大変だ、私の家には、もう食料なんてありはしない。


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ぐぅ、となるお腹の音も鳴りすぎると音がならなくなると言う事は、つい最近知った。きゅ、と小さく体育座りを、リビング(…というにはあまりにも狭いけど)でして、ころんと転がる。極限まで体をちっちゃくさせて、呼吸をする回数も減らす勢いでいれば、意外と人間一日ほど食べなくてもやっていけるのだ。

(…お母さん、娘はあなたがいなくなってから、3キロは痩せました)

年頃の女の子なら、やったー、ラッキーって思わなきゃいけないトコかもしれない。けれども一ヶ月でコレ。この状態が、私は永遠に続いていくのだ。…うおおう、恐ろしい。


ころり、と転がって(もはや動く事も億劫なのです)時計を見た。………バイトの時間まで、あと一時間(準備、しなきゃ)

ちなみに私、は中学生である。当たり前の事ながら、中学生はアルバイトなんてしちゃいけない、禁止だ、言語道断だ。

      じゃあ何で、アンタバイトなんて

きっと今の私の状態を見たら、多くの人は疑問に思うだろう。私は残念ながら人並み(もしくはそれ以下)の発育なので、実はちょっとちっさめの高校生なんです☆てへ。なんて出来るはずもなく。

話は一ヶ月前に遡る。私の母親が事故死した。
車にはねられた、とかそんなんじゃない。このアパートの階段から足を踏み外してしまったのだ。私に父はいなく、唯一の稼ぎ柱と、唯一の保護者を同時に失ってしまった瞬間である。

うちは親戚一同から縁を切られた存在だった訳で、母の銀行の通帳も、正直半年暮らせるかのレベルだった。母が死んだ後、初めて見た通帳で、私は愕然としたものだ(……ここまで、生活圧迫されてたのかー)(負担、掛けさせてたなぁ)

母親の負担は私へと回ってきて、必然的に何かの収入源を見つけなければいけない状態となってしまった。

母は元々ケーキ屋を営んでいた。とはいってもそんなに大きなものじゃなくて、小さな個人店舗だ。私も時々手伝ったりしてた訳なのだけれども、その店も、もうどこかの人でに渡ってしまったらしい。
私はその頃の母のつての、近くのケーキ屋へとこの間訪ねてみた。気の良いおじさんで、母の事を伝え、厚かましい事に、生活援助の申し出をしたのだ。…もちろん、労働力提供で。
おじさんの性格から断る事なんてないのを知っていたし、労働力提供で、その時間に応じた“お小遣い”をおじさんから頂く。店で働く人たちには、おじさんの親戚なんです、と嘘をついた。

持てる時間、全てを使って働きだしたのが一週間前。お給料日はもうちょっと。

所詮私が頑張った所で一般高校生+αの所得が貰えるだけで、日々の生活に足りる訳がない。じゃあどうするか、なんて訊かれたら、極限ギリギリの生活しかないじゃないか。

「…うう、」

あ、ダメだなんかフラフラする。

けれども私は立たなきゃならなくて、「よっこいせ」と(おばさんくさいらしい)掛け声をあげつつ、床へと手を伸ばす。けれどもその「よっこいせ」からもう覇気がない、死にかけだ。いや生きてるけど。
足を伸ばしてまっすぐ立って、トテトテと、(他人から見たらペンギンみたいに)歩き出した。…だって、しんどいんだもん。

(そろそろ、何か食べないと、もたないかなぁ)
…ん、そろそろ考えるのも億劫になってきた。

冷蔵庫、と移動しようとして、そうだコンセント抜いてるから意味ないや、と棚のカップラーメンへと移動。暗くなりかけの夕日の中で、長い廊下に沈む影が、カップラーメンの棚が見えなくさせている。(……電気、は、やめとこ)今は一円でも惜しいときなのだ。

かといって、ロウソクなんてものが都合良く有るわけでもなく。
ちっ、と軽く舌打ちして私はついっと二本の指を目の前へと寄せて、眉の辺りに集中する(久しぶりだけど、できるかな)

そんでゆっくり声を紡いだのだ。
「雷帝…招来(手加減、手加減、手加減)」

ピシッと指の辺りに灯る光に、ふう、と一つため息をついて、一平ちゃんを見つけた時、思ったのだ。……お湯がない(沸かす時間もない)
きゅっと右手を出して火でも出そうかな、と思って止めた。案外これ、体力使うんだよね(っていうか失敗して煙硝とかシャレになんないよ)




トントン、と靴を履いて、つま先を玄関に打ち付けた。腕の時計を確認して、戸締まりをと見ようとしたとき、ドアポストの中に一通の手紙が入っている事に気が付いた。
差出人だと思われる場所に、はっきりと書かれた『李』の文字。

「……縁なんて、とっくの昔に切ったくせにさ」
今更、だ。

後で読もう、と思って、もう一度、ポストの中へと入れた。
カタン。
響いた音を確認して、私はドアを開けた。