懐かしい手紙が届いていた。
ポストというものはない。手紙が届いていれば、名前を呼ばれる。、と書かれた手紙には、案外可愛らしい文字とうさぎの便箋だ。立ちながら張られていた糊を指ではがそうとして、道行く人に目を向けられたものだから、慌てて壁にそった。頭を下げると長い髪が邪魔になると耳にかける。
へ。元気にしてる?
出だしは相変わらず元気な文字だ。
とは、もう随分会っていないけれど、あんた、ちょっとはこっちに手紙を書きなさいよ。筆不精にもほどがあるわ。たまには、休みをとって遊びにきてよ。あたしも結構召喚術を練習したんだから。パパも舌を巻くくらい。ついでにポムニットもおしとやかにしなさいって毎日頭を熱くしてるけど
くすくす、と笑ってしまう。
ああ、あと、そっちにルシアンも行くことになったからね。
パパの説得、あたしも手伝ったんだから。
「え」
顔を上げた。
手の中の手紙を急ぎながらも丁寧に折りたたんで、ポケットにいれる。はたはたと走ればふいに頭を下げられた。こちらもぺこりと下げ返すと、おそらく彼は新人なのだろう。少し不思議気な顔をして、あっと口を開けて驚いた。その顔を見ると苦笑した。
髪を伸ばすと、間違われる回数は減ってきた。その代わり、彼女だって背が伸びたから、間違えやすくもなった。副隊長、と呼ばれて気を抜くと挨拶をしてしまうときまである。「アルバさん」 ころころ、まるい、可愛らしい声だ。騎士の宿舎のドアを叩いて名を呼んだ。この時間ならまだいるはずだ。
「……? ああ、一緒に訓練に行くかい?」
「違います! アルバさん、見てください」
「リシェルから……?」
ん、と目を凝らして、よりもずっと高くなった背でこちらを見下ろす。相変わらず、はアルバといると耳が赤くなってしまう。の気持ちがアルバにバレてしまうのではないかといつもひやひやしている。読み終えたのか、アルバがふっと瞳を大きくした。「アルバさんのところにも、ルシアンさんからの手紙が来てるかも」 の返事の前に、アルバが頷く。
「一緒に」 行く必要はない。はさきほど寄ったばかりだ。なのにアルバは振り返ってしまっていた。「はい、一緒に」 行きましょう、とがつんとアルバの服を掴む。それに弱い。
「…………」
昔のほうがよかった気がする。
ただ、を好きでいられた。それだけでよかった。もし、が騎士団に来なかったとしても、それはそれで仕方がないと思っていた。いつかまた会えるだろう。と目の前に精一杯だった。
なのに、なんでこんなにかわいくなってしまったんだろう。
アルバだって、背が伸びて、年を増やしただけではない。気持ちだって変わっていく。ときおり、ふとしたやましい気持ちが生まれるようになった。そんな自分に驚いて、聞きかじりの知識を思い出して顔を赤くする。それを知られないと必死になる。
伸びた髪はきらきらとして、ときおりふと触りたくなる。アルバさん、と照れ屋の彼女が自分に笑いかけてくるたびに、これは自分だけなのではないかと錯覚する。
「楽しみですね。ルシアンさんにも暫く会っていませんし」
「そうだね。どれくらい強くなったのかな」
「勝負しますか?」
しようかな、と笑った。思わず頭を撫でそうになった。
そのあと、彼女にそっくりの門番のような男を思い出して、手を引っ込める。
近いうちに、限界が来るのかもしれない。
そんな彼のことを、彼女はまだなんにも知らない。
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2015/09/23