術を、使えないようにする結界を。でもやめた。俺もそれでよかったと思う」
「で」
「そのとき、界のはざまにいたとき、トウヤははじき飛ばされたんだ」

だから、名も無き世界へと来てしまった。全容の理解は少々難しいが、端々なら理解できる。はコップにソルと自分の分の茶をつぎ、ごくりとそれを飲み干すと、疑問を尋ねる事にした。

「じゃあさ、トウヤってヤツはこっちに戻ってこれたんじゃん。なんでソルはここにいるんだよ。元に鞘に収まったってヤツだろ」


カチャンっ、とまた皿の上へと箸が落ちる音がしたが、これは別にソルの手が透けた訳でもなんでもない。ただ彼が指を滑らせてしまっただけだ。「悪い」と呟くソルを、はじっと見詰め、二杯目の茶を飲み干そうとしていた。「で」促す。「なんでソルはここにいるんだよ」言葉を促す。

ソルはこの間と同じように、暫く手を見詰め、軽く瞳を瞑った。

「………よく、わからないが」 合いの手を入れる事はやめた。静かに彼を見守る。ぱくぱく、と、軽く唇を動かし、「多分、俺がもう一度、アイツに会いたいだけだと思う」

「ソル」
「ん」
「トウヤ、見つけるぞ」
「おう」




1000のお題 【282 異論は許さない】




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2008.08.12