こんにちは、俺は副会長になった。


第1話   先輩と俺が、初めてあった。




生徒会といえばといえば生徒会。に任しとけば大丈夫だ。そんな言葉、背中にエールで送られて、俺は高校に入っても生徒会へと思いっきり飛び込んでみた。
けれども俺は別に会長になりたい訳じゃない。敢えていうなら副会長くらいが一番ベスト。書記とか会計でも問題ないけれど、中途半端に周りに舐められそうなもんで、副会長。

だいたい生徒会ってのは役職なんてまったくもって関係ないのだ。小学校の児童会でも、中学校の生徒会でも、会計が募金のときだけ仕事をし、書記が生徒会新聞を作るときだけ力を発揮していた訳じゃない。そんなの結局はみんなで分担するだけだ。
一致団結となって生徒をまとめる生徒会。なんてすがすがしい。なんて素敵な。なんて可憐な。
けれども実際には、そんな事ひとつもない。みんながみんな仕事好きなんて訳じゃない。7人役員がいれば、4人しかまともなお仕事をしてくれないのだ。
定例会になれば用事があるからと抜けだし、冊子を作って生徒に配るとなれば、何故か予定の半分しか出席しない。

お前らいったい何のために生徒会に入ったんですかと俺は毎回問いたかった。けれどもめんどくさくて放っておいた。
やる気がないやつは放っておけばいい。下手に関わると俺の体力が吸い取られるだけだ。特に会長なんてやるやつは目立ちたがりの役立たずだ。そんな凝り固まったへんな理屈に溢れていた俺は、高校の生徒会長にも適当で前に挨拶でもさせておいて、生徒会全体をまとめるときは適当にやっかい払いさせてもらおう。そう決心していたりした。

けれども俺のそんな野望は、あっという間に吹き飛ばされてしまったのだ。



高校の生徒会室は、やっぱりおもしろいくらいに汚かった。今までの生徒会の活動が目に見てとれる。ちらばったプリントに埃のつもった床と廊下。おんぼろパソコン。何故だか適当に配置された、生徒の暇つぶしにでもしていたらしい雑誌達。

生徒会室なんて生徒と関係のないような、端っこの教室に隔離されてしまうのだから、誰も掃除になんて来やしない。
つまりは自分たちで全部掃除もしなけりゃならないのだ。
自分たちが担当する部屋が汚くて、一体何が生徒会か。めんどくさい。やっぱりここの学校も、今までと同じでやる気のないヤツに、やる気のあるヤツが利用されていたに違いない。
今年から新しく生徒会顧問になったという、へらりと笑った顔の東という教師も、なんとなく気に入らなかった。

そんな訳で、初めて集まった生徒会メンバーに挨拶をするという、会長のありがたいお話も、俺はまったくもって興味が湧かなかったのだ。


ふわぁ、と大きくあくびをしたその瞬間だった。

「おいそこの一年副会長」

いきなり呼ばれた役職名に、俺の体はびくんと震えた。なんとなく会長なんかの声に震えた俺の体が情けなくて、メガネの黒髪の優男のにーちゃんをじろっ、と見据える。「なに」 喉から出した声は、案外低かった。

「なにじゃない人が話してる最中にあくびすんな常識だろーが!」


あんまりにも堂々と、腰に手を当ててズバリといいきった会長に、俺はぽかんと口が開きっぱなしになるような感覚に襲われた。
会長は大声を上げた事でずれたメガネを右手の人差し指で備え直して付け足した。

「それからこの生徒会室。あんまりにも汚いからな。掃除だ。まず掃除だ。おいそこの一年副会長、どっかの教室からホウキとちりとりパクってこい」
「は」
「はじゃない、そら行ってこい」

あんまりにも横暴な態度に、怒りも何も湧いてこなかった。パクってこい、と自分でいったくせに、ご丁寧に俺の前へと突き出された貸し出し許可書に、自分の名前をささっ、と記入して、その下に書かれたとホウキ3本とちりとり1個。

突き出された小さなわら半紙を、俺はぼけっ、と見詰めていた。
東という教師は、相変わらずにこにことした笑みで、懐に抱きかかえるようにしていた筆記用具の中から判子を取りだして、ぽこんっ、と貸し出し許可書へと赤い印を付ける。

「5分以内だ!」

と叫ぶ会長の理不尽な時間割り当てに、急いで廊下を駆け抜けた。
会長の名前なんて、まったくもって興味のなかった俺は、選挙のとき、ぼけっ、と意識を飛ばして壇上の上で生徒を見詰めてみた。集まったらカボチャに見えるっていうけど、どっちかっていうと俺は黒ゴマに見えるなぁ、とかマヌケな事考えていた。

ドキドキする心臓は、決して俺が廊下を駆け抜けている所為じゃない。走っちゃだめなことは分かっている。せかせかと歩く早歩きの俺は、端から見れば随分奇妙で、生真面目な生徒に見えるだろう。

手の中で握りしめた紙が熱い。
ほんのすこしくしゃりと崩れてしまった紙を、立ち止まって、廊下の窓で引き延ばした。
よどみのない、達筆な文字が、外の光から照らされて、ほんの少し透けた。
『塚原要』

そのとき俺は彼に、会長に、いいや塚原要先輩に、一生ついて行くと決めたのだ。
(そうだ5分以内だ!)



 


2008.07.16