悪魔の姿のままでは、彼女たちの前にいることはできない。
そう覚悟して、ポムニットはリシェル達の前から姿を消した。けれども、拾われ、元の姿に戻る法を、“彼ら”に教えてもらった。そして彼らの事情も知ってしまった。

もう戻ることはできるのに、戻れない。戻りたいのに、後ろ髪をひかれる。その繰り返しだ。

彼女の記憶には、小さな少女と少年がいた。小さくて小さくて、ポムニット、と手を伸ばしてこっちに来て、一緒に遊ぼうと言ってくれるのに不安だった。私は本当に彼女達触っていいんだろうか。壊れてしまわないだろうか。
母と同じように、死んでしまわないだろうか。




***


「とりあえず結構神妙っていうか、真面目な雰囲気だったくせに、結構さらっと戻ってきたわよね」
「うふふふ〜〜!!」

だってお嬢様が戻ってきてもいいて言ってきてくれたんじゃないですか〜! と幸せいっぱいにほっぺたに手のひらを当てるのは元敵、でもその前は元メイド、そしてまたまた現メイド、ポムニットである。平手一発、少年少女の涙と一緒に舞い戻ってきた彼女の一番最初の指南は、土下座だった。

仕事、ほっぽりだして、どっかいっちゃって、すんませんでした


街の元締めテイラー、つまりはリシェルとルシアンの父、ポムニットの元雇い主に向かって、深々と土下座した。もちろん、リシェル達も連れて。
もう一回、雇ってくださいませ、という彼女の懇願にテイラーは口元の髭を揺らした程度で、案外軽いものだった。

     長い間、休暇もやっていなかったからな

暗に、長期の休暇と捉えている、という意味だ。

「パパも案外話の分かる髭なんだなあってちょっと感動したわ!」
「それは多分、姉さんがポムニットさんがいないといつも以上にとんでもなくわがままだから、辟易していたんだと思うよ……」

というか髭とはなんですか髭とは!? と叫ぶポムニットもめげない。

それにしても、とポムニットはライの宿屋を見回した。お嬢様ったら、相変わらずライさんの宿屋に居座っちゃってるんですわね、なんてため息も頭の中でひとつ。
しかしなにやら、知らない人が増えている。武器を片手にはじめましてを行った人もいたりいなかったり。
そして彼女は瞳を大きくさせた。このまなこ、逃しはしない。

「……おじょうさま?」
「なあに?」
「気のせいでしょうか……なにやら、愛! の雰囲気を感じ取れるのです……」
「あんたよくわかんないけどすごいわね」

あ! い! と結構力強く発音していた。「でもなんていうか、ゴロがよくないですね……なにかいい感じの言葉はご存じないですか? ライさん」 唐突に話しかけられたが、一応ライも考えてみた。「……ラブ、とか?」「いい感じの響きです! ラヴ! それです! ラヴの雰囲気です!」 なぜだか教えられたポムニットの方が流暢な発音をしてみせた。

「あの二人、なにか進展したんで、しょうか……!!??」

指差すは、お互いせっせと洗濯物を干す、金髪の少女と茶髪の少年である。「……進展、したっていうか、してないっていうか……」 若干すすんでるっていうか、とリシェルは唸った。「す、すすんでる!? そんなまさか、きき、清い関係と信じていたのにさんとアルバさんったら!」「いやそれ言葉のあやだから」 あんたが今想像したのは多分ないから、とビシリと突っ込む。

あ、そうなんですか? とポムニットは若干不満気に窓枠にひっついている。一体どっちだ。
「でもお嬢様、なんていうかこう、この間見たときよりも、初々しさに拍車がかかっているような……」 下手をするとご新婚のような……? と目を爛々に輝かせるメイドに、「あんた、いらんことはしないよーにしときなさいよ……?」

「いらないことなんて、そんな」 ポムニットが両の手をきゅっと口元に持っていく。白いひらひらしたレースの手袋だ。人に触ることは、やっぱりまだ抵抗がある。この手袋は一生外れないかもしれない。
「楽しく、そわそわしながら、お二人を見つめるだけですっ!!」
「…………まあいいけどね?」

気持ちはわからんでもないけどね? とリシェルはポムニットと一緒に彼らをそっと覗いた。「ア、あるばダー!」 洗濯物、ぐらんモ一緒にスルー! とどてどて階段を転がりおちるようにやって来た機械兵士を、「「しーーーーー!!!!」」 二人がかりでふんじばった。


「エエ??? エエエエエ????」
「グランバルド! あんたちょっとシーよ、シー!!!」
「いいところなんです、今いいところなんですから!!!」
「イ、イイトコロ……?」
「見てみなさい!」

びしり、と指差す。「ほら、今洗濯物! 一緒に持った! そしてほら! 一緒に手を放した! そんで落ちた洗濯物を必死で二人で拾った!」 解説である。というかほぼ実況である。「何度同じことをしてるんでしょうかね……。さんが真っ赤になってらっしゃるのは通常運転かとおもいきや、アルバさんもひどく動揺していますね……」「それがねこの頃あいつよく赤くなってんのよ……そういう感情があったのねってちょっと安心したわ」「爽やかの塊で生きてるのかとちょっと不安になりそうでしたものね」 ひどい言われようである。

そんな彼女二人の様子を見ながら、ライはせっせとフライパンを動かした。女って、なんでああいうことが好きなんだろう。「ぐらん、洗濯物ォ……」「「しーーーー!!!」」「お前ら油売ってるなら、窓の掃除の一つでもしとけよ……?」






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2015/09/23

→33話