「夏……ですねぇ」
「そうだなぁ」
「夏休みですねー」

06


夏休みの忙しさで、お店の方もくるくるくるくる大回転。ぎゃああ、ああショートケーキが品切れで、チョコケーキがあと少し! ええっと、うわわ、切り分けてくださいロールケーキ!
いつもの平日と比べると、いいや比べるまでもないこの熱気やらなんやらに(もちろん店内は涼しいはず!)お昼休みの休憩を頂いたときは、思わずぐでっと休憩室の机へと顔をべったり預けてしまった。

同じ時間に休憩を頂いたらしい桃矢先輩といえば、涼しい顔でお昼御飯らしいおにぎりをもそもそとほうばっていらっしゃる。………流石、現役サッカー部は違うなぁ、とため息をついてしまいそうになった。サッカーの練習の合間を縫ってバイト三昧な先輩に、本当に尊敬してしまう。寧ろその体力半分でいいので下さい先輩!

あんまりにもじーっと見詰めてしまっていたからか、私の視線に気づいたらしい先輩はおにぎりを片手に「なんだ、お前これ欲しいのか」 ………遠慮、しときます。

「そういえば、ペンギン大王公園で祭りがあるらしいな」
「あ、知ってます、私行きますから」
「じゃあ」
「店長のツテで、お手伝いさせてもらえるお店紹介させてもらったんですよ!」
残り物を持って帰ってもいいとの事で!

なんでも焼きそば屋さんらしい。こんな事をいうのは間違っているけれど、たくさん売れ残りが出るといいな! と思わず天に祈ってしまう私は間違っているのだろうか。先輩は小さなため息をふー、と吐いて、「どうしました?」「別にいい」



早くお祭りにならないかなぁ、と思いながら端っこが所々さびているパイプ椅子に、ぎしっと体を預けて、やっぱり所々黒ずんでいる、白い(寧ろ灰色かな?)の天井を見詰めてみた。天井の染みを見詰めていると、人の顔に見える、なんてホントだろうか(私には全然そうは見えないんだけどな)
きゅるきゅるきゅる。うう、お腹すいた。


、昼飯は」

ぱくり、と口元におにぎりをつっこんだまま、自慢の三白眼で、じーっと先輩はこっちを見てくる。「え」思わずあげてしまった声に、またまた視線はきつくなって、もう寧ろ、これは睨んでいるといった方がいいのかもしれない。

「あ、後で、たべます」
「今食べればいいだろ」
「おなか、へってないので」
「食べとかねぇと、午後もたねぇぞ」
「………え、と」


(お昼飯代をケチっただなんて今更いえない、空気だ)
ごくり、と唾を飲み込んで、しょうがない、外で食べてきますとでもいって、トイレにでもこもってよう、とガタリとパイプ椅子を引いて、にっこりと先輩へと笑顔を作ったそのときだった。「ほれ」

差し出されたおにぎりは、私にすると十分に大きくて、ぎゅ、と握りしめた拳よりも、ほんの少し大きいかもしれない。長い先輩の腕が、机ごしの私の手の中に、無理矢理押し込めると、おにぎりを包んだサランラップが、きゅ、と手の中で音がなった。あ、形がちょっといびつになったかもしんない。

「え、せ、先輩」
「食えよ」
「いいですよ、これ先輩のじゃないですか」
「いいから食えって」


でも先輩、と口を開こうとしたら、ばしっと垂直チョップに、ばか、と小さな声。「昼飯食って無くてふらふらなヤツフォローする方が大変なんだっつの」

思わず、ほんの少し、唇を、噛んだ。(違う、これは先輩なりの、気遣いなんだ)それでもいわれた言葉に、ああそうか、と感じる私と、恥ずかしい、とかっと顔が赤くなってしまうような気持ちに、ぎゅーっと挟まれて、手にもたされたおにぎりが、また、ぎゅ、と形を変える。手の中だけを、見詰めて、「ばか、食えって」


口の中に、久しぶりに詰め込んだお米は、美味しかった。冷たい御飯だったけれども、ぷちぷちとなる口の中の食感と、ほんの少しのお塩と、うめぼし。きゅるきゅると鳴っていた私のお腹がバカみたいだ。


「うまいか」
「おいしい、です」


俺の手作りだ、たんと食え、とにかっと笑った先輩に、どうにも複雑な気分になったのだった。
(はやく、お祭りに、ならないかなぁ)