夏に、なりました。
05
「プールかー」
随分久しぶりだけれど、まぁ大丈夫かな、と独り言を呟いた。久しぶりのスクール水着を着て、ピッピと準備体操。我先にと飛び込むクラスメートを横目に、のんびりと水に浸かる(うああ、つめたー)はねた水に、ほんの少し体を肩までつける(そういえば、あの鳥、どうなったのかなぁ)
いつの間にか聞かなくなった正体不明の風の話に、もしかしなくとも、さくらちゃんが、なんとかしちゃったのかな、なんて(思っちゃうんだよね)「……クロウ、カード」
思いついた単語を、声にしても、どうしても思い出せない。ほんの少し思い出せる程度には、おそらくお母さんから、聞いたんだろうって程度。
水の中を、すいーっと泳いで、当たる日差しに、ううん、と目をこすった(なんか、李家に関係してた、気がする)
はぁ、と吐いたため息に、ほんの少し、魔力のニオイが、ぷうん、と漂う。「またクロウカード?」 呟いた声が、誰に響く事もなく。
つんっ、と誰かに足を引っ張られた。周りの声が一瞬遮られ、水の中へと体を引っ張られる。「……っ」そんなに高くもないプールの丈のはずが、ごぼり、と口元から大きな泡が洩れた(なにこれ!)
右足の周りを、ぐるぐるとした何かが覆う。水の、水流のようにも見えるソレは、いくら足を動かそうとしても、びくともしない。ごぼり、とまた口から泡がもれた(クロウ、カード?)
ごくり、と唾を飲み込んで、そのぐるぐるとしたわっかを見つめる。(おちつけ) 心を静めろ。
やめなさい
語りかけた。ぐるぐると私の右足を引っ張る力が、ほんの少し弱くなる。すっかりと渦巻きの勢いをなくした、魔力のナニカに、ほんの少し、右手に、光を灯して。
あなたは、一体、何なの。何が、したいの。
頭の中に、小さな、少年のような声が、響く。それはさながら、何かの警告音のように響くもので、じん、と頭の隅っこが、妙にしびれた。
(僕は、クロウ、カード)(クロウの、つくりし、カード)(僕の、主を )
………残念だけど、私はあなたの主じゃない
ぐるりと、世界が反転する。水の中で太陽に照らされた光が、ほんの少し透き通って、“クロウカード”を照らした。その中に、いつの間にか自由になった足と、手を、包み込むように、抱いて、(もう少し、おやすみ)
呟いた声は、水中で聞こえるはずもなかった。すいっと消えていく“クロウカード” (主人ってのは、やっぱり)
ざばり、と音をたてて、水中からやっとこさ顔をあげた。「ちゃん、随分長い間潜ってたねぇ」 聞こえたクラスメートの言葉に、「まぁね」とほんの少し苦笑した。